スティーヴィーにはみんな驚くわけで、いろいろと
オレはミワさんの護衛ということで、鍋の側に残った。ミワさんがオレの顔を見つめてくるから、これはもしかしてキスの催促かしら?と思い、ミワさんを見つめる。すると真顔で、
「支店長ご夫妻の周りに何か漂っている気がします」
と言いだした。以心伝心ではなかった。ミワさんの言う何かというのは魂、残留思念のことなんだろう。
「それは支店長夫妻の近親者ということ?それが視えるということ?」
オレの問いにミワさんは、
「そこまではっきりとしたことは申し上げられませんが、何かまとわり付いているように思います」
ふむふむ、オレはなんにも視えないけどね。
「マリヤ様やカタリナ様にも何か視えると言ってたよね?」
「はい」
「オレが」
とミワさんと2人なので、ついオレと言ってしまう。
「あちこちで、もちろんここでもオレは気軽に『Clean』を掛けて回っているのに、どうして魂が残っているんだろう?浄化されそうなもんだけど、それに負けない魂が残っているということかしら?そんだけ現世に対する執着の強い魂って怖くない?」
オレの問いにミワさんは、
「これは結果論ですけど、マモル様の『Clean』は魂を狙って掛けておられるわけでなく、漠然と辺り一面をキレイにしようと思って掛けておられるから、浄化されない魂も残るということでしょう」
「なるほど」
説得力のある答えを出してくる。そう言われればそういうものかと思ってしまうオレ。要は雑に『Clean』掛けていたということか。
その時、表から狼の唸る声?が聞こえてきた。そして、歓声が上がる。スティーヴィーが狼を斬ったのか、狼の悲鳴?が聞こえて来る。そして今度はパチパチという拍手。おーーー!とか、スゴい!とかいう声も聞こえて来る。
しばらく静かになって、うわぁーーー!!という声がした。そしてガヤガヤと人の話し声がだんだんと大きく聞こえるようになってきた。狼たちは退治されて、みんな引き上げて来たようだ。
最初に支店長夫妻が来てオレに、
「いや、驚きました!スティーヴィー様はお強いですね!タチバナ様のお言葉でしたが、疑ってかかっていました。しかし、まさかあんなにお強いとは想像致しませんでした!目にも止まらぬというのは本当のことで、あんな細い身体であんなに動けて、狼どもをバッタバッタと斬っていくというのは人間技とはとても思えません!いやーースゴいです!本当にスゴい!!」
と絶賛といって良いくらいの言葉を投げかけてきた。奥さんの方も顔を上気させて、コクコク頷いている。
ヤコブたち3人も、
「アレはすごかったですね、タチバナ様。こう斬ったと思えば、残像を残しつつ横の狼を斬り上げて......」
と実演して見せてくれる。よほど興奮したのか、3人で盛り上がっている。
ゴルドンに背負われているカタリナ様もマリヤ様に一生懸命話しかけている。マリヤ様はそれを面倒くさそうな顔をしていながら嬉しそうに聞いている。やっぱりスティーヴィーのことについては、自分の方が先に知っているという立ち位置があるので、余裕を見せているということか。支店長の息子は顔を赤くして、一生懸命スティーヴィーに話しかけているし。狼を始末しただけなんだが、こんなに全員の気分が上がるなら、この後も1日1回くらいはスティーヴィーに魔物や獣の討伐を見せてもらおうか。
その後もみんなの興奮は中々収まらず、夕食もずっと続いた。スティーヴィーがこの世界に降りてからの戦績を聞いては、その戦いを聞くということが続けられる。まだ距離がある皆さん、特に男性陣に対して、いたってコミ障なスティーヴィーがあまり喋らないので、代わりにミワさんが語るというイベントが発生している。賞賛に次ぐ賞賛でスティーヴィーの表情がより一層強ばっていくのが実に面白い。
「ねえ、マモル。お風呂とは言わないけれど、せめて髪の毛を洗いたいのだけど、できないかしら?」
マリヤ様から相談を受けたので、
「大丈夫ですよ。お湯を用意しましょうか。お風呂も入ろうと思えばできますけど、こんな場所じゃ何が起きるか分からないので、取りあえず洗髪と身体を拭くくらいでガマンしてくださいね」
と返事した。
「ホントに!?」
カタリナ様が反応し、支店長の奥さんが、もしかしたら私もその恩恵に授かれるのかしら?という顔をしてくるから、
「女性の方は全員大丈夫ですよ。その時の護衛はスティーヴィーに任せますから」
と爆弾を投下した。ミワさんは、そら来た!と思い、薄笑いを浮かべている。ゴルドン夫妻はちょっと苦笑いしている。
「スティーヴィーが外で守ってくれているってことね?」
マリヤ様が訊いてくるから、
「いえ、スティーヴィーは女なので、一緒にいても大丈夫でしょう?それとも同性でも裸を見られるのは嫌ですか?」
ここはサラッと言う。さも当然といった感じで言う。ミワさん、唇を噛んで笑いをこらえている。ちなみにスティーヴィーはいつも通り無表情。
「「えっ!?」」
声が出たのはマリヤ様とカタリナ様だけで男どもは無表情。でも薄目にしたり見開いたりと忙しい。そして全員がオレを見て、スティーヴィーを見る。スティーヴィーは仕方なしに腹の辺りの服を押さえて、胸にやや膨らみがあることを見せる。うーーん、少し大きくなってきたような?膨らみが確認できなくても、女性と思って見れば、スティーヴィーってやっぱり女性にしか見えない。でしょ?
「「「はぁ!!!!」」」
2人のお嬢様は絶句している。何か口から吐いたような?支店長の奥さんはやっぱりね、という顔をしているから、これは年の功ってことかしら。男どもはただ無言。ただ、男だと思っていたのが女だったということで、少し嬉しそうにしている。そりゃあね、超イケメンが超絶美少女だって思えば嬉しくなるわね。
フリーズしたままの女性陣をほおっておいて、後のことは任せておき(誰に?)、オレは奥の部屋に湯船を出しに行く。湯船にタップリお湯を貯めておいて、好きにしてもらおう。場所が場所だけに長湯は禁物だ。それはみんな理解しているだろう。
キリが良いので、ちょっと短いですが、ここまでです。代わりにと言ってはなんですが、閑話休題編を明日載せますので、お楽しみ頂ければ嬉しいです。バババ!と書いていて、ちょっと溜まったもので、1話だけのつもりで、明日載せて、その2日後に本編を載せようと思ったら、長くなってしまいました。終わるまで毎日更新予定です。もう3話になってます。
閑話休題と言ってもマリヤ様のお気持ち編ですけどね。
それはともかく、こんな進行状態じゃいつまで経っても領都を出ず、オーガに着くのは800話過ぎるんじゃないかと思うくらいのペースですね。当初の見積では、今ごろは休止のはずなんだけどなぁ。




