オーガに向けて出発する
その後、カタリナ様にお母様、お兄様の魂を視せるということは、ミワさんの魔力の問題でできなかった。マリヤ様は自分自身の魔力があって、それの足りない分をミワさんが補ったが、カタリナ様の魔力はマリヤ様よりさらに少ないか、まったくない状態のようなので、かなり難しいだろうというのがミワさんの見立てだった。
その夜はそれで寝ることにした。
翌朝、夜明けと共に活動を始める。早々に移動し始めて、昼前にはジンたちの砦に到着した。ジンはオレたちをまったく心配してなかったようで、
「帰ってきたか?思ったより早かったな!おおお、綺麗どころを連れてきたな!」
と歓迎してくれた。
そしてジン他、砦の幹部連中と今後のこと、どうやってオーガに帰るのかについて協議する。もちろん、包み隠さずゴダイ・サキライ両帝国が辺境伯領を占領しようと動いていることも話した。
それですぐに出発の準備に入るのかと思ったが、ジンを始め、幹部連中は眉を寄せた顔を崩さない。
「どうした?ジン」
黙っているジンに問い掛けると、
「マモル。オレたちはここから動かない。この砦の者たちは、他に行きたくないと言っている。それが総意だ。だからオレもみんなと一緒にここに残る。マモルは今日、連れてきたヤツらとオーガに行ってくれ」
と苦々しい口振り?口調?で語った。正直言って、何を言ってるんだ!?と、これだと前と同じじゃないか!あの村に残って、村人がみんな死んだのと同じじゃないか!!という思いが出て、
「ダメだ!!」
怒鳴ってしまった。途端に、周りが無音になった。誰もがオレの顔を見て、無表情になっている。怯えている者もいる。ジンだけがオレを正視している。その目は少し悲しげな色が浮かんでいる。
「マモル様」
ブルブル震えている手を掴まれた。それを見るとオレの握り拳をミワさんが両手で掴んでいた。ミワさんの体温の高さがオレの手に伝わって来て、オレの怒りを解かしていく。
「マモル、オマエの気持ちは分かる。でもこれはみんなで決めたコトだ。オマエがいない間、この砦にいる者たちと話し合って決めたことだ」
「しかし!」
「分かっている。あの村のことも分かっている。しかし、ここで辺境伯様を待つことにした。理由は色々ある。ただ、ここにいる者はカニフで育った者たちだ。ここを捨てて他に行くことは考えられないんだ」
ジンの言葉に、周りの者たちが頷いている。みんな厳しい顔をしている。これからの困難を覚悟しているように見える。覚悟したとしても、戦って生き残れるのか?
「マモル、もう決めたことだ。何か言うのは止めてくれ」
ダメ押してジンが言って来た。オレも一緒にここで戦う、と言いたいが、オレはマリヤ様たちをオーガに連れて行かないといけない。ここにいて、生き残れる気がしない。残れるとしたらオレとスティーヴィーとミワさんの3人しか生き残れそうな気がしない。いくらオレとスティーヴィーがいるからと言って、1万、2万という軍勢に対すると多勢に無勢になってしまうだろう。頭の中でそんな考えがグルグル回る。
「マモル、オマエは最悪の方を考えるが、ここを占領しようと考える者が、住民全員を殺すとは思えないぞ。ゴダイ帝国のハルキフ占領を思い出してみろ。アイツらは住民に対して手厚い保護を加えた。あの村のように病気が流行りさえしなければ、全滅するということはない」
ジンはオレの予想を理解してか、肯定的な物言いをする。それはジンの周りの者たちの総意ということだ。それにオレが何を言おうともオレは外国から来た者なんだ。おまけに異世界から来ている。部外者よりももっと外の者が何を言おうとも、ここの住民に言葉は届かない。
「本当に良いんだな?」
「いい、もう決めたコトだ」
ジンの言葉に力がないような気がした。
「分かった。それなら、オレたちだけで発つ。元気でいてくれ」
もうそれだけしか言葉が出なかった。
「分かってる。オマエも気をつけてオーガに行ってくれ。オレたちよりずっと危険だぞ」
ジンからすればオレたちの方がよほど危ないように見えるのだろう。女子ども6人と男が6人という集団でオーガまで到達するのというのは、旅するなんて特別なことというこの時代の概念からすれば、危険極まりないことなんだろうな。
「馬はないが、荷車をやろうか?女を歩かせるのは無理だろう?」
ジンの申し出を快く受ける。非常に助かる。
「ありがとう、オーガまで歩かせることはできないと思っていた」
素直に礼を言う。オーガまで歩かせることはないと思うが、ブラウンさんたちがいる所までは徒歩になると思っていた。スティーヴィー以外は荷車に載せて運べば、だいぶ工程がはかどるだろう。
会議が終わった後、ジンが寄って来て、
「マモル、オマエの気持ちは嬉しいが、こんな大勢の人間を連れてオーガまで行くのは無理だ。5人10人なら連れて行けるだろう。しかし、何も準備してない状態で隣町まで行くことも不可能だ。いくらオマエとあの嬢ちゃんが強くとも、100人を超える人間を守れきれないだろう。オレは一度死んだ人間だ。あの村で死なずにここにいるのは、余りのようなものだから、どうなろうとオレの好きにさせてくれ」
肩を叩かれながら言われた。ジンの顔をみることができない。
「わかった、ありがとう。確かに思い付きで、感情に任せて言ってしまったな。オレ1人の力では何もできないことを理解しているんだが、つい思いあがってた。すまない。でもジンたちを迎えに来たいと思っている」
オレの言葉に、ジンは笑いながら強く肩を叩く。迎えに来たいと思っても、きっと二度とここに来ることはないだろうと思った。
そしてそのまま出発することにした。ジンたちは今晩ここに泊まっていけば?と言ってくれたのだが、長くいればいるほど、ここを発てないような気がするから。途中で野営するのは同じことだろう。だから出発することにした。




