戦い済んで日が暮れる
戦いはほぼ決着が付いたようで、パラパラとこっちに逃げて来るヤツが出始めた。逃げるときはやっぱり、道を通ろうとするんだね、道のないところではやっぱり、逃げ足が遅くなるから、道を通ろうとするのは人情なんですね。
「マモルさん、逃げるお偉いさんを倒すのはバゥとミコラに任せて、私たちはこっちに向かって来る兵士を片付けましょう」
あ、そっか。バゥとミコラは矢を射るのに専念させて、オレたちが防御に回るのか?と思ううちに、逃げて来る兵士が増えてきた。戦いで3割くらい死傷すると全滅と言っていいという話を聞いたことあるけど、今回はどうなのかな?死傷率が低くても、みんな逃げて、負けた!という認識持てば敗戦なんだろうね。
と思ってると、馬に乗って逃げて来る将校らしいのがいる。さっそく、バゥとミコラがシュッシュッと射る。おぉ、当たり~~馬から落ちるぅ~~馬が走って行くぅ。あの落ちたのどうするんだろ?心の声が聞こえたらしく
「あれは放っておいてください。もう動けないでしょうから、後で回収しましょう」
ふ~~む、なるほど。動けないなら、放っておいていいですわね。
また来た、バゥとミコラの見事な弓の腕前だ。鎧を着て馬から落ちると、鎧が重くてきっとダメージがでかいんだろうな。あ、立った、また倒れた、もう起き上がってこない。
オレたちは道から20mくらい離れて立っているのに、こっちに向かって走ってくるやつがいるよ。
「ワアアアアアアアアアァァァァァァァ!」
って大声上げて、剣を振りかぶって、やって来るけど、あんたそりゃ、こっちが止まっていればいいけど、オレは待ってないからね。
さささっっと走り込み、そいつの腹を斬る。確か、腹の両側に静脈だか動脈だか流れていたと思うから、それを目がけてスルッと剣を滑らせ、走り抜ける。後ろで、パチパチパチとヒューイさんが拍手をしてくれた。
逃げて来る兵士が増えて、馬に乗らず兵隊たちと一緒に高級将官らしいヤツも走ってきている。馬に乗っていると目立つから、オレたちだけじゃなくとも、落ち武者(という言い方があるかどうか知らない)の山賊とかに狙われやすいだろうし、兵たちに混ざって逃げるのがいいと思うよね。ただ、明らかに良いお召し物を着てるんだし、お偉いさんとすぐに分かるよね。バゥさん、ミコラさん、お願いね。シュッシュッ!!
「もう少し前に出ましょうか?」
ヒューイさんから指示が出て10mほど前進すると、もう目の前を兵士が逃げて行く。逃げる人並みの近くに立っているオレたち4人はすごい異質な存在だわ。
あ、10人+αの高級官僚とおぼしき人たちがまとまって、こっちに走ってくる。
「どけどけどけ!道を開けろ!」
みんな必死に逃げてるのに、勝手なこと言ってる。みんな、自分が生きるのに必死なんだから、道を開けるわけないでしょ?と思ってたのに、前を走っていた下っ端兵士みたいな人を斬ったよ。なんてこったい、斬らなくても、あんまり変わらないと思うけど、頭に血が上っているから判別できないんだね。それはいけないでしょう、貴族は平民の命を自由にできると誰かが言ってた。もしかしたら異世界ノベルの知識かも知れないけど、オレは許せないね。
バゥとミコラも見ていたようで、むかついているよね。
「やるか?」
「「おう」」
まだ距離が20mほどあるから、まずは石ころだな。振りかぶって、第1球を投げました!ギューーーンと飛んで行って、当たる前にバゥとミコラの放った矢が一団の2人に当たった!兵士を斬ったヤツが、ギョツとしてこっちを見た所にオレの石ころがガン!と当たる。やったね♪
3人が倒れたところで、一団は停止した。そこに、バゥとミコラの2射目が当たり、さらに2人が倒れる。遅れてオレの2球目が当たり、これで6人が倒れた。これで、守られていた1番の偉そうなのが見えた、やったね。
バゥとミコラが容赦なく、その男の周りの護衛とおぼしき兵たちを削っていく。ヒューイさん、何しているの?と思って、見てみるとニコニコ笑ってますが?
逃げていた他の兵士たちも立ち止まって、こっちを見ている。動くと狙われる、と思うからなのだろうか?オレが剣を下げ、前に出ると、その1番偉そうなヤツの所までさっと人が退けて道ができた。少し遅く歩く。偉そうに、剣を後に下げ進むと、横合いから切りつけられるが、そいつの剣が振り上げられた時に腹に一閃入れる。振り上げるのは斬ってくださいと言っているようなもんですよ、注意しましょうよ。
さらに進むと、両方から斬りかかってくるが、両方とも後から来た矢で倒される。危ないっす、オレに当たったらどうするんすか?
