偵察に出発する
夕食を食べてから偵察に出発する。陽は沈んだのだが、月が明るく、まるで夜の散歩のようだ。サキライ帝国軍の陣地には煌々と灯りが点されており、我々の夜襲を警戒しているように見える。
陣地を出て、サキライ帝国軍陣地を中心にして円を描くように移動する。しばらくしてスティーヴィーが、
「視ている者がいますね」
と言ってきた。そう、サキライ帝国軍陣地から視られている。オレたちは草原の中を進んでいるので、遠目が使える者がいれば認識できるだろう。認識されるのは構わない。ただオレたちを始末しようとするなら話は別だが。ずっと向こうに森があるのだが、あの森まで行くとサキライ帝国軍陣地から遠くなりすぎて、偵察行とは言えなくなってしまうから。ただこのまま進んで行くと、サキライ帝国軍陣地と森の先端が近くなっている所もあるので、あの辺りは森の中に入ることになると思う。
ぐるりと円を描くようにサキライ帝国軍陣地の周辺を移動する。サキライ帝国軍陣地の大きさに驚く。これは万を越える兵力なんじゃないか?半分が補給部隊としても、兵の多さに驚いた。こんな大きな軍の補給線をどうやって維持しているんだろう・まさかと思うが現地調達ということはないだろう。食料は当たり前だが、武器だって欠損したりする消耗品なのだ。などと人の心配をしても仕方ないのだが。
「森の中から私たちを視ている」
スティーヴィーが告げるが、オレもそれを感じていた。森の中から視ているのは人ではない。獣、たぶん魔獣。それの群れがオレたちを視ている。獲物が移動していると思っているのだろう。
「少し移動速度を上げよう」
「わかった」
さっきまでの速度を時速6kmとすると8kmに早める。草原では昼間でもゼッタイ無理な早さ。でもオレとスティーヴィーだからこそ可能なスピードである。モァたちではゼッタイに無理なのだ。だから偵察はオレとスティーヴィーにしかできない。
「前」
スティーヴィーが前を向いて言う。そうなのだ、サキライ帝国軍陣地から5人ほどの人間が離れ、オレたちの進路と交差するように移動している。
「あれと戦う?」
スティーヴィーが対象を指差し訊いてくるが、
「それは相手次第だ。あちらがオレたちを視ているだけなら、何もせずやり過ごすし、喧嘩を売ってくるなら買うしかないだろう」
「わかった」
「少し森側に進路を曲げて、敵がどう動くか探ろうか」
「わかった」
少し森に向けて角度を付けて進む。少し進んだだけで、敵にもオレたちの意図が伝わったようだ。少し速度を上げ、進路が交差するように進み始めた。オレたちを始末しようと考えているんだろうが、オレたちの実力も分からないのに、よくぞ実力行使しようと思うものだ。よほどの実力者が派遣されていると思うが、上には上がいると思わないのか?オレだって、できれば交戦したいと思っているわけではないのに。向こうは多人数だから圧倒できると思っているんだろうけど。
進路をさらに森に近づける。すると敵はさらに速度を上げた。夜の草原で、あの移動速度を維持するのは大したものだと感心しながら、
「スティーヴィー、敵と戦うぞ」
「わかった。でも、森の中の魔獣も迫っている」
「わかっている。敵と魔獣の間を突破しよう」
「わかった」
愛想も何もない簡潔明瞭な返事である。
さらに移動スピードを上げる。オレたちを捕捉しようと、森の中の魔獣の群れのスピードが上がった。魔獣の群れは20?30?群れは増えて、大きくなっていないか?オレの獣を呼ぶ男としての面目躍如なんじゃないか?魔獣視点では、オレたちは逃げているように見えているだろう。逃げる獲物を追うのが楽しくて楽しくて、その醍醐味に酔っているんじゃないか?
もう一方の狩人のサキライ帝国軍は、オレたちのスピードが上がったことで慌てたようだ。そして森の中の魔獣の群れに気が付いていない。
森の端近くを進み、オレたちを追う魔獣と帝国軍が併走している形になった。その間隔が自然と狭まってくる。オレたちがさらに森に近づくと、魔獣の群れが帝国軍に気が付いた。気が付いてくれた、と言うべきか。そして、オレたちより人数の多い魅力的な獲物に向かい、急遽方針変更して襲いかかった。
突然、森の中から降って湧いたように現れた狼群が帝国軍に襲いかかる。
「なんだ!?」
「狼か!?」
「ぎゃぁーー!」
不意打ちを食らい、見事なくらいの魔狼か?の餌食になってしまっている。それでも、態勢を整え、反撃を始めた。
オレたちはそれを見ている余裕はないのだ。この先の森の中に、もっと大きい魔獣が動いているのがわかった。ちゃんとオレに気が付いて、誘われて来ている。あれはヤバいぞ。魔狼くらいで済むもんじゃない。この感覚は経験している。あんなのと、こんな所で戦いたくない。
しかし、それはオレたちに惹かれるようにオレたちに向かって来る。森の奥でバキバキと木と倒し、枝を踏む音が聞こえてくる。来なくて良いのに、と願うのだがこういう願いは叶わないことを知っている。
仕方なく進路をサキライ帝国軍陣地に向けて曲げる。スティーヴィーも迷いなくオレに続く。
「どうしてまた」
スティーヴィーが愚痴るが、こういうモノだと割り切ってくれ!
振り返ると森の中からそいつの姿、というか眼が見えた。月の光以上に輝く、2つ並んで3組の色違いの光りの玉が見えた。またあいつが出てきたのか。月の光でも身体は黒い塊にしか見えない。それがオレたちに向かって走り出した。
「スティーヴィー!逃げるぞ!あんなのに、もう関わりたくない!」
「わかった!!」
スティーヴィーだって、ケルベロスと戦いたくはないようだ。そうそう毎回勝てるとは限らないだろうから。
逃げる!サキライ帝国軍陣地に向かって!災厄ってモノは、自分に降りかからず、人にもらって頂きたい。
ちょっとサービスしようか?という感じで今日載せました。次は10日後のつもりです。




