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4人の少年少女を保護する

「もう!!バカなんだからぁ!!」

 ミワさんが大きいほっぺをさらに膨らませて怒った。それも激怒ってくらいのヤツで。バカなんて言われたの、初めてじゃないか?ってくらいの。あんまりほっぺを膨らませると元に戻らなくなるよ、って言いたかったけど止めたし。


「今までの話からすると、こうなるの分かってたでしょう!!説明するより見せた方が早いって思うかも知れないけど、子どもたちの仲間が食べられて、命からがら逃げたんでしょう!!もう!こんなの見せたらトラウマになっちゃうんだから!!!!」

 握りしめた拳が揺れている。


「はい......」

 そうだ、ミワさんの言うコトは正しい。ナゼかこの時、同僚の結婚式で聞いた金言を思い出した。『妻の言うコトはすべて正しいですから、返事は常に「ハイ」ですよ』と。

 との言葉が頭の中で鳴り響く。その金言が浮かんで来たというのは、オレの中でミワさんの言ったコトに反発する気持ちがあったのだろうか?イヤイヤ、ミワさんは正しい、絶対に正しいのだ。


 ケルベロスを収納すると、辺りは小便の臭いだけが残った。

「急に出すからオレでさえチビったぞ」

 ジンの率直な感想はどうでもイイ。


「悪かったな」

 そう言いながら『Clean』を掛ける。少女がスティーヴィーにしがみついている。


「アイツに食われたんだ......9人があっという間だったんだ」

 年長の少年が言う。

「9人食って、満足したのか、隠れているオレたちを見逃してくれたみたいだった」

 ガタガタ震えている。

「そうか、それは幸運だったな。悪いコトをした。メシを食え」

 一転して、オレが1番悪いヤツになってしまった。こうなるとコイツらに食事を与えるしかないだろう。


 竈を作って鍋を出し、水を入れる。集めてきた木っ端に火を付ける。少年たちは目を丸くして見ている。

「どこから出したの?」

「どうして水が出たの?」

「どうやって火を付けたの?」

 質問攻めになってしまった。結局、オレたちはヤロスラフ王国から来ていて(公国は知らないから)ヤロスラフ王国では魔法を使える者が多くいて、これは全部魔法なんだと説明する。そして魔法を使っても魔女とか悪魔とは言われないと説明したが、魔法を使うことについて、ドン引きされる。この反応に慣れてきたとはいえ、純真な子どもからそういう目で見られるのは嫌なものだ。さっきのミワさんが使った『Clean』は問題なくて、オレが使うとNGというのはどういう違いなんだろうか?


 とにかくこの子らはみんな貴族の子なんだ。何より先に食事を与える。鍋ができるまで干し肉を与えると、飛びつくように取り、しゃぶり始めた。ちょうど歯の抜け替わりの時期の子もいて、というか全員がそうで、噛みきれずにしゃぶって柔らかくしている。そのおかげで時間がかかり、鍋ができたとき、ちょうど肉を完食した頃だった。


 まともなモノを腹に入れていないと思ったので、最初は雑炊に近いモノにした。もちろん米はないので(貴重品なので)小麦を代用する。


 これもがっつきながら、4人が満腹になった頃、質問を始めようと思ったのだが、3人は寝てしまった。

「オマエの名前はなんと言うんだ?」

 オレの問いに少年はキリッと居住まいを正して、

「私の名前はジョン・クロフォードです。父は辺境伯様より騎士爵を拝命しておりましたが、黒死病で亡くなり、母も父の後を追うように亡くなりました。兄と妹も病気で亡くなり、私は天涯孤独となり、この者たちと暮らしております。

 黒死病が流行しだしてから、次々に人が死に、そのうち食糧が足りなくなり、みんなで食糧を持ち寄って暮らしていたのですが、他の者たちから攻撃受けたり魔物が襲ってきて仲間が減ったりして、この4人になってしまいました。もう食べるモノもなくなり、死ぬだけだと思っていたのですが、あなたたちを見て......申し訳ございません......」

 涙を流しながら頭を下げ、謝罪の言葉を述べる。このしゃべり方が地なのだろう。ただいつもこのしゃべり方だと、侮られてしまうから、わざわざああいう話し方をしているんだろうな。

 聞いた話は、子どもにとって大変な経験だと思うが、それはカニフに住んでいる子どもだけでなく、辺境伯領に住む者全員が経験していることだろう。ただこの少年たちが幸運だったのはオレたちに出会ったことだろう。他の者たちを襲っていたなら、間違いなく殺されていただろうし、今頃は道ばたに転がっていただろう。


「オレたちは、ヤロスラフ王国のオーガという町から来た。前財相のリューブ様の孫娘を捜してきてくれとブロヒン様から依頼があってきた。おれはポリシェン様に世話になったことがあって、ポリシェン様のご家族が生きていないか捜しに来た」

 あまり期待せずに聞いてみる。

「そうですか、大変申し訳ありません。ポリシェン様のご家族のことは知りません。あの家もご当主が亡くなられて息子が跡を継いだのですが、黒死病が流行すると奥さまのご実家に行かれたと聞いています」

 それを聞いて、ポリシェン家で見た遺体はポリシェン家の家人の者ではないのか、と思った。幸いと言ってはいけないかも知れないが、アレはポリシェン家とは赤の他人の可能性がでてきた。


「父は長年、辺境伯様の元で辺境伯軍の一員として働き、ヤロスラフ王国遠征軍にも参加しておりました。しかし、ヤロスラフ王国で黒死病が流行したそうで、急遽領都に戻って来た後は家に帰ってくることもできず、ずっと隔離されて......ずっと会えず......ついに一度も、顔を見ることなく亡くなったと聞いております。それを聞いた母は......心を病んでしまい、うううう......自死致しました。それで我が家も崩壊してしまい、私は孤児となった者たちと一緒に生活していたのですが......仲間もほとんど死んでしまいました......毎日、生きて行くのが精一杯で......うううう......これからどうやって生きて行けば良いのか、分からず、うううう............」

 しまいには泣き出してしまった。この少年の境遇というのはカニフでは珍しいことではないのだろうが、目の前で吐露されると、やはり涙を誘われる。


 オレの言えることは一つ。

「もし良ければ、オレと一緒にヤロスラフ王国に行って、オレの領地の村で生活しないか?そこは戦争に巻き込まれて復興途上なんだ。そこでこの少年たちと一緒に働いたらどうだ?騎士も必要としているし、文官も要る。良ければ来てくれ」

 オレの言葉に少年は顔を上げ、ホッとしたような顔をする。

「ありがとうございます。みんなと話し合って決めます。良いお話だと思います。そうさせて頂きたいと思います」

 そこには悪ぶった虚勢のない少年の顔があった。どうやって村まで連れて行くんだ?という問題は棚上げしたマモルのアイデアだった。




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