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狼の群れに飛びこむ

 石が当たったヤツは死んだわけでなく、脳震盪などで気絶しているのがほとんどだろう。それが狼に噛みつかれて目が覚める。目が覚めても身体が動かず、狼に食われながら死んで行くことになってしまう。それならひと思いに死なせた方が良かったか?とも思う。どっちもろくな死に方ではないが。


 とにかく、唸り声を上げて倒れているヤツらに飛びかかっている狼を順に斬って行く。1頭、2頭と斬っても、こいつら逃げるということをしない。人を食べ慣れているのか、目の前の人間から離れず、隣の狼が斬られてやっと反応する。それでも背中に狼の気配がしたと思ったら、矢が突き刺さり転がって行く。ろくに灯りらしい灯りもないのだが、さすがにスティーヴィーには見えているらしい。ちょっとズレたらオレに矢が当たるのだが、そういう懸念をオレに感じさせない。


 10頭も倒したか?さすがに狼が固まって、オレに向かって唸り始めた。狼の目が光りオレを睨む。中心にいる狼が周りの狼より一回り大きいから、こいつがボスか?オレに対する敵意?殺意?が盛り上がってくる。狼たちがオレに飛びかかってくるか?と思った瞬間、ボスの額に矢が突き立ち、そのまま矢がボスの頭を地面に叩き付けた。


 狼たちでさえも、それには驚いたようだ。注意がボスに向いた。そのタイミングで群れの中に飛びこんで、手当たり次第に狼を斬る、斬る、斬る!狼の返り血をどれだけ浴びたか分からない。

 気が付いたら、狼の死体が転がる中に立っていた。残りの狼は数頭、全部尻尾を足の間で丸めている。そいつらに向かって1歩踏み込むと、狼たちは逃げていった。


 隠れている者たちに向かって、

「この狼を食べるなら持って行けばいい。死んだ者は置いていくなら後で燃やす。もう、ここには関わるな!」

 と叫んだ。返事はなく静まりかえっている。


 そのまま塀の上に乗った。ジンたちがオレを迎えてくれた。

「マモル、すげえな。昔もスゴかったが、あの時よりもずっとスゴくなった。あの村に来たときも、今くらい強かったら、あの村も飢えたりしなかっただろうにな」

 としみじみジンが言うが、それは無理だって。あれからオレも成長して強くなっているんだって。あの時この力を持ってたら、その後の自分史が変わってるよな、きっと。


 塀の上で見ていると、

「灯りを点けるから撃たないでくれ!」

 という声が聞こえてきた。

「わかった!ちゃんと始末していけよ!!」

 ジンが怒鳴ったが返事はなく、松明が点けられた。モゾモゾと暗闇の中から人が出て来て、まず倒れている者の周りに集まる。生きているかどうか確認しているんだろう。


「軽いケガくらいなら治してやるが、どうだ?」

 オレが叫ぶと、ヤツらにはハッとした雰囲気が生まれた。何か話し合った後、

「頼む!こんなことを言えたもんじゃないが、助けられるなら助けてやってくれ!」

 という声が聞こえてきた。オレが塀から降りようとしたら、塀の中から、

「私も行きます!」

 ミワさんが叫ぶ。まあ、そう言うと思ってたよ。


 一度、塀の内側に降りてミワさんを背負って、塀を跳び越えた。そのまま、ヤツらに近づいていく。

「変な気は起こすなよ。狼の肉を持って帰れなくなるぞ」

 一応クギを刺してみると、

「そんな心配は無用だ。アンタに勝てるわけねぇ。あんな狼相手に無双するヤツにそんな気も起きやしねえ」

 自嘲気味の声が聞こえた。


「それなら息のあるヤツから見せてみろ」

 ミワさんを降ろす。

「コイツから見てくれ」

 そう言われて側に寄る。痩せているなぁ......ケガがどうのと言う前に、痩せていることに気が付いた。周りを見るとどいつもこいつも痩せている。こんなヤツらだったら、ハシゴを昇った所で皆やってしまえただろうな。

「狼を乗せる荷車か何か、持ってきているか?」

「ああ、ある」

 暗闇からガラガラと荷車が引かれてきた。そう話していると、ミワさんの手が光り、倒れている男の身体に光が広がった。


「おおおーーーー!!」

 見ている者、全員が声を上げた。倒れている男が目を開ける。瞬きして、

「何が起きたんだ?」

 覗き込んでいる者に聞く。

「お前、大丈夫なのか?何ともないのか?」

「ああ、何ともない。オレはどうしたんだ?あそこに攻め込もうとしたところまでは覚えているんだが?」

「そうか......」

 それからいつもの話が始まった。ミワさんが治療したこと、ミワさんが魔法を使ったこと、ミワさんが聖女でないか?ということ、ミワさんが次々と倒れている者を治していくと、当然のことながら聖女認定されたこと、既視感のある流れが起きている。


 荷車に狼の死骸を載せていく。血抜きをしてないから、荷車を伝って血が地面に落ちている。けっこう殺したと思っていたら20を越えていた。

「すまねえ。これはホントにもらっていって良いのか?」

「いい。あの中でも狼の肉を食べている。まだ在庫を持っている」

「そうか、恩に着る。あの臭いは狼の肉を焼いた臭いだったのか」

「そうだ。この狼は全部やるが、帰りは気をつけろよ。分かっていると思うが狙われるぞ」

「分かっている。そんなことはしょっちゅうだ。もらえるだけでも助かる。必ず持って帰る」


 そんな会話をしていると、離れたところで、

「ギャーーーー!?」

 という叫び声が上がった。全員、そっちの方を向く。すぐにこっちの方に走ってくる者がいる。ほとんどの者が手ぶらで武器を持っていない。


「トラ、トラ、トラだぁぁぁーーーー!!」

 転げるように逃げて来る男が叫ぶ。狼が来たと思ったら今度は虎か。やっぱりオレって獣を呼ぶんだな。今はどんどん来い!肉が向こうからやって来る! 

さすがに明日も、ということはなく、次からは通常通り3日ごと、1月4日の掲載になります。

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― 新着の感想 ―
[良い点] お年玉楽しませていただきありがとうございました。 今年もよろしくお願いします。 [気になる点] スーフィリア・タチバナ(631話)の養女エピソード、いつか読ませて頂けるかと思っています。 …
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