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早く本体に戻るぞ

 もう十分にサキライ帝国軍の騎馬隊は混乱していて、潰走を始めそうだ。きっかけさえ与えれば良いと思うのだが。残念なことに、我々が突撃するほど騎馬がいない。10騎ほどの騎馬隊で、いないよりはマシだろう、偵察にでも使ってください的な意味合いで、ついて来た騎馬隊だから、そんな有能そうに見えず、もし突っ込ませたとしても、敵と戦って倒されるかも知れない。それなら、騎馬隊を使うのはナシ。温存しておく。


 となれば、

「全員で鬨の声を上げるぞ!ワァ!!で良い。力一杯叫ぶんだ、いいな!」

 周りに指示すると、不安そうな顔をしていた者たちが、安心した表情に変わる。こいつら、突撃させられると心配していたのか?まあいいや。声でなんとかなれば儲けものだし。


「では、いくぞ!3!2!1!ワァーーーーーーー!!!!」

 オレの周り中が、敵に向かい精いっぱいの声を上げた。混乱している敵は、一瞬ビクン!とした後、後ろの方の騎士が逃げ始めた。それを待っていたかのように、敵全体が潰走を始めた。まるで誰か逃げるのを待っていたかのように。一番最初に逃げるという不名誉は自分はこうむりたくない、という心持ちがあったのだろうか。とにかく敵騎馬隊は死傷者を放り出して逃げて行った。死屍累々とはこの風景をいうのだろう。立っているのはスティーヴィーだけで、人だけでなく馬も多く倒れている。本来なら負傷している者を治療し、死んでいる者は弔うのが本筋だし、人の道というものだろう。


 しかし、

「さあ、私たちも本隊に戻るぞ!全速力だ!誰か、馬に乗っているヤツで本隊に報告してくれ!敵騎馬隊と遭遇した。一戦の後、撤退中と!」

 騎馬隊の隊長に向かって指示を出す。

「分かりました!」

 騎馬隊の隊長が部下に指示し、走らせた。


 さてオレたちは早く本隊に戻らないといけない。うめき声を上げている敵兵を見捨てて行く。

 敵の騎馬隊に一勝したからと言って、敵本隊と遭遇して勝てるなんて思えない。敵が1000を超えた軍であるとしたら、勝てるはずがない。寡兵で多勢を倒す、なんてのは夢のような話で、いくらここに超強力な4人娘がいるからと言っても、1000人2000人の敵兵に距離を取って包囲されて、少しづつ兵を削られていくと、全滅する未来図しかオレには描けない。それに敵国のこんな奥深く侵攻してくる軍が、1000や2000なんて少ないはずがない。桁が一つ多いだろう。だから少しでも早く、本隊と合流して、その中の駒の一つとして戦うのが、良い手だろうと思う。


 軍を回頭させて、元来た道を進ませる。オレたちが引き返すのを見ていたスティーヴィーは、最初何事?と思ったようだが、すぐに戻って来た。

「生きてる兵もいる。それで良いの?」

 と訊いてきたのだが、今のオレたちは死にそうな敵兵を助けるより、自分たちの命を守る方が重要である。もし敵が負傷兵を見つけて収容し、その分少しでも時間を使って、オレたちを追跡するのが遅れるならありがたい。


 スティーヴィーは戻って来る時、乗り手を失った騎馬、それも見るからに駿馬と分かる馬を2頭連れて帰ってきた。元来、サキライ帝国の馬はヤロスラフ王国の馬よりガタイが良くて、早く長く走れる。駿馬の産地としてヤロスラフ王国では知られている。だから、2頭連れて来ただけでも、とても助かる。これはユィモァたちに期待してもできないことだ。ちなみにオレにもできないが。


 急いでるつもりだが、遅々として軍は進まない。急ぐからと言って、輜重部隊をカットして置いていくわけにもいかないし。見えない敵におびえながら進み、日暮れ前ギリギリで本隊に合流できた。本隊もオレたちの後を進んでおり、連絡を受けて移動速度を上げたんだそうな。最初はオレたちは斥候部隊であり、本隊は動かず連絡を待つ姿勢だったが、オレがどこに行っても、敵との遭遇確率がびっくりするほど高いことを思い出し、後を追って来てくれたそうだ。


 確かにオレは、どこに行っても敵と鉢合わせするし、魔獣だって呼び寄せる。この引きはいったいなんなんだろう?などと考えていても、しょうがないのだが。


 オレたちが本隊に吸収された時点で、本日の行軍は停止し、ここで野営することになった。オレ隊は本隊の殿に移り野営の準備をしていた。その時、前の方から叫び声が聞こえてきた。それは、

「サキライ帝国軍が来た!」

 というものだった。野営の準備は部下に任せて、前に移動する。そして見たのは、オレたちが来た道の向こうに多数の火を点したサキライ帝国軍だった。陽が沈む直前だったのだが、サキライ帝国軍旗が見えたのでサキライ帝国軍で間違いない。

 どうしてこんなに早くここに来たのだろう?遠目では騎馬隊だけのようにも見える。しかし、その数がとんでもなく多く見える。もしかして、オレたちと遭遇した部隊が戻り、それを受けて騎馬隊本隊が先に追っかけてきたのだろうか?これから後続が到着するのだろうか?サキライ帝国軍の厚みは分からないので、どのくらいの兵力なのか、兵の成り立ちはどうなのか分からない。あぁ、ドローンがあれば良いのに。


 サキライ帝国軍も行軍を停止し、野営の準備を始めた。明日、ここで決戦しようというのか。サキライ帝国軍はオレたちの兵力を掴んでいるのだろうか?帝国軍がオレたちの半分の兵力であっても、あの騎馬隊が一斉に突撃すれば、オレたちを打ち破れると思っているのだろうか?ま、できそうだけどな。でも定石を踏めば、サキライ帝国軍は夜の間に斥候を出し、我が軍の情報を得ようとするだろう。当然、我が軍も斥候を出し、敵を探らないといけない。


 どうするんだろうな?と思っていたら、本隊の司令がオレのとこに来て、

「タチバナ様、もうしわけありませんが、夜のうちに敵の偵察に行ってきてもらえませんか?敵の周りをぐるっと一周してきていただけると助かります。他にも斥候は出しますが、タチバナ様の偵察はとても有効だろうと思います。かつて、ヒューイ様とゴダイ帝国とのにらみ合いの時に偵察に行かれたそうではありませんか?大公様がヤロスラフ王国第一王子、第二王子連合軍と戦った時も偵察に行かれたと聞いております。なにとぞ威力偵察をしていただきたいと思います」

 この司令、言葉は丁寧だが、人使いが荒いぞ。簡単そうに言うけど、あれは命がけなんだぞ。敵だってこの軍から偵察が出されるであろうことは分かっている。要は、敵の周りをぐるっと一回りしてこい、ってことか。


 うーーん、他に適任者がいるとも思えないので了承した。オレ1人で行くのも危なっかしいので当然のことながらスティーヴィーを連れて行くことにする。

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