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マリヤ様を捜す手がかりはないか?

「ところでジン、オレがここに来た理由の一つがリューブ様の孫娘のマリヤ様を捜してきてくれとブロヒン様から頼まれたのだ。ブロヒン様は今、オーガにいらっしゃって領主様の側近として働いておられる。ブロヒン様は辺境伯様から追放処分を受けたので、辺境伯様の領地に入ることができないから、代わりにオレが来たんだ。ジンはマリヤ様の行方を知らないか?ジンは元々カニフで衛兵の仕事をしていたんじゃないのか?」

 ジンは驚いて、

「オマエ、わざわざマリヤ様を捜しに来たのか!こんな遠くまで女2人を連れて!」

 とオレの肩を掴んで揺さぶるがすぐに、

「そうだった。今は見違えるくらいに強くなったんだったな。それに魔力袋も持っているし、病気を治してくれる女がいるなら、何も困ることはないか、あははは!」

 終いには笑った。


「だがな、マリヤ様の行方はトンと知れない。実はポリシェン様のご一家もどこに行かれたのか分からない。オレは衛兵隊にいたときの上司がポリシェン様でな、色々と世話になってたんだ。だから、こんなことになって、ポリシェン様のご家族のことが心配になって、どうされているか見に行ったんだよ。でもな、ポリシェン様のお宅はひどいことになってた。入り口の扉も窓もなくなって、中にあった家財道具も全部なくなっていた。いや違うな、金目の物はみんな持ち出されて、火を付けられたんだろう。ポリシェン様のお宅は騎士爵街の一角にあったんだが、その辺りはみんな荒し放題になってたぜ。それはもうひどいもんだ。正直言って、ポリシェン様のご家族が生き残っていらっしゃるとは思えねえ。どこかに避難されているならイイが、この辺りがこんな有様じゃ、望みは薄いと思ってる。

 リューブ様が失脚されてからひどい扱いでな。ヤロスラフ王国に侵攻したときは、手の平を返したように扱われたこともあったが、すぐに戦犯扱いだったよ。ヤロスラフ王国で占領地を失って、大勢死なせたことが全部あの方のせいだって辺境伯様がおっしゃられたそうだ。だから家族は蟄居されて成りを潜めて生活されていたそうだが、誰も助ける者はいなかったと言われている。今じゃどこに行かれたのかも分からない。はっきりしているのは辺境伯様が王都に逃げられた時、リューブ様ご家族は同行されなかったようだよ」

 ジンが一気に言う。今の言葉でカニフの状況が掴めた。ポリシェン様のご家族が生き残っている可能性も低く、ましてやリューブ様のご一家もそうだろう。かと言って捜さないわけにはいかない。


「ジン、ロマノウ商会がカニフのどこにあったか知っているか?実はロマノウ商会からも、行く先々の街のロマノウ商会の店を捜して様子を見てきてくれと頼まれているんだ。おれは依頼料も発生して前払いを受けているしな」

 オレの問いにジンはうーーーんという顔をして、

「ロマノウ商会かぁ?オレはそっちの方は詳しくないんだよなぁ。夕食の時にでも仲間に聞いてみる」

「そうか、頼む」


「ああ、任せとけ!やっぱり昔の知り合いと会うのはいいなぁ!みんな、どうしているんだい!」

 それから昔話とポツン村の近況を話す。ジンはそれを嬉しそうに聞いていた。


 砦の周りをジンと歩いていると、視線を感じた。離れた所からオレたちを見ている。

「ジン、オレたちを監視しているヤツがいるぞ」

「分かったか?あれは毎度のことだ。隣町のヤツらがオレたちを監視している。いつオレたちを襲おうかと思ってるんだろう」

「そうなのか?恨みがあるというわけでもないだろう?」

「恨みか?ないこともないだろうな。食い物を巡って血を流したこともあったしな」

「そうか、それ以上は聞かないわ」

「ああ、そうしてくれ」

 ずっと視線を感じながら、砦の周りの死体を焼いて回る。


 薄暗くなってきて、やっと砦の中に入った。ミワさんとスティーヴィーは治療が一段落したようで、他の女の人と一緒に焚き火を囲んで話をしていた。獣を解体した血なまぐさい臭いが漂っているかと思ったら、さすがにそれは入念に『Clean』が使われていたようで、きれいになっていた。奥の方には肉が吊り下げられて干されている。それを見て、

