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迎え撃つ

「決めた!」

 モァが叫ぶと、4人の輪が崩れた。それを見ている男どもの顔はどれもみんな不安そうな、恐怖で歪んだ顔をしていたりするのに、ナゼか4人は普段通りである。4人はいたいけな少女であるけれど、戦場の経験はタップリある。

 でもほとんどの兵が、こんな小娘に何ができる、と思っているだろう。それに、オレがどうして何も言わず、指示もせず静観しているのか不思議でならないだろう。


 スゥがスタスタと前に出る。敵の騎馬隊の先頭がもう100mを切った所に来ている。もうもうと土煙を上げ、地響きがここまで伝わって来ている。


 スゥはひざまずき頭を垂れ、手を胸の前に組んだ。

「しんあいなるほのおのようせい、イフリートよ、そのちからをわたしにかしあたえたまえ。いま、そのちからをしめさん」

 こんな状況でも律儀に詠唱をなさる。詠唱は特に意味はないので、省略しても良いと言っているのに、スゥの性格上、省略することはあり得ないことなんだそうだ。省略するのって冒涜だって言ってたし、真顔で。


『Fire Bomb』

 唱えた途端、スゥの前に直径1mほどの火の玉が現れた。一瞬のモノなんだが、顔が熱い。


「行け!」

 スゥが腕を振り、騎馬隊の先頭を指し示す。火の玉は地面すれすれをスーーーと騎馬隊に向かって移動し、驚いて止まろうとする先頭の騎馬に当たり破裂した!火の玉は飛沫となって左右に広がって、他の隊列の騎馬に降りかかる。飛沫は馬に当たり溶かす。そして発火し騎士もろともに火だるまとする。近くの馬、後に続いている馬は狂乱状態になって暴れ始める。

 これで決したか?と思ったが、さすがサキライ帝国の騎兵たちというのか、両側の騎馬はさほど動揺せず、すぐに立て直し、もう一度突撃を始めようとする。

 ここまで来たら、前の国境付近の戦いと同じような展開になると思える。サキライ帝国の兵たちは,あの時の情報を共有していないのだろうか?自分が負けた話って、人に語りたくないものだから伝わってないのかも知れない。それはこちらにとって都合が良い。


「ふん!」

 モァが左の騎馬の列に向かい、

「てんにおわせらるる、いかづちのかみよ、われのねがいをかなえたまえ。われはいかずちのかみのけしん、みおな・やおすらふなり。いま、われのねがいをききたまえ」

 とのたまわり、両手を組んでピストルの形にして敵に向け、

『RailGun』

 と言った。


 モァの指先が目が開けられないくらいに光り、敵に向かって一直線に太い光線が伸びて行く。1頭目の首を貫き、その後ろの2頭目、さらに3頭目、4頭目と伸びて行く。

「ふん!」

 と叫び、指先を横にずらせば、光線も一緒に動き、馬の中には首を落としたモノもいる。恐慌状態になった馬は騎士の云うことなぞきかず、暴れ始めた。突撃の隊列は維持できず、乱れに乱れ始めた。


 右側の隊列にも中央、左側の混乱、暴動が伝わり、馬が動揺し始めている。その馬群に向かってユィは、

「しんあいなるこおりのせいれいたちよ、そのちからをわたしにかしたまえ。よせたまえ。わがなは、らうら・やおすらふなり。いま、そのちからをしめさん」

 これまた律儀に唱え、

『Ice Arrow』

 と言った途端、横一列に10本ほどか、光り輝く眩しいくらいの氷の矢が生まれた。一瞬の間の後、矢は騎馬列に打ち込まれた。次々と馬が前のめりに倒れ、騎士たちが投げ出される。


 大混乱に陥っている騎馬隊を前にして、

「じゃあ行って来ます!」

 買い物に出かけるような気軽さでスティーヴィーが敵に向かって駆け出す。モァたちにやられたと言っても、出鼻をくじかれただけで、まだ百騎以上の騎馬が残っている。混乱が納まればまた突撃を始めることはできるはず。モァたちのクールタイムが間に合うのか?と思った者が我が軍にいたのかどうか?


 スティーヴィーは、とっ!とっ!とっ!と一直線で騎馬隊の真ん中に駆け込んで行った。残った騎馬隊の先頭の前で、ポン!と跳び上がり、先頭の騎馬の上を飛び越す。全員が呆気にとられてスティーヴィーを見上げる中、後ろにいた騎士の頭を踏み台にして(なんと失礼なことを!)、さらに奥に行く。サッと抜いた剣が太陽の光を浴びて煌めいたかと思った瞬間、振り抜かれる。兜を被ったままの頭が宙を飛んだ。遅れて血が噴き上がる。

「帝国軍、1番偉そうなヤツ、討ち取った!自分の方が偉いと思うヤツ、自己申告!」

 スティーヴィーが女性にしてはやや低い声で叫ぶ。戦場にいるもの全員がスティーヴィーの動きを見ていた。

 スティーヴィーの動きを見ていた者は皆、こいつ何をするんだ?簡単に殺されるぞ、と思っていたのに、逆に騎馬隊の隊長と覚しき者をいとも簡単に斬り殺した。隣の騎馬から槍がスティーヴィーに突き付けられる。その穂先を掴んで、ポン!と飛んで槍の柄に足を掛けて跳び、剣を振ればまた兜首が宙を舞う。

「あんまり人を殺したくない!逃げて!」

 いつもよりは言葉が多いスティーヴィー。


 騎馬隊の空気が明らかにおかしくなった。このまま攻撃を続けよう、と思うヤツもいるみたいだが、明らかに逃げようという空気が濃くなってきている。何かを命令しようとすれば、スティーヴィーの目に止まり殺される。それでなくとも奥でスティーヴィーが剣を振るっていて、スティーヴィーの周りで血しぶきが上がっている。


 スゥが追い打ちを掛けようとするのを、

「熱くなるから止めてくれ」

 と言って詠唱を止める。我が兵たちもさっきまでの悲壮感はなく、肩の力を抜いて見ている。サキライ帝国軍にすれば地獄絵図なのだが、一歩間違えればこっちがそうなっていたのだ。皆殺しにされるか、生きていれば奴隷にされてサキライ帝国に連れて行かれるのか。それを思うと、誰も帝国軍の惨状に同情する者はいない。

 

 

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