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あと少し!

 大男がまた一瞬の間を空けた。それをスティーヴィーが見逃すはずがない。スティーヴィーの剣が大男の腹を薙ぐ!が、剣と大男の間に光が生じて、大男に何も傷は付かなかった。今度はスティーヴィーも大男が鎖帷子を着ていることを知っていたから、それを見越しての斬撃だったはず。それでもまったく攻撃が通らなかった。服さえ斬れていない。


 なぜ?と思い、転移者を見る。ヤツは地面に座り込んでいるが、こっちに向かって手を伸ばしている。コイツが何かやったのか!とにかくコイツを片づけないと大男は倒せない。


 そいつに向かって石を投げる。が、不可視の板、要はバリヤがあったようで跳ね返された。おまけにオレの投げたスピードより速くなってオレに戻って来た。それを辛うじて避けた。これは直接攻撃しないとダメなんだろう。少し離れているだけでも魔法を使われて防がれてしまうんだろう。大男の攻撃範囲に入らないように立ち回りして、そいつになんとか近寄ろうとする。しかし、そいつが不可視の塊を飛ばして来た!これは、そんなこともあろうかと思ってバリアを用意しておいたので、なんとか弾いて防げた。


「タチバナ様!」

 スティーヴィーが声を掛けてくる。何かと思ったら、オレの剣を拾って投げてきた!目の前に剣が刺さる!剣が壁に刺さり、ビヨーーーン!!としなる。


 えっ、オレの剣はスティーヴィーに持てるのか?どうして?転移者だから?それはないだろう?昔、リファール商会に入った盗賊のボスが転移者で、オレの剣を持てなかったはず。としたらオレの仲間だから持てるのか?パーティだと武器を共有できるかというチート設定があるのか?それじゃなかったら、スティーヴィーが転移するとき神様と「なんでも軽々と持てる」というスキルをもらっているんだろうか?

 とにかく、スティーヴィーがオレにオレの剣をパスしてくれた。その剣を壁から抜く!んんん、抜く!!んんん、抜くぅぅぅーーー!!!!やっと抜ける!どんだけの力でスティーヴィーは投げたんだ?これならオレに投げずに、アイツに投げれば倒せたんじゃないのか?


 剣を抜いた拍子に、力を入れすぎてよろけてしまった。そこに大男の剣が薙いで来た。大男もスティーヴィーと戦っていながら、オレを攻撃してくるなんて、どんだけ余裕あるんだよ。あっ、アイツが魔法でフォローしてもらっているから余裕こいているんだろうか?


 剣を躱した!目の前を剣が過ぎて行く。そこに横から不可視の塊が当たる!!バリヤごと飛ばされた!風景が面白いように流れる。これはオレが飛ばされているだけなんだけど、脚が地面に付いていない状態で横に移動している。これは何かに当たるまで止まらないだろう。当たり所が悪かったら死ぬってヤツか?などと余計なコトを考えてしまった。


 ガン!!!!


 音がするくらいの衝撃で、身体が廃屋の石の壁に当たって止まった。飛ばされている時にバリヤを重ね掛けしてても、左肩が潰れたかと思うくらいの衝撃がある!身体のダメージも大きかったが、廃屋の壁が砕け散るくらいに壊れた。


「きゃっ!?」

 マリヤ様の声がした。横を見ると壁に隠れていた。なぜかミワさんもいるし、ゴルドン夫妻がいて、ゴルドンがカタリナ様を背負ってる。

「どしたの?」

 ミワさんに聞くと、

「いつでも逃げられるようにって。マモル様、治します!『Cure』。はい!頑張ってください!私たちの命運はお二人に掛かっています!」

 いとも簡単そうに送り出してくれた。


 身体がこんなに軽かったかしら?と思うくらい、動く。オレが立ち上がったときを狙ったのか、また魔法使いのアイツから不可視の塊が飛んで来た。オレが避けても後ろにいるミワさんたちに当たるようにと狙ったんだろう。それをバリヤが弾く。バリヤもさっきまでと段違いの弾力性を持っている。聖女の力は偉大だ!ってとこだろうか?不可視の塊って思っていたけれど、何か見える!初めてコンタクト入れて、急に世の中が良く見えて視界が広がったのと同じ感じがする!

