新しい村作り
村に着いたが、それほど荒れ果てた感じはしない。廃村ということだったから、朽ち果てた、という村を考えていたけれど、日本の山奥にあるような廃村と違って、それほど傷んで見る影もない、ということはなかった。降雨量の違いからなのだろうか?
輸送隊の人の言うには、1年少し前に離村したのでないか?ということだ。近くに川もある、森もある、畑だったと思われる農地らしいものも広がっているのにナゼ?と聞いたら、象の群れに襲われたらしい。ルーシ王国では象がいるなんて聞いたことがなかったけど(ジンは言ってたけど、他の人から聞いたことはなかった)、ここでは身近な大型獣のようだ。あれをオレなら退治できると思われているのだろうか?無理です。
確かテレビの情報番組で、幅1mくらいの空掘を作っておけば、象はそれが渡れないので防御線になると、言ってなかったっけなぁ?皆さんに話しても、誰も知らなかった。でも、マモルの言うことならやれば良いよ、くらいの信用度で、オレらは家を建てるからマモルは空掘を掘ってね、という感じでスコップを1丁渡された。
あの象を防ぐ堀は、水を入れない方が良かったんだっけ?映像では水が入ってなかったと思うし、幅1.5m×深さ1mの掘りを掘削する。もちろん掘った土砂は村側に積み上げていく。やり始めると、気持ちいいくらいサクサクと進んで行く。この世界ではスマホが使えないから、ついついスマホを見るという生産阻害活動もなく進む。
HU〇TER×HUNT〇Rという超人気だけど、ちっとも進まない作者の休載ばかりのマンガで、道具に念を流して強化する(初期の頃の話です)、というのがあったからやってみた。けど、世の中、そんな甘くなく、余り変わらないような気がするなぁ。そもそも、作業しながら念を通すなんてことができない、というのは初期のゴンと同じだけど、オレも練習すればああいうように念が使えるようになるのかなぁ?スコップの予備はないかも知れないから、大事に使おう。壊れないように壊れないように、と祈りながら。ショボいスコップの作り方のレシピも知らないし。かたいもくざい×5は、森を捜せばありそうだけどな。
気が付いたら掘り上げた土砂の所にみんなが板を立て、防壁が作られていた。そうだ、まず防壁を作らなくちゃいけないんだ。と思うとモチベーションが上がって、さらにペースアップする。こんなに肉体系の労働ができたんだ、と自分でも驚くくらい、腕や腰が痛くなったりせず続けられる。日暮れには村の半分を囲う掘と全周を囲む板塀ができていた。象を防ぐ前に、狼や野犬、熊などを防ぐことを考えないといけないんだった。
塀の中にはテントが張ってあり、中央広場というか空き地でたき火が焚かれ、調理が始まっている。こういう采配は村の序列の通りらしく、バゥのかみさんが指図している。オレは向こうの村にいたときはバゥにかみさんがいたなんて知らなかったけど、こっちに来てテキパキ働き、バゥを尻に敷いているのを見ると頼りになる人なんだと思う。
あの村にいた頃は、人も何もかも汚れて汚くて臭くて、オバチャン連中はみんな同じように見えていた。名前を覚えようともしなかった。でも国境を越え、ここに来て、みんながキレイになって人並みの服を着て、生き生きと生活し始めたのを見ると、やっと人間として認識できるようになった気がする。あの村にいたとき、皆目は開いていたけど、暗い穴のようなモノだった。もう、あそこには戻りたくない。
夕食の準備が終わり、配膳されみんなで食べる。いちいち向こうでの生活と比べてしまうが、飢餓線上にあった生活から人間らしい生活に近づいたとつくづく感じる。今日はまだテントで寝るけれど、簡単なテーブルと椅子があり、皿がありスプーンがある。手作り感丸出しの皿やスプーンでなく、ちゃんと製品として売られていたものを買ってきた、という感じのもの、商品として売られていた物を使って食事している。援助されなくても、自立してこの生活を維持できるように頑張らないと。
村の生活が3日目になると、そろそろ家が建ち始める。まずは、みんなの集会場が必要だそうで、真ん中に作り始める。こういうことはノウハウがあるようで、輸送隊の人たちも一緒になって建て始めた。オレの知らないことばかりなので、何を手伝えばいいのか分からずウロウロしていると、却って邪魔になったみたいで、バゥから森でも草原でも行って狩りでもしてください、と呼び子を渡された。ヘイヘイ、行って参ります。
あーー魔法の袋が欲しい。狩りをして袋に入れて、みんなの前で「なんにもないよ」というような顔をしていながら、袋からヒョイと獲物を出して、みんなを驚かせる、というの、やってみたいなぁ!冒険者ギルドに行って、なんだお前?みたいな顔で見られながら、買い取りコーナーの美人のお姉さんの前に、ドラゴンとか出すの、夢だなぁ♪でも、魔法の袋があるかどうか、分からないし、冒険者ギルドもあるんだろうか?
