敵が攻めて来る
夕食は肉パーティーだった。さすがに酒はないものの(葡萄酒はある)白湯を飲み塩だけの味付けで、ワイワイ言いながら肉を食べる。胡椒を出そうかと思ったけれど、そこまでする必要もない気もするので、黙って食べている。狼の肉は結構筋っぽいんだが、みんな嬉しそうに食べているので、オレたち3人は黙々と食べている。塩胡椒に馴れた生活というのはイケないもんだ、とつくづく思う。スティーヴィーもミワさんも何も言わないのがその証拠だろう。
竈の上に置かれた金網の上で焼かれる肉から煙が上がっている。たまに肉からしたたり落ちた油がジュッと音を立てる。肉の脂に火が点き、炎を上げる。みんな久々の肉パーティーが嬉しくて、騒いでいるし、この焼き肉の臭いが拡散して、塀外の敵?を刺激しているだろう。今はこちら側も起きているのでガマンしているだろうが、寝付いた頃に襲うつもりなんだろうな。申し訳ないと思うが、これは仕方ないことだと思う。でも挑発しているようなモノかなぁ?
「スティーヴィー、オレたちは不寝の番をしよう。今晩必ず、食糧を奪いにくるはずだ。ここの人たちを守らないといけない」
「分かってる」
スティーヴィーは頷いてくれるがミワさんはやっぱり納得しきれないようで、
「なんとか外の人たちも助けられないでしょうか?肉を分けてあげてはダメでしょうか?」
と聞いてくる。
「とにかく潤沢に食糧があれば戦うことは止められる。しかし、病気を治せても飢えることは止められない。オレの手持ちの食糧だって、そんな多いわけじゃないから、ここでバンバン出すわけにはいかないのはミワさんも分かるだろう。もちろんオレだって、ミワさんの思うようなことをしたい。でも、オレたちはここに長くいるわけじゃないから、その助けた人たちの生活に責任持てるわけじゃないんだ。それはミワさんも分かっているだろう。気持ちは分かるが、ここは割り切って欲しい」
「はい、それは分かってます。でもちょっと......」
ミワさんも分かっているが、口に出さないとおれないんだろう。この世界に来てだいぶ経っているが、どうしても日本人の甘さがこういう時に漏れたりする。オレたちが助けた人をずっと責任持って面倒見れるならイイが、そうでない場合は突き放すしかないと思う。
そして眠る時が来た。眠ると言っても、この砦の中の住民は誰もが今夜襲撃あると思っている。だから緊張しており、灯りを落としたけれど眠ってはいない。男たちはみんな手に武器を持っている。ちなみに肉屋がいるせいか、剣は見事に研がれていた。それに命を賭けているんだから、錆が浮いてるなんてあり得ないよな。
砦の1番高い所にオレとスティーヴィーが陣取って、周りを見回している。美少女と2人っきりというご馳走様!状態なんだが、そんな甘い雰囲気は欠片もない。住民の皆さんはスティーヴィーを男と思っているという通常運行である。
真っ暗な中、スティーヴィーのと2人で見張りをしている。ちょっと離れて、背中を向けあって。あまりの静けさにキーーーーンという音が聞こえてくるなか、グスッ!と鼻をすする音がした。スティーヴィーか......そして、
「ロビィさま......」
小さな小さな声が漏れ聞こえてきた。スティーヴィーの涙の混じった声だった。その後はまた無音が続く。
こっちを襲おうとするヤツらは、灯りを点けて居場所を教えるようなことはしないはずだ。暗闇の中を音を立てずに移動し、迫ってくるはずだ。
「向こうに人の固まりがある」
突然立ち上がったスティーヴィーが暗闇を指さす。いつも通りの感情の入っていない声。言われてみれば、何か蠢いている気がする。
「そうだな。人が集まってるようだ」
スティーヴィーの頷く気配がする。
「あっちにもいる」
スティーヴィーがまた違う方向を指さす。まずいな、二つの集団が来ているのか?まだ遠いせいか、オレには微小な感じがする。言われなければ気のせいってことにしただろう。
「もう一つ、あっちも」
もう一つスティーヴィーが別の方向を指す。まいったな、三つかよ。そっちはオレには全然分からない。
「もう一つ」
スティーヴィーが言う。まだいるのか?どんだけ集まって来たんだ?
