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ゴルドンの告白

 いろいろ考えてみても面倒なので、これは直接聞いてみることにしよう。うん、それがイイ!


「ゴルドンさん、聞きたいことがあるのですが、正直に答えて頂けませんか?」

 そういうとブルッと身体を震わせて顔を向けるゴルドン。顔から表情がなくなっている。今から何を聞かれるのか心得ている感じがする。予想していたのだろう。


「ゴルドンさんは、2人の少女と1人の女性を養っておられますよね?」

 ズバリ聞く。ゴルドンは唾をゴクリと飲み、

「それをなぜ?」

「昨日、あなたが帰って行くのを付けさせました。あなたを襲おうという輩がいましたので、それを排除する目的です」

「ああ、あの女性ですか。そうですか、道理で帰り道は、何も起こらず家に帰れました。不思議なくらい、穏やかだと思ったのですよ」

 はぁ、とため息を付く。


「それであなたの養っているというか、匿っている少女というのはどなたでしょう?私の知っている人ではないのでしょうか?もし知っているなら、私が確保してオーガに連れて行きたいのですが。それとあなたは、その少女たちとどのような関係なのでしょうか?主筋のように思えるのですが、どうでしょうか?少女たちの行く末が心配でしょうが、それでもここに暮らしているよりは、はるかに安心安全だと思います。いかがでしょうか?」

「うーーーん」

 ドルトンが目をつむり考える。


「あなたの匿っておられる少女の1人は、リューブ様の孫娘のマリヤ様ではないのでしょうか?あなたはリューブ様の家で働いておられて、それで黒死病が広まるにつれて、マリヤ様を連れて隠れられたのではないのですか?」

「はぁ......」

「違いますか?」

「ええ、おっしゃる通りです」

 お、ついに認めた。

「ホントですか!?」

 あきらめた顔をしたゴルドン。

「はい、今さらウソを申し上げても仕方ありませんから。タチバナ様のおっしゃる通り、私はリューブ様のお屋敷で内向きの執事を仰せつかっておりました」

 なるほど、だからオレはこの人を知らないんだ!


「リューブ様がヤロスラフ王国の占領地で病を得られて、意識が戻られないまま戻って来られましたが、程なくして亡くなられました。その上、辺境伯様のご次男様がイズ公爵様、いえイズ大公様に囚われましたり、占領地の失政の責任を全部リューブ様のせいにされたりしまして、リューブ様のご子息様一家は没落の憂き目に遭われまして、程なくご子息様も病の床に伏せられて亡くなられ、一族離散されてしまいました」

「なんと大変な......」

「それでもまだ日々の生活はできていたのですが、黒死病が領都に蔓延しだすと食べるモノにも事欠くようになり、領都の中は、強盗や略奪が日常茶飯事になったのです。それで私と妻はマリヤ様と兄のレオノ様を連れ、ブロヒン様のお宅に逃げました」

「えっ!ブロヒン様のお宅ですか?確かブロヒン様はオーガにおられますよ?」

「そうです。ですが、ブロヒン様は領都のお住まいをそのまま残しておられたのです。執事がお宅を守っておられました。こういう時のために準備されていたらしく、蓄えが備えられてあり、私に誘いがあり参りました。そこにはすでに、ポリシェン男爵様の奥さまとお子様2人もいらっしゃいました。ブロヒン様はポリシェン男爵様とご友人であったので、このような災厄の時に招かれたのだと思います。ブロヒン様はこういう事態を見越しておられたのですね」

