大公様からの待機命令が来た
お久しぶりです。また再開します。ただし不定期ですので、更新をあまり期待しないでください。10日に1度くらいで書いていければいいなぁ、と思っています。
さてさて、無事当初の予定も完遂したので、久々にポツン村に帰るか、と思っていた矢先、ロマノフ商会の者がやってきた。
「タチバナ男爵様、大公様から親書が参っております。どうぞ、お納めください」
と言って渡された親書。そうは言っても伝書鳥が脚に付けて運んできたものだから、封筒に入っているわけではなく、直径5㎜で幅が3㎝ほどの円筒状のモノである。端っこにオレの名前と大公様の名前が書かれているので、オレに届けられた。この紙はポツン村製の最上級紙だよなぁ、と思いつつ広げる。ちなみに大公様の公式文書には羊皮紙が使用されるのが標準となっているのだが、紙厚があるので伝書鳥には持たせられず、ポツン村製のもっとも薄い紙が使用されている。
信書を開くと、
「指示があるまでマウリポリで、マリヤ・リューブ、カタリナ・ポリシェンと共に待機せよ」
とだけ、至って簡単に記載されていた。待機......なぜ?いつまで?どうして?誰かもっと説明してくれ!という気持ちで、オーガから送り込まれてくる人間に聞いてみるのだが、さすがに大公様の意向を知っているような者が来るはずもなく、ただオレはマウリポリで日々過ごしている。寝起きは領主の館の一部屋にミワさんと居候している。これまでのコトを考えると、驚くほど平穏な日々が続いている。
と言っても、決して暇を持て余すということはない。マウリポリには周辺の村々から人が集まってきている。時折チェルシやポルタに遠征隊を出して、人の回収やら、物資の回収やらしているので、オレとスティーヴィーが護衛を務めている。そして希望者はオーガに送り込んでいる。元の辺境伯が王都に逃亡してしまったというのは、結構知られていて、そうなるといざという時に守ってくれない為政者の所にいたって、安心して生活を送れないと思ったんだろう、ヤロスラフ大公国に亡命?する者が後を絶たない。不思議なもので、1人が手を挙げると周りの者がつられていく。
医療面ではブラウンさんが中心となって体制を整えたので、住民たちの安心感は大きい。そしてミワさんが治療して見せることで、住民の中から「自分も魔法が使える」と名乗り出る者があらわれ始めた。やっぱり!という気が大きいのだが、それでもいつかオレたちがいなくなって、自分たちが取り残されたとき、魔女として殺されるんじゃないかという気持ちがあって、表だって名乗り出ることはなく、こっそりとミワさんに伝えてくるそうだ。そういう人はブラウンさんの病院に取り込んで、徐々に成長を図っている。当人たちも病院の組織に取り込まれると安心していられるらしい。
ブラウンさんという偉丈夫は今やマウリポリの象徴となりつつある。最初は、見上げるような黒い筋肉の塊に誰もが恐れおののくのだが、人っていうのは単純なもので、治療してもらい見違えるような効き目を見せられると、一変に好印象を持つ。子どもなんぞはブラウンさんの上によじ登ろうとする。たまにいるバカがブラウンさんにケンカをふっかけて、ブラウンさんに叩きのめされ、そのケガをブラウンさんに治療してもらうという訳の分からないことも一度や二度ではない。
スティーヴィーは......モテる。女だと分かっていても女にモテる。年齢を問わず、幼女から老女までモテる。もちろんスティーヴィーに迫る女はいないが、遠目に見てキャアキャア言われている。たまにそれをやっかむバカな男がいて、スティーヴィーに因縁を付けるのだが、いとも簡単に叩きのめされて、それがまたスティーヴィー人気を高める結果となっている。
オレの1番の仕事は......風呂を準備することなんだな。マウリポリに数カ所設けられた浴場もどきに行って、風呂にお湯を満たす。自衛隊さんが被災地でお風呂を提供するのってこういう気持ちなのかなぁ?と思いながら準備している。
この世界の平民や下級貴族は風呂に入る習慣がないので、風呂に入るなんてのはご褒美も良いところのものである。
最初は風呂に入るに当たってのルールを説明するところから始めたのだが、意外とみんなルールを守って入っている。貴族と平民が一緒に風呂に入るというのはさすがに抵抗があるようなので、時間を分けて入れているのだが、夜空を見上げて風呂に入るというのは意外と受けるようで、長居する者もいるのだが、必ず仕切るヤツがいてちゃんと監視してくれるので、オレは基本的にお湯を沸かすほうに徹することができる。マリヤ様とカタリナ様は何もすることはないので、大抵はオレに付いている。2人で魔法の練習をしたりしているのだが、何が適性なのか良く分からない。治療の方に適性があればミワさんに任せるのだが、どうもそっちの方は向いていないらしく、火でもないらしい。他はオレには教えようがないので、いつかハルキフに行って、サラさんのおばあさんに会わせたいと思っている。あの方は結構なお年だと思うが、まだ亡くなってはいないだろう。少なくともオレの寿命が来る前にあの人が死ぬなんてことはないだろう。
そんなある日、風呂提供を終えて、マリヤ様、カタリナ様を連れて領主の館に戻った。最近はマリヤ様のじゃれつきがヒドくて、ナゼか肩車をせがんだりしてくる。面倒なので知らんぷりしていると、オレによじ登ってきたりする。幼児がすることなら愛らしい、の一言で済むのだが、なんと言っても10才は過ぎていると思われるマリヤ様である。正確な年齢は分からない。でもそろそろ身体に余分な肉が付いてきそうなお年頃であるので、これはマズいだろうと思いつつも、強く諫めることはできず、しばらくすれば厭きて止めるだろうと思っている。
マリヤ様を肩車してカタリナ様の手を引きながら、領主の館近くに来たとき、領主の門の前に3人の女性のシルエットを見た。それはこの世界には珍しいツインテールの2人とポニーテールの1人の少女であった。いや少女と言っても、ミワさんよりは出るモノは出ているので、女性と言ってイイだろう。
ツインテールの1人がおもむろに手を上げ、オレを指差し冷えた声で言った。
「マモル!その女は誰よ?誰の許しをもらって、そんなことしてるのよ?ああん!!!!」
ゴゴゴゴゴゴという音がしている気がする。オレを指さすその身体からバリバリッ!バリバリッ!と放電が起きているんですけど......周りの皆さんが、目を見開いて目一杯距離を取ろうとしている。ほら!近くにいた兵士の槍先に通電して、兵士が槍を投げだしたって!
スティーヴィーは面白がってニヤついている。オマエがちゃんと抑えろって!!




