命をかけてもフェンリルを倒す!
首をひねってボスを見る。ボスの目に嘲笑の色が見えた。スティーヴィーを跳ね上げ、宙に舞わせている。このまま自由落下するスティーヴィーを仕留めるだけだ、そう思っているようだ。
ボスの口がガバッと開き、喉の奥が光る。その光は強く輝き大きくなる。それが自分に向けられているのがスティーヴィーにも分かる。あれをどうにかしないと!
『Defend』『Defend』『Defend』『Defend』『Defend』
確かマモルがこうやって使っていたという記憶を頼りに、ボスとの間に障壁を作ってみた。ボスの口の光が少しかすんで見える。重ねるに従い、ボスの姿がぼやけて来た。その途端、目の前が真っ白に輝いた。一番前の障壁が一瞬でなくなったのが感じられた。
『Defend』『Defend』『Defend』
二番目、三番目の障壁が消えていくのを感じてさらに重ねる。ボスの口からの衝撃を障壁が受け止めて、スティーヴィーの落下が止まっている。見るとボスの周りにフェンリルが集まってきて、スティーヴィーを見て吠えたてている。
目の前に広がった真っ白な光が一瞬で消えた!なに?どうしたの?と思った時、落下が始まる。暗い中、障壁越しにボスの口が広がっているのが分かる。そこに吸い込まれるように落ちている。こいつ、私を噛み潰すつもりなんだ!そうはさせない!剣で薙ぐか、喉を目がけて突き刺すか、わが身を犠牲にしてでも、こいつを倒さないと、全滅するしかない!あの娘らを守らないと!
落ちていく速度がゆっくりとし始める。人の死ぬときはゆっくりと時間が流れると聞いていたが、今がその時か、と思う。ロビィ様をお守りしようとしたときもそうだったか?ずいぶん前のことだったような気もする。
剣に残った魔力を込める。剣をまっすぐ伸ばし、身体が噛み砕かれる前にボスの喉に一撃を入れる。それが致命傷となって欲しい。剣が白く光る。剣先がボスの口に届こうとしたとき、横合いから水平に回転した剣が飛んで来た。その剣はクルクルと回りながらボスの首元を薙ごうとする。ボスの注意はスティーヴィーに向いていたたけ、横合いから剣が来るとは思っていなかったようだ。剣先がボスの首に当たる!並みの剣ならボスの剛毛に弾かれていただろう。しかし、その剣は剛毛をものともせず、剛毛を切り、首に入った!剣の勢いに押されてボスの首が傾げ、そのまま横に倒れていく。首には剣がそれほど深く入ったようには見えないが、とにかく剣の勢いに押されボスが倒れ、そのまま剣がボスの上に乗った。スティーヴィーはそのボスの頭の上に着地した。
ボスの目が恨めしそうにスティーヴィーを見る。剣の乗っている部分は動かせないようで、下半身をばたばたさせているが、剣がボスに張り付いたようになっていて身動きが取れない。
「死ね!!」
両手で逆手に剣を握り、残っていた力を全部集めて、ボスの目を目がけて突き刺した!「
「GYAOOOO-----!!」
剣を突き立てられながらも、ボスは一声吠えた。足の下のボスの身体が柔らかくなってくる。身体の震えが収まるとともに、鋼線のような体毛が柔らかくなってきた。
「GYAN!!」「GYAN!!」「GYAN!!」「GYAN!!」
周りのフェンリルたちが吠えたてるが、なぜか襲ってこない。だんだんとフェンリルたちの殺意が薄れてきているように感じる。
「スティーヴィー!無事か?」
吠えるフェンリルを薙ぎ払ってマモルが現れた。フェンリルがマモルに対し、吠えたてるがだんだんと距離を取り始めている。ボスが倒されたことで、敵う相手ではないと認識しだしているのかも知れない。
「大丈夫」
そう言って、目の前で吠えたてるフェンリル向かって剣を薙ぐ。フェンリルが大げさに飛びのいて、そのまま後ろの暗闇に消えて行った。それが合図だったかのように、フェンリルが暗闇に消えて行く。フェンリルの吠える声が聞こえなくなり、次々と姿を消していった。
残されたのは、味方の兵士だ。立っている者はおらず、ケガをして倒れているか、ケガをしていなくとも座り込んでいる。マモルが手を伸ばし光の玉を作ると、周り中、兵士の死体が転がっている。腕をちぎられた者、腹を食い破られた者、顔が半分になった者など悲惨な状況で血の海になっていた。テントから顔を出したマリヤが口を押さえる。領都で悲惨な状況はさんざん見て来たはずなのに、それ以上の惨劇となっていた。遅れて出てきたカタリナも目をまん丸に見開き、口を膨らませ、こらえきれず吐き出した。




