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戦い終えて

「だいじょ......」

 大丈夫だから安心して良い、とスティーヴィーにしては長セリフを言おうとするのだが、目の前が真っ暗になり、意識が遠のいていくのが分かった。これは魔力切れか、思い返すとボスの目に剣を突き立てた時、無意識に全力の魔力を集めていた。だからこうやって魔力が無くなったのは無理ない、と思いながら落下する自分を感じ、意識を失った。


「スティーヴィー!!」

 マモルはボスの目に剣を突き立てたスティーヴィーが剣を手放し、ゆっくりと身体を傾け、背中から落ちるのと見ていた。ゆっくりと落ちていく。まさか、勝ったのにどうしてだ?と思いながらも、身体は動き、スティーヴィーを受け止める。


 スティーヴィーの顔はいつもにまして蒼白になって見える。抱いた身体が冷えている。これは魔力切れか。もうこれは自然回復しかないだろう。幸いなことにボスを倒したことで、フェンリルの統制はなくなり、逃げていった。

 

 ミワさんのテントにスティーヴィーを運ぶ。ミワさんのテントの中は、見目麗しい美少女たちが横たわって休んでいる。本来なら、なんともかぐわしい匂いがするはずなのだが、スティーヴィーを中に入れたせいで血の臭いが濃密に漂うことになってしまった。

『Clean』

 と唱えてみたが、血の臭いが消えない。これってもしかしたらテントの周りの臭いなのか?もう良く分からなくなっている。


 フェンリルたちが消え、しばらくして陽の光が差し始めた。それによって、惨状が明らかになってきた。人の死体も多いが、マモルたちの周りはフェンリルの墓場と言って良いくらいに死体が散乱している。そしてフェンリルのボスの死体がある。マモルたちの周りから離れると、兵士の死体の方が圧倒的に多い。果たしてどれだけ死んだのか?生き残った兵士は半数もいるのか?何かしら傷を負っているように見える。

 マモルはそう思い身体を動かし、兵士とフェンリルの死体を魔力袋に収納していく。収納できない兵士は生きているのであるが、生きているだけで、もうすぐ死にそうな兵士は楽にさせて魔力袋に収納していく。むしろフェンリルの方が、四股のうち一本二本失って倒れているモノもいる。それは容赦なく殺して収納する。収納する前にせめてキレイにして納めたいと思い、

『Clean』

 と掛け納める。 


 テントからミワさんが出てきて、青い顔をしながらも治療を始めた。


 手と足の2本を失った兵士がいた。意識があり、辛うじて息がある。

「ころ…して......く......」

 とマモルに言い、目を閉じた。ミワさんにこの男が助けられるのか?自問自答するが、無理だと判断し、そして男の心臓にナイフを差し込み、魔力袋に納める。こんなことが続くと、神経がマヒしてくる。オレはきっと地獄にさえ行けないだろうと、思ってくる。ふと顔を上げると、少し離れたところで、嗚咽をこぼしながら仲間の兵士のとどめを刺している兵士がいた。そして少し離れた所にまた一人。


 ミワさんの治療が進むと、立ち上がって治療の手伝いをする兵士が増えてきた。そして周辺の兵士たちが集まって来て治療を始める。


 マモルのテントの周りは死んだ兵士、重傷者が多いが、少し離れると死傷率は下がってきた。そしてフェンリルの死体も小型になっている。これはもしかしたらボスの周りのフェンリルは強いフェンリル、大型で凶暴なモノが集まっていたが、ボスから離れるにつれ、小型で攻撃力の弱いモノになっていたのかも知れない。そして距離を取ればさらに兵士の死体はなくなり、ほとんどフェンリルの死体ばかりになっていた。フェンリルのボスはマモルとスティーヴィーのところに最強の戦力を集中したのかも知れなかった。そう考えると、マモルたちの周りに配備された兵士たちは不運だったと言えるだろう。

 

 マモルは背伸びしてサキライ帝国の方を見る。立っている人間はいないように見える。いくつか煙があがっているが、あれは炊飯の煙ではないだろう。煙の周りに人が立っているようには見えない。フェンリルの群れが最初に襲ったのがサキライ帝国軍で本当に良かった。あれが最初に大公軍を襲っていたなら、マモルたちを残して全滅していたかもしれない。いや、マモルたちも死んでいたかも知れない。それくらいに際どかったと思う。


 テントを見ると、モァたちとマリヤ様たちが座ってマモルの方を見ていた。全員が無表情で視線がマモルの作業を見ている。


 マモルがモァたちの所に歩み寄って、

「お腹空いたか?干し肉くらいならすぐに出せるけど」

 この状況で食欲なんてないだろう、と思ったのだが、

「ちょうだい!」

 モァが手を出した。

「私も」

 ユィも手を出す。スゥも手を出して来るし、マリヤ様カタリナ様も手を出した。どんな状況でも食欲はあるんだな。と思いながら一人ずつ干し肉を渡す。


「こんなでも帝国がポツン村を襲ったときよりマシよ」

 モァがマモルの顔を見て言った。


 そうか......あの時の状況をマモルは知らない。ここは戦場で兵士はプロフェッショナルなんだ。しかしポツン村は農民が帝国軍と戦った。男女を問わず全員が戦い、多くの村民が死んだ。サラさん、アノンさんも命を落とすくらいな惨状だったのだ。それを経験している者にすれば、ここの状況はまだマシということなんだ。

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