「そうなのですか。そしたらブロヒン様の家にポリシェン男爵様の奥さまとお子様がいらっしゃるのですか?」

 ゴルドンは首を振り、

「いいえ、奥さまはポリシェン男爵様が亡くなられた後、病がちであったので、移って来られた後、すぐに病気で亡くなられました」

「そうなんですか。では他の方は生きておられるのでしょうか?」

 ゴルドンは言うのが辛そうに、

「いえ、次から次へと亡くなられました。今、残っているのはリューブ様の孫娘のマリヤ様、ポリシェン男爵様の娘のカタリナ様、そして私と妻の4人です......というのも、ブロヒン様の家で蓄えがあると言っても、それも限りがあり、外に食糧を捜しに出る必要が生じました。それで食糧を捜しに行かれたレオノ様とポリシェン男爵様のご子息のヨハネ様は戻って来られず、ブロヒン様の家の執事夫妻、ポリシェン男爵様の執事も行方不明になったり病で亡くなったりしました。それで恥ずかしながら、今は私たち夫婦しかお二人をお世話しておりません......」

 ゴルドンは歩きながら泣き始めた。


 前にオレが領都に来た時、あのカタリナ様の笑顔が溢れていたポリシェン男爵様の家族は誰もいなくなったんだ。あの家にいた執事やメイドたちもみんないなくなったのか。横を歩くミワさんもすすり泣いている。


「それに、実はカタリナ様の具合が悪くて、黒死病に感染されて......」

 ゴルドンの言葉が切れた。

「「えっ!?」」

「夕べ、急に具合が悪くなられて、食べられた干し肉を食べることができず......」

「「えっ!?」」

 

「ちょ、ちょっと早く言ってください!すぐ行きましょう!治しに行きましょう!早ければ治ります!間に合います!早く!早く!」

 ミワさんがゴルドンに縋り付くようにして怒鳴る!

「そ、そんな?黒死病ですよ?治るわけが......」

「大丈夫!治ります!私が治してみせます!早く言ってくれれば良かったのに!行きましょう!早く行きましょう!!」

 ミワさんがゴルドンの袖を引っ張り破いてしまいそうな勢いで言う。

「しかし、黒死病は不治の病では?」

「ですから私が治します!治してみせます!!」

 そうだった、ゴルドンには治療のこと、ろくに話していなかったし、見せたことがなかった。それに治せるからと言われて信じれるはずがない。


「とにかく早く行きましょう!時間との勝負です!早ければ早い方が良いです!!」

 ミワさんがゴルドンを引っ張る。ミワさん、焦るのは分かるが、行き先も分からないんだが。


「分かりました。急ぎます」

 ゴルドンが歩き出す。その後を付いていくのだが、遅い。それでもミワさんと同じくらいだ。いくらオレでも2人を背負って歩くことはできない。途中、荷車でもないかと思って歩いて行くのだが、こういう時に限ってない。馬車はあるけど、馬車を引っ張り続けていくことなんて無理だから。


 そのうちゴルドンが、コホコホと乾いた咳をしだした。昨日は気にならなかったが?

「ゴルドンさん、もしかしたら病気かも知れません。もしそうじゃなくても、咳が気になるので予防のために治療しましょうね」

 ミワさんがゴルドンの了承得る間もなく強引にゴルドンの背中に手を当て、

『Cure』

 と唱えると、ゴルドンの胸が輝く。ゴルドンが眼をぱちくりしながら、ミワさんを見て、オレを見て、自分の手を見る。


「どうですか?」

 ミワさんが聞くと、

「ええ、暖かい感じがします。胸のつかえが取れました。痰がなくなった感じがします。あぁ、楽になりました!身体が軽くなった感じがします!スゴい!スゴいですね!!」

 ゴルドンが最初は落ち着いていたけど、だんだんと興奮して言う。


「そうでしょう?」

 ちょっと自慢げなミワさん。

「ありがとうございます!信じてなかったのですが、今はっきりと分かりました!早く行きましょう!」

 ミワさんの手を引っ張って歩き始めるゴルドンに、ミワさんも苦笑いである。ゴルドンの歩きに力強さが入った。ミワさんが遅い......。


 それでも太陽が中天に昇る前に、ある廃屋の前に着いた。玄関のドアが半分外れている。窓がカチャカチャに壊されている。

「ここです」

 ゴルドンがドアを持ち上げて、横にずらした。

 

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