表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
687/755

スティーヴィーは戦う

 マモルがヘビ1匹相手に悪戦苦闘しているが、スティーヴィーはもっと大変な目にあっていた。


 片方の頭は口から炎、もう片方は口から氷を吐いてくる。炎の方は赤い頭に変色し、氷の方は青くなっている。真ん中は黒いまま。赤い方の吐いた炎を『Defend』で防ぎながらバックステップして、青い方を斬る。鼻先くらいを剣がかすめるが、真ん中の黒い首が治す。治すほどの傷でもないのに、自分の存在意義を示すためにわざわざ治癒を掛けているように見えている。真ん中の頭が攻撃してくることはないのか?


 そう思っていたのに、突然真ん中の頭がグン!と伸び、スティーヴィーに嚙みつこうとする。スティーヴィーの目の前で牙を剝く。先が割れた舌が伸びスティーヴィーの鼻先に迫る!真ん中の首が伸びたためか、左右の首が外を向いている。この時、不意を突かれたスティーヴィーは剣を回せれば良かったが、まさか真ん中の頭が伸びて来るとは思わなかったので剣が使えない。仕方なく跳び上がり膝で顎を蹴り上げた。


 手ごたえでなく、膝ごたえは十分にあった。舌を嚙み切るか?とスティーヴィーは思ったが、ケルベロスには前歯がなかった。横にズラッと牙が並んでいるが、真ん前には歯(牙)がない。それでも上顎と下顎に舌が挟まれたのは痛かったようで、

「ギャブッ!!」

 と悲鳴をあげて頭が上がった。痛みは左右の頭にも共有化されているようで、両方とも痛そうに眼をしかめる。


 ここだ!と思ったスティーヴィーだったが、膝を上げているので剣を振る体勢にない。左右の頭の内側の目とスティーヴィーの目が合う。目から何か出てくるということはないようだ。


 スティーヴィーはこのまま飛び上がった勢いで後ろ脚を、真ん中の頭の下顎に蹴り入れた!顎の骨の先に上手く引っかかる!今だ!!つま先に魔力を込めて、

『Paralyze』

 小さく唱えた。叫ぶとケルベロスに聞こえて、なんだか防がれそうな気がしたから。


 魔力がケルベロスに伝わったはず!くるっと回転して着地したスティーヴィーの目が見たモノは、真ん中の頭が上を向いて止まったケルベロスだった。ただし両側の頭は動いているので、麻痺が効いたのかどうか定かでない。


 着地してすぐ、スティーヴィーは左に移動する。青い頭が釣られて動くが、赤い頭は真ん中の首が動かないので、上手くスティーヴィーを捉えられない。

 左にさらに動くと、ケルベロスの身体が変に傾く。マモルがヘビに絡まれているのが見えた。


 剣を右側から薙ぐ。青い頭が剣を避けようと頭を上げる。その時、ケルベロスがビクンとして一瞬止まる。なぜ止まったのか?理由は分からないが、止まった。それはほんの一瞬だったが、スティーヴィーには十分な間だった。剣が青い頭の頬から口に入り、牙を斬り裂きながら左に抜ける。血が飛び散り、斬られた牙が散らばる。


 剣を振り切ったせいで伸び切った腹に向かって、青い頭が極細の水流を吐き出した!このままでは腹が直撃だ!体を捻るが、右腹に水流が当たり抜けた!

「ギャッ!?」

 思わず声を上げてしまうスティーヴィー。右腹が熱い!焼けゴテを押し付けられたような感覚になって、剣を落としてしまった。右腹を手で押さえて転がる。

『Cure!』『Cure!』『Cure!』

 集中したいが痛みのせいで、魔力が上手く集まらない。連呼しても治療に効果がないことは知っている。それでも叫ばずにいられない。転がりながら、剣を魔力袋から取り出した。あんな治療でも出血を少し抑えられたくらいだ。


 ケルベロスから離れたところでスティーヴィーは立ち上がる。そこに炎の玉が飛んできた。これだ!傷口に炎の玉をぶつける。これで傷口を焼く!!

「グワッ!!」

 覚悟していたが、激痛が身体中に走る。しかし止まっているわけにはいかない。次の炎の玉が襲って来た。傷の痛みがひどく『Defend』が使えない。代わりの剣を立てて炎の玉を逸らすが、炎の当たった部分が溶け落ちている。この剣はもう使えない。やはり神から授かった剣でないとダメか!?


 スティーヴィーの心の内で、このままここで死んでしまえば、もう一度異世界転移とやらができて、ロビィ様のところに戻れるかしら?と一瞬思った。それならこんな痛い思いともサヨナラできる。しかしこの世界に来る時に会った神はソフィア神とは違うように思えた。となれば死んだからといって、ロビィ様の元に行けるとは限らないと思い至った。

 となれば、ここでなんとかこの獣に勝たねばならない!


 神より授かった剣はケルベロスの赤い頭の顎の下に転がっている。あれを手にしない限り勝機はない!

 スティーヴィーは立ち上がらず、転がってケルベロスの顎の下に移動しようとする。自分でも無謀だと思っていた。案の定、ケルベロスの足が動きスティーヴィーに触れる。転がる方向がずれ青い頭の鼻先に出てしまった。手を伸ばしレイピアの柄頭を掴むのと右足が青い頭に咥えられるのが同時だった。


 ケルベロスの青い頭はスティーヴィーの片足を咥えて、上空に振り上げる。その時掴んだレイピアを宙に放り上げてしまった。そしてスティーヴィーの足を咥えた青い頭はスティーヴィーを地面に叩きつける!


 スティーヴィーの目に地面がゆっくりと迫る!死ぬ時ってゆっくりと時間が経過すると聞いていたし経験もした。でも今度は死にたくない!迫る地面に、少しでも衝撃から頭を守ろうとして、頭を抱える。

「助けて!神さま!!」

 スティーヴィーは泣きながら叫ぶ。


 そこでスティーヴィーの意識が途切れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 読ませていただき、ありがとうございます。  ヌエと比べて格段に難易度の高い相手に、えっ、そっち(の方向へ話が行く)なの?と思ってしまいました、面白いですけど。こうなったら次はグリフォンがで…
[良い点] 神様!仏様! どうかスティーヴィーをお助けください
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