 転移者のアイツがまた何かしようと、口が動いているのが見える。くそ!!剣の柄を握り直し、アイツに向かって全力で投げる。魔力攻撃は弾かれるような気がして、物理力となるとコレしかないような気がした。近寄るのも中々上手くいかなさそうだ。それなら最大の物理攻撃はコレしかないだろう!


 剣がクルクル回転しながらアイツに向かって飛んで行く。アイツは驚いて両手を前に出した。バリヤを張ろうとしたんだろう。


 オレの投げた剣を大男が叩き落とそうとしたが、スティーヴィーが邪魔して大男に攻撃を加える。大男がスティーヴィーに向かざるを得なくなり、オレの剣は回りながらアイツに向かって飛んで行く。アイツの前に張ってあるバリヤが次々に割れていく。バリヤを割っても剣の勢いは落ちない。ついにアイツの隠れている壁にぶつかって止まった。壁が盛大に崩れてアイツが下敷きになった。崩れた壁から片足が見えている。助けてくれというように脚が動いている。剣を取りに行こう!トドメを刺すんだ!


 オレがアイツに近づこうと思ったのと同時に、大男も近づいて助けようと思ったらしいが、そんなことスティーヴィーが許さない。オレから見ても、スティーヴィーの攻撃が一段と速くなっている。スティーヴィーの顔には血の流れた跡がそのまんま残っていて、拭いてさえもいない。あんな細い剣で大男の極太の剣に負けずに斬り合っているものだ。


 ついにスティーヴィーの剣先が大男の胸の前に入った。大男は焦って後ろに下がろうとする。そのとき、脚がもつれて体勢が崩れた。スティーヴィーの剣先が大男の二の腕から手首に滑るようにツーーーーっと移動して、大男の小指を削いだ!革手の上からだったが、小指の先が血を流して飛ぶ。

 たかが小指と言うなかれ。剣を握るときの小指は絶対に必要だ!大男は剣を握り直すが、途端に剣の速さが遅くなり、ブレて不確かになる。背中の矢でも動きは緩まなかったのに、小指がなくなった途端、怪しくなった!それにスティーヴィーの攻撃が届く!


 大男のスティーヴィーに対する警戒度が目に見えて高まった。ということはオレに対する警戒が緩む。その警戒心の緩んだ背中が目の前に来た!剣を刺そうと構えた時、

「チャンス!!」

 とマリヤ様の声がした!大男がクビを回してオレを見る。遅れて剣がオレに振られて来る。チャンスどころかピンチになった!

 が、その時、大男の身体が揺れた。大男の脇から血が噴き出した。その向こう側でスティーヴィーが剣を薙いだ残影が見えた。スティーヴィーは無表情のまま血を浴びている。


「くそぉ!!」

 大男が叫ぶ。コイツ、言葉を喋るんだって驚いたが、そんな暇があるなら攻撃しろよ!と言われそうだ。案の定、

「休んでいる暇はないわよ!!」

 とマリヤ様から活が入る。分かっているけど、剣は投げてしまっているから、魔力袋の中から武器を出すしかないんだって。


 魔力袋の中で握ったのは、単なる鉄の棒!直径2㎝ほどだけど、長さは2m弱はありそうなヤツ。これなら折れようが曲がろうが気にならない。

 大男の背中から殴りかかる。大男はそれに気づいて位置を変えようと後ろ跳びする。オレの鉄の棒は空振りしたが、大男の動きに合わせたスティーヴィーが大男に詰め寄って、剣を斬り上げた!大男の手首が切断され宙を舞う。それを大男が目で追う。もうダメだと思ったか?動きが止まった。

 スティーヴィーは斬り上げた剣を横にして跳び上がり、下から大男の首を切り裂いた。スティーヴィーと大男の身長差が大きすぎて、首の半分ほども斬れなかったが、パックリと切り口が割れて見える。そこにオレの鉄棒を叩き入れた!


 大男の動きが完全に止まり、棒立ちとなり、ゆっくりと倒れていった。地響きが起きる。スティーヴィーは男の胸に乗り、剣で大男の心臓にトドメを刺した。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 熱い戦い [一言] 脳内の映像?だけでこれだけの戦闘描写をするのはスゴイですね。
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