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村の整備が始まると、お客様がいらっしゃる

 みんな、オレという人間に対して、どう見ているのか、よーーーく分かった。


 みんなの期待むなしく、とはならず、予定通りというか、ずっと向こうの野牛がこっちに向かってとっとこ、とっとこ小走りでやって来る。言葉で言うと可愛げがあるが、遠く離れているからそうなので、近づくとドシッドシッっとなるんだろうな、きっと。


「ほら、来たぞ。マモル様から離れるんだ」

「ほーれ、ほーれ」

「そら、早くしろ、明日の晩飯のおかずがやって来るぞ」

「よっし、よっし!」

「来い!来い!待ってるぞ!いつでも解体の準備はできてるぞぉぉ!!」

 くそぉ、おまえらなぁ、よーーーく見てろよ!


 野牛3頭はオレを目がけて、小走りが駆け足、さらに猛進してくる速さになった。3頭もいると、左右に避けて斬るという手は使えないから、飛び上がって先頭の牛の首筋を斬る一手かな?右の牛が少し遅れ気味だけど、その手で行こう!

 みるみるうちに距離が詰まり、牛の鼻先が目の前に来たタイミングで飛び上がり、そのまま剣を一閃し首筋に入れる。キレイに血が吹き上がり、3頭は10mも走っていったが、先頭の1頭だけが倒れる。残り2頭は向かってくるのかと思ったけど、「オレたちはこいつに釣られて突進してきたけど、本意じゃないし」というような顔をして、死んだヤツは知り合いじゃありませんよ、という雰囲気であっちの方にスタスタと小走りで行ってしまった。うん、良い考えだね、また今度もう少し大きくなったら来なさいね。

 

 さて、オレの狩りを見ていた皆さんは、やんややんやの声援で、囃してくれている。

「いやぁ、やっぱりマモル様は獣を呼んでくれるね!」

「そうだろ、向こうに牛が見えたとき、来ると思ったんだよ」

「オレも思ったよ。キーエフ様、マモル様だね」

「ホントにそうだな。こんなにデカい牛だと、10日は食えるんじゃないか?」

「いや、良かったな」

 と皆さん、手放しで喜んでいて、隊長さんだけ呆れていますが。そこで一つ思い付いた。

「みんな、こういう嬉しいことがあったときは、オレの前の世界では「バンザイ」するんだ。教えるからみんなでバンザイをしよう!」

「「「「「「「「バンザイ?」」」」」」」」

「こういうふうにやるんだ」

 と教え、タチバナ村で何か良いことがあると、バンザイするという行為が定着するのでした。異世界ノベルの主人公がもたらしたことに比べると、あまりに小さいオレの行為。涙が滲みます。



 日ごとに村が形になってきて、本来の目的であった胡椒の枝を村内の畑に挿し木した。採種してきた実は、女性陣が乾燥させている。

 胡椒の木を見つけたという報告は、輸送隊の第1陣が帰るときに伝えてもらうことにした。今は第2陣の輸送隊が来て、資材を下ろして建築をしている。


 胡椒の木の枝を植えているとバゥが声を掛けてきた。

「マモル様、あの村の胡椒の挿し木のことですが、最初の3本の後に、オレたちも挿し木したんですよ。しかし、なぜか最初の3本のように、根を張らなかったんです。最初の3本が根を張って伸びるといういうのは、どうしてなんだろうとジンとも話をしていたんですけど」

「そうなんか?それって、もしかしたらバゥとジンの小便をかけていたせいじゃないの?」

「いやいやいや、それはありません。オレらは挿し木が増えたら、みんな順番にかけてましたから」

 いや、あんたらの小便をかけた胡椒の木の実は食べたくないから。いやいや、洗えばいいという問題じゃないと思うんだけど。


「それなら、他に違いはなかったのかしら?」

「思い当たることはないですね。マモル様が植えたか、オレらが植えたか、だけの差ですよ」

「そうなんだ。オレは植えるとき、「根が張れ~~伸びろぅ~~」と念じたくらいだったけどなぁ」

「それですかねぇ?普通は挿し木してあんなに早く根が張ることないですから」

「そうなのかなぁ。じゃあ、今回も念じて植えておこうっと」

 あまり期待は持てないが、サツキとメイのように、念じておけば次の日には芽を出すかも知れないと思いつつ、種も蒔いた。バゥには小便かけないように、念を押す。もしかけやがったら、その小便の出口を一生立たなくなって小便以外の役には立たなくなる念をかけておいたし。


 第2陣が帰る頃には、黒胡椒のサンプルができていて、ギレイ様に渡すようお願いした。こんなに順調で怖いくらいだ。


 ある夜、遠くで何か鳴き声がした。パォーーーーン、パォーーーーンというテレビでよく聞いたやつ。結構デカい声なので、飛び起きるとノンも起きてた。外に出ると、やっぱりあんな大きい鳴き声だから、結構な数の人が出て来ている。

 声のする方に行くと、向こうに月明かりに照らされて、象さんたちがいた。ありゃりゃりゃ、彼らはこっちに来るのかなぁ?やっぱり来るよね。


 みんなで黙って見ていると、象さんたちはこっちに向かって歩いてきている。

「マモル様、あれと戦うんですか?」

「戦いません!あんなデカいのはどうやって倒せばいいか、分かりません!」

「え、もしかして掘を越えて村に入ってきたら、どうすればいいんでしょう?」

「逃げます。オレの前にいた世界でもそうでした。逃げる人を追ってはこないです(のはず)。だから、あいつらが好き放題したら、帰っていくので、無理に戦わず逃げるのが一番です」

「でも、怖いですね」

「もし、オレが1頭と戦っているうちに、他の象が入って来たら、どうするんです。ヤツらは頭が良いので、1頭やられると頭にきて、もっと暴れますから、あまり刺激しないようにしましょう」

 と言って、見ているとどんどん近づいて来た。


 デカいなぁ、デカい!3mくらい?もっとありそう?動物園みたいに檻の中に入っているわけじゃないし、素で直面しているから息づかいが聞こえてきて、圧がすごい。

 堀の縁までやってきて象は停止した。鼻で足下を確認し、こっちの塀に鼻を伸ばすが惜しいところで(実は全然惜しくないけど)届かない。

 象さんの鼻は、お父さんもお母さんもお子さんも長いんだなぁ、と思うけど、早く帰ってくれと願うばかり。ぞーーーーーさん、早くどっか行って!!堀に落ちたら、誰も助けられないんだからね。落ちて寝っ転がって、立ち上がれなくなって餓死するんじゃなかったっけ?この世界なら、餓死する前に、人の腹に収まるのかしら。牛や熊や狼、羊は食い物と思うけど、ぞーさんは食べたくないから。

 象だちは仲間内で相談していたようだけど、結局堀に突っ込むようなことはせず、向こうに歩いて行った。オレが呼んだのかなぁ、オレが。

 ぞーさん、またね~~~♪と手を振ったのはオレだけでした。みんな、もう来ないでくれ、と心の中で思っていましたよね。

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