「狼?野犬?何か、そういう群れが近づいて来ている」
「そんなのもいるのか?」
「うん、20から30ほどだと思う。こっちに近づいて来ている」
「それは近くか?」
「ううん、ずっと遠く。でもここに人が集まっているのが分かっているみたい。こっちに向かっている」
「そうかぁ......オレたちを狙っているヤツらを襲うつもりかも知れんな」
「そうかも」
そう話している間に、1番近いヤツらが寄って来た。ハシゴのようなモノを持っているように見える。
「スティーヴィー、アイツらの中心に火矢を打ち込んでくれ!」
「わかった!」
スティーヴィーが火矢の頭に火を付け射る。この間10秒もかからない。ここを襲撃しようとするヤツらの真ん中に矢が立ち、そいつらは突然のことに慌てる。
「ほらよっ!」
まずは火の光に照らされたヤツに向かって石を投げる。
ガツン!!と音がしただろう、側にいたヤツには聞こえたはずだ。当たったヤツはそっくり返るように倒れた。
それを見る前に2投目を投げる。続けて3投目、4投目、どんどん投げる。火の周りにいるヤツが面白いように倒れていく。条件反射で倒れたヤツに駆け寄ったヤツに目がけて石を投げると、そいつは倒れたヤツに覆い被さって倒れる。火を消そうとするヤツがいるから、そいつも倒す。
「よく当たるな!?」
スティーヴィーが感心したように言うから、ちょっと嬉しいオレ。
「そうか?まあ訓練のたまものだわ」
一応は謙遜したつもりだったが、スティーヴィーは気にもせず、
「矢だったら死んでるだろうけど」
あっさりと言う。人の命をそんな軽んじて、と思うがそんなこと言えるオレじゃないな。
火の周りには人がいなくなった。ハシゴが火の側に転がっている。石の当たったヤツは倒れたままだ。残ったヤツらは10人以上が闇の中に隠れている。
しばらくジッとしていたが、堪えきれなくなったのかモゾッと動こうとした。
「火矢を当てる」
そう言ったスティーヴィーは矢に火を点け無造作に射る。矢は動いたヤツに当たり、そいつは火矢を身体に付けたまま倒れた。周りの人間がそいつから離れて火の届かないところに逃げた。
たぶん残ったヤツらは戦意喪失したと思う。ヤル気があるなら、石が当たったヤツを置いといて攻めるのが普通だと思う。それなのに、今は息を殺して様子を窺っている。
「来る!!」
スティーヴィーが言った。オレにも分かった素早く移動する集団。人とは明らかに違う。
「狼か野犬の群れ?あそこにいるヤツらを食うつもりだ!」
「狼や犬っころに食わせるわけにいかない!オレは獣を殺ってくる。危なそうなら支援してくれ!」
「分かった!任せて!」
上はスティーヴィーに任せて、急いで下に降りる。急いでいる時こそ、慎重に降りないといけないんだった......。
そこにはジンたちがいて、
「すげえな。矢もスゴいが石もスゴい。石が当たって首が曲がったヤツがいたぜ。ありゃあ、生きちゃいねえだろう!」
と感心している。完全に他人事である。
「すぐそこに狼か野犬の群れが来ている。それに人を食わせるわけにはいかない。オレが外に出て狼かワンコロを殺ってしまう!」
と告げると、
「えっ?」
「そんなこと、なんでまた?」
「殺されるぞ!」
「止めとけ!」
「そんな酔狂なことしなくても?」
口々にオレを止めるが、人同士の殺し合いは仕方ないにしても、人が獣に食われるのを目の前で見たくはない。でも酔狂って言葉、あったんだな。
「手伝わなくていい!これは自己満足だ!1人の方がイイ!」
そう言い捨てて塀を越える。その時には獣の群れが倒れている人間のところに到達していて、食わんとしているところだった。口の大きさ、耳の感じ、足の長さ太さからコイツらはやっぱり狼か。
お年玉ということで明日に1話あります。