もう護衛たちも大半が倒れているし、残ったのも固まっている。オレは開けられた道を進むだけ。
あと5mくらいになったとき、声が掛けられた。
「止まれ!!」
「どうして?」
「どうして?......無礼であろう、おまえのような身分の卑しいものが近寄ってはならぬ」
「そうは言っても、これは命令でね」
と言って、どんどん歩いて距離を詰める。あと2mでもう1人切りつけてきたので、ヒョイとかわし、剣の柄で首のあたりを叩く。申し合わせしたように、倒れてくれた。
さて、どの人が指揮官なんだろうな?
「さて、どうしますか?もう、逃げることもできないし、降参するしかないと思いますよ。命は一つしかないし、大事にしましょうよ。こんな異国で死にたくないでしょう。聞くところによると、身代金を払ってもらえば、国に帰れるようだし、生きて家族に会いましょうよ?降参するなら、武器を手放して、両手を上に上げて座ってください」
しばらくして、1人がバンザイすると他もつられたようにバンザイして座り始めた。
50人くらいだろうか、もっと多いか、両手を挙げてバンザイして座っている集団ができた。ちょっと異様な光景です。後からやってきたヒューイさんが
「何ですかね、これは?」
あなたに言われたくないんですけど。
「何って、降参した皆さんですが」
「降参って、これだけまとめて降参するのは珍しいのですが、お、これは大佐のようですね。合図しないと味方が突っ込んで来ますから、ちょっと待ってくださいね」
ヒューイさんが、しゃがんで懐から何か出して、火を付け煙を上げた。あ、のろしかな?
「すみません、真ん中開けてもらえますか?」
とヒューイさんが、真ん中に道ができたので、大佐と呼んだ人を連れて向こうに歩いて行った。オレたちは向こうに行くと残りの降参したのが逃げちゃうと思うので、そのまま立って待ってることにした。
50人くらい人がいるのに、誰も何も言わないという不思議な空間で、ただ時間が経っていく。オレは勝った(らしい)方だから気持ちは楽だけど、この負けて降参した人たちの気持ちって、どんなんだろ?
聞いてみたいような気もしたけれど、それはいくらなんでも空気が読めない人に思われそうなので、グッとガマンした。時間がありそうなので、矢の刺さった兵から矢を抜いて『Cure』を掛けて行く。みんな、目を丸くして見てるけど、見世物じゃありませんよ?バゥは余計なことしなくていいのに、みたいな顔してるけど、暇だし小市民意識が身に付いたオレは、何かしていないと間が持たないのですよ。
真ん中の道がさらに広がり、向こうから馬に乗った人たちがやってきた。先頭は信忠様だ。もうかっこいいね!織田信長のこういう絵を見たことあるような気がする。信忠様は、ここではちょんまげを結っているはずもなく、オールバックで黒いマントを羽織っているけど、男前の人は何をしても映えるわ、うらやましい。あのマントは魔女が織った魔法を通さないマントとか、じゃないよね?
降参した集団の端っこの方で、もぞもぞしているヤツがいる。そーれ、ビュー---―ん!カーーーーーーーン!!ハイ!見事に頭に当たりました。降参したのに、何かしようとしたらだめでしょ?
「あれはダメだよな」
「あれは死刑だ」
とバゥとミコラ。
「みなさーーーーん、見ましたか?動いたらダメですからね。石でも当たると痛いですよ」
とオレ。
その後、何事もなく信忠様が目の前までいらっしゃいました。
「マモルか」
「ハイ」
思わず、ひざまずいて頭を下げてしまったよ。このオーラ!!自然に頭が下がってしまいます。
オレに合わせてバゥとミコラもひざまずいて頭を下げた。おっと、これがこの世界の標準だったのか?ちょっと不安だったけど、やって良かった。
「よくやった。ごくろうであった」
「ありがとうございます。しかしながら、私どもはヒューイ様のご指示の通り、動いただけですから、すべてはヒューイ様のお陰かと思います」
「ふむ、遠慮しなくて良いが笑。まあ、良い。褒美を待っておれ」
と言って、引き返して行かれました。
入れ替わりでヒューイさんがニコニコ笑いながら、やってきた。
この人、どう考えても、信忠様の側近だよね?そう考えると、オレみたいな下っ端の準騎士爵が仰ぎ見るような人なんだよな。こんな気軽な調子でいいのか、と思いつつも、この人も自分の身分を明かさないんだから、これまでと同じように付き合うしかないし。
「さあ、帰りましょうか。捕虜は他の人たちが相手してくれますから、私たちは出発した町に帰りましょう。皆さんは、ここにいても見てるだけですから」
そう言われれば、そうです。新参者でおまけに転移者のオレは、いても何の役にも立たないんだから、さっさと帰ってベッドで寝かせてもらおう。
とにかく、こういうのは初体験だから、とことん疲れました。勇者だったら、こういうイベントがあっても、まだ余裕たっぷり、スタミナ100%なんだろうけど、もう1%くらいしか残ってません。
ユン〇ルが欲しい......。