「獣の在庫はまだあるんだが、出そうか?」

 と申し出たのだが、みんな笑顔でイヤイヤイヤと首を振って、

「明日またお願いします。今日は解体ばかりで疲れました。普段使わない筋肉を使ったもので」

 などと言ってるし。

「今日は久しぶりに肉が食べれますねぇ!」

「ほんとに、これなら腹いっぱい食べれそうです!」

「腹を壊さないようにしないと!」

「下しちゃったら、せっかくの肉がもったいないですものね」

 口々に肉を食べれることを嬉しそうに語っている。しかしジンは、

「肉の焼く臭いが漏れるだろう。そうすると必ず襲ってくる。今晩攻めて来るはずだ」

 ボソッと言う。それを聞いた者は顔を強ばらせるが、

「任せとけ、オレとマモルで必ず守るからな!」

 ジンが胸を張る。


「私も手伝う」

 スティーヴィーが立ち上がった。

「おまえ、戦えるのか?そんな細い体つきで?剣を振っても大丈夫なのか?」

 ジンが心配そうに聞くから、

「スティーヴィーはオレより強いから心配しなくていい。剣もだが弓矢の方がもっとスゴい。ジン、ここに矢の在庫はないか?手持ちがあるが、できれば使わせて欲しいんだが」

「えっ、矢か?元々ここは街の中だから矢の在庫は少なくてな、せいぜい20本くらいだろう。持って来させるがあまり期待しないでくれ」

「ああ、それでいい。できるだけ遠目で敵を倒せるものなら倒しておきたい」

「そうか、頼む。こんなことになって、男はみんな剣を持って戦っているが、元は真っ当な仕事をしていて、剣など使ったことはない者ばかりなんだ。だから、まだ心許ないところがある。もちろん、もう人を殺したことのあるヤツばかりだがな。少し前までは、八百屋だったり肉屋だったり食堂だったりしてたんだよ。みんな家族を守るために剣を握っているんだ。そういう意味では襲ってくるヤツだって、元は普通の暮らしをしてたヤツが多いだろう。家族を食わせるためにここを襲ってくるんだよな。ま、中にはチンピラなんかもいるし、兵士崩れもいるがな」

 ジンがひどく重い話を聞かせてくれた。


「元は善良な平民で後ろに家族を抱えている者たちが、ここを襲撃してくるのか。そいつらを倒して、ここに組み入れるというのはできるのか?」

 無理だろうと思うが聞いてみる。

「一時的には可能だが、永くは続かないな。増えたヤツらを食わせることができるかどうか。そいつらをここに加えて、元からいる者が飢えてしまったら本末転倒だろう?可哀相だが、オレたちを守るためにそいつらには死んでもらうしかないだろう」

 平坦な口調でジンが言う。オレのストックしている獣や食糧を放出すれば、数日は増えた人間を養えるだろうが、結局は飢えることになるんだろう。


「昼に門の外で買い物をしていただろう?あれはなんなんだ?」

「あれは近在の農家が売りに来ているんだよ。アイツらはまだ余力があって、売りに来ている。オレらは門に近い所にいるから買いに行ける。でもアイツらがどこから来ているのか分からねえ。たぶん、アイツらの住んでる所を突き止めようとしたヤツがいるはずだが、そいつらは返り討ちにあったんじゃねえかな?ああやって売りに来るというのは、ちっとやそっとではやられねえくらいの力を持っているんだよ。だからああやって正々堂々売りに来ているんだろう。オレたちは金や金目の物と食い物を交換しているんだけどな。助かってるさ、本当に助けられてる」

「そうか、アイツらは護衛のような者を雇っていて、食わせる代わりに守ってもらっていると言うことか」

 そうでないとやってけないだろうな。余程強いヤツがいるってコトなんだろう。


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