スティーヴィーを呼ばなくては
視線がなくなったということは、オレが魔狼を退治したことを見て、報告しに行ったということなんだろうか?これで諦めてくれたら良いけど。それとも勢力を整えて攻撃してくるのか?それともオレが感知できなくなった?
ポカン!
頭が叩かれた。
「マモルのバカ!」
マリヤ様が叫んで暴れる。ポカポカポカと叩き続ける。
「すみません、マリヤ様。何がバカなんでしょうか?私が一体何をしたと言っておられるのか?」
「んんもぉーーー!だからバカだって言うんじゃない!私の言うコトを聞かずに、勝手に戦って、勝ったからイイけど、負けたりケガしたらどうするつもりだったのよ!!」
オレの背中で暴れるマリヤ様。おっとっとっと、落としてしまいそうになって、ついオケツを抱えてしまった。痩せて肉の付いていないオケツ!そのためと言うのか、そうでないのか、スルッとオケツの間に指が入ってしまった。もちろんパンツの上からであるけど。
「※〇□×*ーーーー!!」
何を言っているのか分からない絶叫が上がり、マリヤ様がオレの背中で立つ。
「あ、あ、あぶないーーーーー!」
落としそうになって、慌ててマリヤ様の足首を掴んだ!が、それが良くなかった......マリヤ様の片方の足首を持って、吊り下げる形になってしまった......スカートがめくりあがって(めくり下がって?)パンツが丸見えになった。結構パンツはくたびれていて、ツギが当たっているカボチャパンツ。ツギには花の刺繍がしてあったのはご愛敬?うーーん、コレを見て嬉しい男っているのかしら?いろんな趣味の方がいらっしゃるからなぁ、世の中には。
そう考えたのは一瞬だったと思う。が、
「☆◎〇△□※*ーーーー!!」
さらなる絶叫が辺りに鳴り響く。つい足首を放してしまった。
ドサッという音とともに頭から地面に落ちるマリヤ様。それを呆然と見つめるオレ。ゆっくりと起き上がるマリヤ様。目が憤怒で燃えさかっている。怖いデス......。
「どうされました!」
ちょうど良いタイミングでゴルドンが走って来た。ギ、ギ、ギと音がするんじゃないかと思うようにマリヤ様が首を回してゴルドンに向く。めくれたスカートは直されている。
「ナンデモナイワ。キニシナイデイイノヨ」
マリヤ様から感情のまったく籠もっていない言葉が紡がれる。
「そうですか、何があったのかと思いました。うおっ!?」
ゴルドンが魔狼の死骸を見つけて、声を挙げた。
「こ、これは?」
「マモルが倒したの!」
オレが言う前に答えてしまうマリヤ様。エヘン!という声が聞こえてきそうな。パンツ見た事件は不問に付されそうな気がする。あの一連の流れは起きていないことになったんだろう。
「これは見事なモノですね、マモル様。よくぞコレを討伐されました」
ゴルドンが感嘆の声を上げる。
「でしょう!」
ナゼかエラそうなマリヤ様。言外に、もっと褒めても良いのよ、と言ってるような気がする。まあ、良いけどね。
「この魔狼はどうされるのですか?ここで解体されるのでしょうか?と言っても解体するための刃物を私は持っていないのですが。解体の仕方の知りませんし」
ゴルドンが訊いてきたが、これに対しては無言のマリヤ様。こぼれそうな大きな眼でオレを見ている。黙っていれば美少女なんだけどなぁ......。
「ここでは解体できないですし、人もいないので収納します。ジンの砦に持って行って解体しようと思います」
ゴルドンは頷いて、
「そうですか。それならよろしいです。ここに置いておくと、どこからか人が集まって来て、勝手に解体していくでしょう。私たちのことを見逃してくれれば良いのですが、きっとそうはならないように思いますので」
そうか!さっき監視の目が消えたのは、解体するための人工の手配に行ったのか。オレ1人とマリヤ様では解体できるはずがないと思って、魔狼を横取りするつもりだったのか。ということは、もうしばらくしたら監視してたヤツらは仲間を連れてやって来るな。
カタリナ様たちの所に戻ると、ミワさんがカタリナ様の額に手を当てていた。
「だいぶ落ち着いて来たと思うわ。でもかなり衰弱していたので回復は遅れそう。明日の朝までに意識が戻ると良いけれど」
