ロマノウ商会に行く
オレの言葉に安心したのか、少年いや、ジョン・クロフォードは横になってすぐに眠った。4人はこじんまりとまとまって眠っている。
その後、スティーヴィーがあの男を付けて行ったときのことを語り始めた。
「あの男の住処はここから少し離れた廃墟の地下にあった。中庭の奥に入り口があって、ちょっとやそっとでは見つからない。そしてあの男は、少女を2人と男と同じくらいの年の女がいた」
「そうか。やっぱりあの男は、食糧を持ち帰るために、オレたちの前で食べなかったのか」
「たぶん、そうだろう」
「あの男の跡をつけていたヤツらがいた。見張っていたので始末した」
「やっぱりか。それでそのことはあの男に気づかれたのか?」
「たぶん、大丈夫」
「そうか、ありがとう」
そこにミワさんが聞いてきた。
「スティーヴィーはその人たちに何か置いてきたの?」
置いて来れば良かったのに、というニュアンスのミワさんの問いに、
「何も置いてきていない」
スティーヴィーはあっさりと答える。
「ミワさん、ここは置いて来ない方が正解だと思う」
「どうして?」
「あの男はまだオレたちを信用していない。それなのに接近しすぎると、警戒して姿をくらましてしまうかも知れない。そうすると、せっかく今まで生き延びてきたのに、危険な目に合うかも知れない」
「そんな。私たちの所にくれば良いのに?」
そう言うとジンが、
「そんなこと言ったって、会ったばかりの人間を信用できるわけがないさ。食い物くれたからって、そんな簡単に信用してたら今まで生きていられないって。聖女様はマモルと嬢ちゃんの絶対強者と一緒にいるから分からないんだって。あの男は、きっと普通の何も戦う術を持ってないヤツだろうから、人を疑って疑って今日まで生きてきたんだろうよ。食い物をホイっと渡されたからって、それに毒が入ってないなんて、分からないじゃねえか。だから時間掛けて信用してもらうしかねえさ」
すごく分かりやすく解説してくれた。
「それもそうね」
ジンの言葉に納得してくれるミワさん。
夜中になって、時折、野犬の群れが通りかかる。それをスティーヴィーが何も言わず退治しに行く。これは今夜だけのことではなく、きっと日常なんだろう。野犬、狼、虎、ヌエ、ケルベロスとありとあらゆる獣や魔獣がいる領都。でもきっと、もっとも怖いのは人間なんだろうな。
翌朝、朝日が登ると目が覚めた。子どもたちは寝ている。しかし、それを見つめているとジョンが目を覚ました。
「ジョン、オレたちはこの後、ロマノウ商会に行く予定だ。オマエたちを連れていくと足でまといになってしまう。だからオマエたちは、このジンとスティーヴィーと一緒にジンのいる拠点に行ってくれ。ここにいれば、いつか全滅するだろう。ジンの拠点には数十人が生活していて、食糧はある。子どもが4人くらい増えても大丈夫だと思う。だから行ってくれ」
オレが言うとジョンは、
「分かりました。おっしゃる通りにします。ジンさん、スティーヴィーさん、お願い致します」
と丁寧に頭を下げた。そして寝ている子どもたちを起こして、干し肉を食わせて準備させる。準備と言っても、顔を洗わせるだけだが。
さあ出発しようとなったとき、スティーヴィーを呼び寄せて、
「スティーヴィー、まさかと思うがまたケルベロスみたいのが来たなら、最優先はスティーヴィーの命だからな!2番目がジンの命、そして子どもたちの命だ。その順番を間違えるなよ。絶対にだぞ!」
と耳元で囁くとスティーヴィーは驚いたようで、
「分かった。でも、それで良いのか?」
と聞き返して来た。
「そうだ!スティーヴィーをこんな所で失いたくない。何があってもスティーヴィーは生き延びろ。そして今晩、ここに帰って来い!」
と強めで言う。それを聞いたスティーヴィーは白い頰を少しだけ紅くして、
「分かった」
と答えて子どもの所に行った。後で考えてみると、コレって口説いたのと同じだったか?と心配なったりしたんだが。




