終わった、生き延びた
「やった?やったの?ねぇ、もう起きてこないの?大丈夫なの?」
顔だけ出して、マリヤ様がしつこいくらいに聞いてくる。
「大丈夫です。あとは、あの瓦礫の下にいるはずのひょろっとした男がどうなってるか見るだけです」
「ホントに?ねえ、ホント?」
くどいくらいに聞いてくるからスティーヴィーが瓦礫のところに行って、様子を見る。壁の下から見えている脚は動いていない。よく見ると壁の下から血が流れていた。
「死んでる」
スティーヴィーがひょいひょいと瓦礫を放り投げて確認した。それを聞いたマリヤ様が飛び出してきた。
「スティーヴィー!!」
叫びながらオレをスルーしてスティーヴィーにタックルする。かなりの勢いでぶつかって行ったのだが、スティーヴィーは難なく受け止めている。マリヤ様はスティーヴィーの胸に顔をグリグリしてるんだが、スティーヴィーの胸のふくらみは問題になってないんだろうか?スティーヴィーは胸当てを付けているし、何か問題があるわけではないけれど。
とにかくマリヤ様はものすごく怖かったようで泣きじゃくっている。オレはトボトボとミワさんたちのところに歩いていく。身体中が痛いわ。治してもらったけど、限界超えて筋肉使ったみたいでブチブチ切れたところがあるみたいな感じがする。
ミワさんのとこまで歩いて、
「ごくろうさまでした」
暖かくミワさんに言われたらホッとして膝から崩れ落ちてしまった。
「だ、大丈夫ですか!?」
ゴルドンの奥さんが心配して声を掛けてくれたから、手を挙げて大丈夫とアピールする。
『Cure』
ミワさんが呪文を唱えてくれたら、体がホワッと暖かくなって痛みや疲れがどこかに飛んで行った。
「よくぞご無事で」
ゴルドンから声を掛けられると、やった感も出る。奥さんの方を見ると口を手で塞いで目を潤ませている。
「すみません、心配だったでしょう?」
と訊ねれば、
「ええ。ただミワ様は、『私の側にいれば私が必ず守りますから』とおっしゃっておられたので、とにかくお二人が心配でした」
と答えてくれた。
そこでふと思ったのは、第三者のミワさんに対する致命的な攻撃は全反射するみたいだけど、もし殺そうとかいう気持ちがなくて、腕を取るとか叩くとかいうのは通るんだろうか?と。
もしミワさんへの攻撃が通らなくても、側にいる人がミワさんから離されてしまうと、それはミワさんの守備範囲からはみ出してしまうんだろうから、一緒にいる人が引っ張られて離されて殺される、ってこともあるだろう。ミワさんの防衛能力をあんまり過信しない方が良いと思う。もしかして、ミワさん+αの集まりに魔法攻撃とか加えられて、ミワさんだけが助かって、他の人はみんな死んじゃった、なんてこともあるかも知れないし。だから、よくよく注意するようにミワさんに言っとこう。でもミワさんって飛びっきりの不思議ちゃんだから(そう言われるのはひどく嫌ってるけど)、また別の不思議な方法で身を守ることがあるのかも知れない。
もう一つ気になったことがあるので、ゴルドン夫妻に聞いてみる。声を潜めて、
「スティーヴィーは実は女性なのですが、ご存じですか?」
と訊いてみると、
「はい」「存じ上げております」
と小声で返事があった。ちゃんと認識している。
「マリヤ様は?」
しばしの沈黙の後、
「たぶん男性と思い込んでいらっしゃいます」
やっぱりね。
「マリヤ様にお知らせした方が良いでしょうかね?」
オレの問いに対しゴルドンは首を振り、
「短いお付き合いでしょうし、黙っておられても良いのではありませんか?」
と答えてきた。そうね、あえてオレが恨みを買うコトでもないから。スティーヴィーはこっちにやって来ようとするが、マリヤ様にベタベタ絡まれて、中々歩けてない。モテる人の宿命だわな。
「カタリナ様の具合はどうでしょうか?」
そう言いながら顔を覗き込むと、最初に見たときより遙かに顔色も良くなって、単に眠っているだけのように見える。ただ、ひどい栄養失調だが。
「もうすぐ目を覚まされると思いますよ。今は眠っておられるだけのようなモノでしょう。起こしてさしあげても良いでしょうが、やっぱり自然と目を覚まされるのを待った方が良い気がしますので」
ミワさんが解説してくれた。
「そうだね、誰だって起こされるのはイヤだし」
カタリナ様は自ら目覚めるのと待つことにした。
でもスティーヴィーとマリヤ様が戻って来たらマリヤ様が、
「夕食の準備ができたら、カタリナを起こしましょうよ。眠っているだけなら、早く美味しいモノを食べさせたいわ。だって、ずっと食事らしい食事をしたことなかったんだし、カタリナだけが食べれないなんて可哀相よ。それに目が覚めたらビックリさせたいし!うふふふ」
最後のビックリというのは、スティーヴィーを見せてカタリナ様を驚かせたい、ということなんだろう。
さてさて、ゴルドンにロマノウ商会に行きたいと言うと、実は近いと言う。そこでまだ日暮れには時間があるので、ミワさんたちには夕食を準備してもらうことにして、オレとゴルドンはロマノウ商会に行くことにした。夕食も出来合いの在庫はなくなっているので、一から作ってもらわないといけない。パンを食べたければ生地を作ることからスタートする。さすがのミワさんもそこまではしないし、ゴルドンの奥さんもあまり時間を掛けたくないという顔をしている。そこでミワさんはほうとうを作ると言い出した。
「賛成!」
と言ったものの、
「味噌がないよ?」
と言えば、
「まだ在庫をお持ちでは?」
探るような顔で聞かれる。確かに6人分、もしカタリナ様が目覚めたとしてもその分くらいの味噌はある。
「せっかく当初の目的が達せられたのですからお祝いしましょうよ!」
ニンマリとした顔で言うミワさん。ほうとうをお祝いというのはオレとミワさんだけで、他の5人は単なるスープをアレンジしたモノくらいの食べ物だろう。でも、久しぶりに食べたいと言えば食べたいし、たまに塩+香辛料以外の味付けを味わいたいので、超貴重な味噌をミワさんに渡す。ミワさんを斉藤さんに会わせれば味噌や醤油の作り方を伝授してもらえそうな気がする。マリヤ様とカタリナ様をオーガに連れて行ったら、次は帝都に行く用がないか大公様に聞いてみようか?




