表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
718/755

閑話休題 マリヤ・リューブの視点(2)

 どれだけ時間が経ったのか分からない。


 地下室の入り口のドアがノックされた。私たちはビクッとして抱き合う。地下室は階上に男たちが来た時に灯りを消したままだから、真っ暗だ。隙間から漏れていた光も今は消えている。

「マリヤ様?」

 ゴルドンの声で呼びかけられた。

「マリヤ様?」

 もう一度呼ばれた。

「ゴルドン?」

「マリヤ様、いらっしゃいますか?」

「ゴルドン、いるわ!」

「良かった、ご無事なのですね!今、灯りを点けますね」

 そう言ってゴルドンが灯りを点け地下室に降りて来た。真っ暗な中にいた目には、ゴルドンの点けた灯りはとても眩しかった。


「ゴルドン、上はどうなってるの?男たちの声がして、私たちを捜すような声も聞こえたから、じっと隠れていたの」

 ゴルドンは頷き、

「それでようございました。上は大変なことになっております。もう暴徒たちは引き上げたので、出て来られても大丈夫です」

 と言った。そしてゴルドンに先導されて階段を上がると、廃墟となった家の跡があった。玄関のドアは破れ、部屋の中は金目の物は全部なくなり、カーテンや家具は破られ壊されていた。どうすればこんなに壊すことができるだろうと思うくらいの荒らされようだった。応接も寝室も食堂も全部、どうすればこんなに壊せるのかと思うくらいになっていた。しばらくだったけど、父様母様と住んだ家が見る影もなくなっていた。


「この辺りを勢力範囲にしている暴徒たちが、一切合切(いっさいがっさい)持っていったと思われます。荒くれ者の集団ですから、お嬢様方が攫われなくて本当に良かったです。神様が味方なさってくださったのですね」

 とゴルドンは言ったが、神様のご加護があるのなら、もうちょっと助けて頂ければ良いのにと思うのは甘えなのかもしれないわ。私の信仰心が不足しているから、こんなに試練を与えられるのだろうし。でも次のゴルドンの言葉を聞いたとき、やっぱり神様のご加護を失っていると思った。

「お兄様方の行方は知れません。外には暴徒や獣が跋扈しておりまして、とても私に太刀打ちできるものではございません。お兄様方もそういうモノたちに襲われたのか、それともどこかで隠れておられて、戻る機会を覗っておられるのかも知れません。いづれにしろ、お兄様方については戻って来られるのを待ちましょう」

 ゴルドンは待とうと言ったけれど、それは死の宣告に等しいと思った。それはカタリナも同じだったようで、私を見て呆然としていたから。その夜はお通夜のようで、誰も何も言わずに朝になったの。


 朝になるとゴルドンたちは兄様たち、そして食糧を捜しに出かけたけど、今度はカタリナの家の執事が戻らなくなった。そしてゴルドンは何も持ち帰れなかった。次の日の昼にまた階上が騒がしくなり、私たちを捜す声が聞こえた。私たちが隠れていることを分かっているような口ぶりで捜して回っているのが分かったけど、じっとしていると諦めたのかいなくなった。


 ゴルドンたちが食糧を持ち帰れない日が多くなり、備蓄された食糧を細々と繋いで過ごす日が増えた。ある日、ブロヒン家の執事が熱を出した。次いで夫を看病していたブロヒン家の執事の妻も熱を出し、看病する間もなく死んでしまった。ゴルドンがやっとの思いで、2人の亡骸を階上に持ち上げどこかに始末した。


 ある日、ゴルドンが干し肉とパンを持ち帰ってきた。干し肉もパンも久しぶりだった。というのは食糧は枯渇していた。食べる分をいくら少なくしてもいつかなくなってしまう。ゴルドンは自分の食べる分を削って私たちに回していると思っていた。日に日に痩せ細るゴルドン。今はゴルドンだけが私たちを支えている。それだから私たちの分を削ってもゴルドンが食べないといけないのに、ゴルドンが食べていない。ゴルドンに食糧を渡そうとしても、受け取らない。私とカタリナが食べるのを見て、残りを細々と食べるだけなのだ。

 ゴルドンの持って来たパンは白いフカフカのパンだった。その柔らかさに驚いた。まるで焼きたてのようにフカフカで美味しかった。ゴルドンはどこで手に入れたのだろう?もう領都にパンを作っている工房なんてないだろう。それなのにどこにパンがあったのか?干し肉だって見たことないような大きくて厚いものだ。よく噛んで味わって味わって食べる。食べながら、そのありがたさに涙が出た。

 その時、ふとお祖父様と一緒に暮らしていたときのことを思い出した。あの時残していた食事を全部食べていればよかった。残さなければ良かった。そう思うと、余計に涙が出て干し肉にかかってしまった。その私の横で干し肉を口にしたカタリナが倒れた。食べ物にあたったのかと思って、抱き起こすと物凄い高熱だった。すぐに咳が出て、止まらなくなり震え出す。ゴルドンは黒死病だと言った。


 死神がカタリナの側に来ていることが分かった。と言うことは、もうすぐ私にも死神が訪れて父様母様のところに連れて行ってくれるのだと思った。薬も何もない。カタリナの額を冷やす水さえ事欠いている。ただ衰弱するだけのカタリナを見ているしかなかった。

 ゴルドンの妻のボルカが思い余って、階上に行き水を汲んで来るという。冷たい井戸の水を汲んで来れば、カタリナの熱が下がるかも知れないと言うから。でもこんな高熱には役に立たないから止めなさいと言ったけど、ボルカはどうしても、と言い、ハシゴを上がって行った。ボルカが通路の蓋と締めて、しばらくしたら階上で騒ぐ音がした。ボルカが見つかったのかも知れない!今度こそ私たちが襲われる時が来た。カタリナは高熱だし、私だけが連れ去られるのだ。これで最後なんだ、こんな苦しい思いをするなら、もう死んだ方がマシなんだ。


 どこかで私を呼ぶ声がした。カタリナを呼んでいる。この声はゴルドン?ゴルドンがあんな大声を出していいの?暴徒たちがやって来るんじゃないの?ゴルドンの皮を被った死神がやって来たのかしら?ついに私にもその時が来たのかしら?母様から渡された守り剣を握りしめる。暴徒たちがやってきても、この剣で心臓を突けば良い。それでもう、この苦しい世の中とサヨナラできる。守り剣を掴んでいる私の手の上に死神の手が添えられている。


 でもその死神は突如いなくなる。ゴルドンが入り口の蓋を開け、マモルを連れてきた。突然、なんの予告もなくあの凹凸の少ない顔のヒョロッと背の高い頼りなさそうな男と同じような凹凸のない丸顔の女を連れて来た。


 私とカタリナは以前、マモルの最後は主人公たちがみんな死んでしまう物語を思い出して、話をしたことがある。あれは私たちのことを語っていたのだと話していた。けれど、今ここに現れたってことは、筋書きが変わったってことなの?

 マモルの顔を見てからのコトは正直覚えていない。


 

すみません、2話で終わらないため、1日空けて明後日に掲載致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