そんな妄想はともかくとして、森の中は多種多様な木がある。前の村よりはちょっと緯度が低いだろうからか、広葉樹の量が多くなっているような気がする。これなら、香辛料の木もあるんじゃないか?わざわざ植えるより、挿し木して増やせるなら、そっちの方が早いし。キョロキョロ、香辛料の木を捜していると、あったあったよ、胡椒の木が!しかも実がたわわに付いている。やっぱり、あの村にあるんだから、ここにあっても不思議じゃないんだよね、実をポケットに詰めれるだけ詰める。すると、みんなの期待通りの展開が起きてくる。音がした辺りに目を動かすと、遠くに鹿がいた。国が違うから違う展開が起きるのか?と思ったけど、オレの獣磁石は健在のようで、やっぱりこっちに突撃してくる。夕食が走ってくると思えば、ありがたーーーい気持ちになって、剣を構える。そりゃ、向こうから鹿肉ステーキが走って来るようなもんですから、見逃す手はありませんって。
鹿を仕留めて、呼び笛を鳴らすと、10分ほどで村の男たちプラス輸送隊の隊長までやって来た。村の男たちが、オレの獲物を捕った合図の呼び子が鳴ったから、仕事放り出して運びに行くぞ、というので付いてきたらしい、半信半疑で。
男たちがやいのやいの言いながら解体するのを呆れながら見ている。
「今朝、バゥがあんたに「狩りをしてきてください」って言ったときは、そんな簡単にいかないだろう?と思ったんだよ。それに森に1人で行かせるし。でも、バゥが絶対大丈夫だ、というから、半分くらい信じていたんだけど、まさか本当に鹿が取れるとはな、驚いたよ。次は、野牛か羊が食べたいから、お願いするよ」
あなた、そういうフラグを挙げてはいけません、必ず起きますから。
みんなワッショイ!ワッショイ!という感じで、解体した鹿を担いで運ぶ。バゥのヤツが
「もう、この鹿で十分ですから、牛も羊もいりませんよ?」
って、舌なめずりして言いやがる。あんた、それってフラグの挙げすぎでしょうが。
森を出て、タチバナ村が見えた。と、辺りを見回すと、ず~~と向こうに、牛がいるような気がする。3頭ほど?草を食べてる。それをバゥがめざとく見つけやがって
「マモル様(この頃にはバゥ以外も様付けでオレを呼ぶようになった)、向こうに牛がいますよ。鹿の肉も旨いですが、牛の肉も格別ですね笑」
と言うもんだから、他のヤツらも
「そうだな、今日は鹿肉でいいけど、明日は牛肉かなぁ?エヘヘ」
などと言いやがるヤツもいる、おっミコラか。ほら、輸送隊の隊長さんが呆れているでしょうが。
読んでいただきありがとうございます。
紆余曲折しながら、やっと自分たちの村作りが始まります。なんでも機械任せの時代から来たマモルにできることは、ほとんどないですね。