と教えてくれた。頰に少し赤身がさしてきたように思う。ミワさんの見立てに多少のブレはあるにしても、希望的観測だが明日には意識が戻るってことか。明日に移動しようと思ってたけど、明後日になりそうだ。
陽が傾くと周りの家の陰になるためカタリナ様を寝かしている場所は暗くなってくる。中庭に移動して、屋根のない所で灯りを作る。
「スゴいわ!便利なモノね!」
マリヤ様からお褒めの言葉を頂いたモノで、嬉しくなってもう1個作る。今度は少し大きめで10㎝ほどのモノを作ってクルクル回す。そこで思い付いた。コレを高く揚げておけば、スティーヴィーが見つけてくれないか?ってことを。
灯りというより、炎の玉を作る。10㎝と言わず、30㎝くらいにして色は赤くしよう。それを空に揚げていく。5mくらいに揚げる。人工太陽みたいだ!宇宙開発で太陽から遠い惑星の周りを回す人工太陽なんて夢があるよなぁ!と思ってさらに高く10mにしてみる。いよいよそれらしくなって来た。男のロマンってヤツはこういう所で成し遂げられるんだよ!と自己陶酔していたのに、
「何しているの?」
冷たい声がかかった。当然マリヤ様で、ここで男のロマンを語った所で理解してもらえるはずもないので、
「仲間に見つけてもらおうと、目印にしました」
と言うと、
「こんなことして、来るわけないじゃない。それに何人で来るの?えっ、1人?こんな悪党ばかりのところに来るなんて危ないコトこの上もないのよ?無理よ、無理!それによ、暗い所で火の玉がゆらゆら浮いているのは、どう見ても怪しいわ。魂か鬼火が漂っているように見えるわ!」
マリヤ様は冷たく断言なさる。しかしなぁ、スティーヴィーはきっと見つけてくれると思うよ、不可能を可能にするんだよなぁ。
10分も経たないうちにスティーヴィーが到着した。前の道にスティーヴィーが来たことが気配で分かった。
「スティーヴィーが来た」
と告げると、ミワさんがニマッとする。コレはマリヤ様がスティーヴィーを見て、どういう反応をするか期待してのことだろう。
「マリヤ様、私の連れが来ました。おーーい、スティーヴィー!奥にいる!こっちに来てくれーー!」
オレの叫びに応えて、スティーヴィーが音もなく入って来る。
マリヤ様はスティーヴィーという名前を聞いて、どんな男が来るんだろうと不機嫌そうな顔をしていた。黒死病が流行ってから、マリヤ様の前に現れる男はろくでもないヤツばかりだったのだろう。男というだけで歓迎しない雰囲気を醸し出している。
「来た」
オレの声に合わせるように、スティーヴィーが部屋に来た。マリヤ様の表情が凍った、口を開けたままで。スティーヴィーを見ようと首を回した所で動きが止まり、不自然な姿勢のまま凍りついているマリヤ様。
「えっ!」
ゴルドンの奥さんが声を上げた。意外な所で反応がある。いやいや、ゴルドンの奥さん、ボルカさんもやはり女性だった。
「あそこで待ってた。でも来ないから、ここだと思って来た。目印あって良かった」
女性?2人の反応なんぞまったく気にせず、オレに淡々と話すスティーヴィーの顔をジッと見るマリヤ様。見るというより見つめる、穴が開きそうな程見つめている。マリヤ様、まだ口が開いたまま、口の端から涎がこぼれそうな。
「マリヤ様、紹介します。私の部下でスティーヴィー・ニックスです。よろしくお願いいたします」
敢えて女だとは言わない。種明かしは、また別の時にしよう。
しばらくあってマリヤ様の魂が戻って来た。
「マ、マリヤ、マリヤ・リューブよ。よ、よろしくね」
なぜか立ち上がってパタパタとスカートを叩き、髪の毛を手ぐしで整えながら、上から目線で挨拶するマリヤ様。顔が紅い。いやコレは灯りのせいか?違うよな、これがスティーヴィーに会ったときの女性の普通の反応だよな。
「スティーヴィー・ニックスと申します。よろしくお願いいたします」
スティーヴィーはカーテシーでなくペコリと頭を下げた。それで満足したのかマリヤ様はフン!と鼻を鳴らした。スティーヴィーがマリヤ様の顔を見たときは、目を逸らしている。目を合わせることができないんだよなぁ。
これはカタリナ様が目を覚ました時が楽しみだ。




