リューブ家の人たちはどこに?
朝食を取りながら、ジンが聞き込みしてくれたコトを聞いた。リューブ家の人たちはどこに行ったのか知る人はいないという。斜陽の一族を助ける者はおらず、その行方を知ろうとする者もいないということだった。そしてポリシェン家についても同じだった。ジンにとってペトロ・ポリシェンという人は上司であったが、家に呼ばれたことがあったわけでなく、仕事上の付き合いだけだったから、家庭生活がどうの、という所まで踏み込んで知っていたわけでない。だから、ポリシェン家の跡に行ってみたが、そこは廃墟と化しているのを見て、それ以上の捜索活動は止めたそうだ。そもそも自分が生きることさえ精一杯になっているのに、人を捜す余裕なんかなくなった、ということもあるということだし。
領主が逃亡した今、領都の中には様々な勢力が拠点を構えて地域防衛をしているそうだ。よそから黒死病を持ち込ませないために、排他主義を取りながら食糧確保のために勢力圏外に出て食糧調達をするという矛盾する行動を取っているそうな。そして弱い所から潰され、食糧だけ奪われ残った者は餓死するか病死するということらしい。夕べ、ここを襲撃してきた者たちもそういう系統のヤツらだったそうだ。
ロマノウ商会の店に行ってみようかと思ったのだが、どうも今いる地点から遙か彼方にあるようである。そのためには、いくつかの勢力を通っていかないといけないらしい。オレとミワさんとスティーヴィーなら強行突破も可能だと思われるが、そんなになんでもかんでも人を殺したいわけじゃない。じゃあ、平和裏に通してもらうためにはどうしたら良いか?要は通行料を払えば良いのである。普段なら金だろうが、今は食糧ということだ。良心的な?勢力ならそれで通してくれるだろうし、欲深い勢力なら「もっと持っているだろう?全部置いてけ。ついでに女も頂く」なんてことを言うのもいるかも知れないとジンが教えてくれる。まあ、そういうのはいても当然だろうなぁと思うし、結局ケース・バイ・ケース、日本語で言うなら場当たり主義で行くしかないだろう。
そう言っても食糧を持っていることに越したことはないので、郊外に食糧調達に行く。ミワさんは残して、スティーヴィーと2人で行くんだが、これがびっくりするくらい簡単に獲れる。オレが獣の群れを捜して、ずっと遠くにいる群れでもとにかく近くに寄っていく。そうすると群れの方もオレに寄って来る。さらに近づくと、群れの中の力自慢というか無鉄砲というのか命知らずのヤツがオレに向かって来る。それをスティーヴィーにさらっと倒してもらい、魔力袋に収納する。
オレは何もせず、獣の群れに近寄って行くだけ。それでコトが済んでしまう。獣たちは人間と違って丸々としているのが多い。草食獣も丸々としていて、こいつらは人を食べたことがないと思うが、もしかしたら人間がいなくなり、狩られることが少なくなったので増えているのかも知れない。あと天敵が自分たちよりも人間を襲うようになったから、とか?
不思議なもので、熊というもの、白黒混じりのがいたならきっと狩らないと思うが、白だけ黒だけなら(実は白だけのはいないが)躊躇なく狩れる。オレの二の足を踏む大蛇というヤツもスティーヴィーはいとも簡単に仕留める。ヘビがオレたちが近寄ってきたことを察知して鎌首を上げ威嚇してくるのをスティーヴィーは「カッ!!」と短く声を上げる。するとヘビはフリーズする。そのヘビの頭を斬り飛ばす。そしてオレがそれをしまうという作業である。なぜ、あんなことだけでヘビが動けなくなるのか不思議だが、スティーヴィーに睨まれたヘビというヤツを目の前で見ている。
獣がいなくても、スティーヴィーは誰も刈り取る者のいない麦畑に入り、ホイホイ蝗を捕ってオレに渡す。オレの魔力袋は死んだモノしか入らないので、オレの手元に来る時点で蝗は死んでいる。どういう仕組みなのか分からないが、あっという間に100、いや200の蝗が溜まった。これは誰が食べるんだろう?いやきっと、飢えていれば誰でも食べるんだろう。蝗の佃煮ってのもあったし。
小麦畑を見ていると、これを収穫して持って行けば良いだろうと思ったが、これを脱穀して籾すりして、粉にしないといけない。その手間を考えると持っていって邪魔にならないだろうか?とりあえずは持って行ってみるけど、千歯扱きみたいなものはあるんだろうか?籾すりはどうやってやるんだろうか?どうやって粉を引くんだろうか?不安ばっかりがある。
そのまま夜になって、夜行性の獣たちを狩りまくり、翌朝に砦に戻った。この間、スティーヴィーとはほとんど会話がなかった。良く言えば阿吽の呼吸で動いていた。




