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決戦

 しばらく歩いて行くと、こちらに向かって来る軍が見えた。予想通り、信忠様の討伐隊で、ヒューイ様が駈けて行き、軍の中に入っていった。討伐隊はここで小休止ということらしく、腰を下ろしメシを食べたり、一服したりし始めた。オレらも携行食の干し肉を食べる。


 30分くらい経ってからヒューイさんが出てた。

「さあ、進みましょう。さっき言った通り、我々は本体と別行動です。特に着替えませんから(えーーーー、用意してもらった鎧とか、無駄だったんですかぁ)、このまま先行しますよ。そんな顔しないで行きますよ、さあさあ」

 と諭され、半走りでヒューイさんの後を付いて行く。今度は武器を隠す必要もないので荷車は引かず、身体一つで行くので早いです。


 さっき教えてもらった戦闘予定地点を越えて、少し先に行った所で道を外れ、藪の中に入る。

「ここで、敵の偵察が通るのを待っていましょう」

「は、そんな偵察って見つかるんですか?」

「たぶん、大丈夫です。まぁ、捕まらなくてもいいんですけどね。見つかればめっけもんですから、まぁ、ゆっくりと待っていましょうよ。そこがちょうど草丈が長くて身を隠すのにぴったりですね」

 と言われたので、4人が座れるくらいの面積に草を刈り、座り込む。虫がいるけどガマンするしかない。

「黙っていれば、道を通る人の音が分かります」

 そうですか、地獄耳ですね、と思ったけど、オレも聞こえそうだ。


 ひたすら、ただひたすら待つ。スマホがあるなら、いじりたい!!悲しい習性です、何かしていないと落ち着かない。他の3人は黙って待っている。オレだけがソワソワしているのを見てヒューイさんが

「落ち着かないですか?」

「はい、申し訳ないです。みなさん、じっと待っているのにオレだけ、落ち着かなくて」

「ま、これは馴れですから」

 とヒューイさん。

「そうなんですか?バゥやミコラも馴れてる?」

 バゥがエヘンという感じで、気持ち胸を張って、

「そうですな、オレは衛兵のとき、1日ずっと立っているだけ、というのが当たり前だったから。待つのは苦にならないですな」

 とバゥが言うとミコラも

「私も騎士時代は待つ訓練をしていました。整列させられて、いつ来るとも分からない領主様をひたすら待つ、ということがよくありました。雨が降ろうと風が吹こうと雪が積もってもです。ただ、ただ立って待つ、というのがありました」

 と言うとヒューイさんが

「どこの国の騎士も同じですね。偉い人たちは下っ端の苦労は分からないのですよ」

 そうなのかぁ、社長の無駄に長くて内容のない朝礼の話をガマンして聞いてるくらいでは足りないんですね、トホホ。分かりました、じっとガマンします。

 とは言うものの、皆さん自然体で待ってらっしゃるのに、1人落ち着かない人生経験の足りないオレ。

 

 どれだけ待ったか分からないけれど、タッタッタッという駆け足くらいの早さの足音が聞こえてきた。どうすればいいんだろう?と思っていたら、ヒューイさんが、オレらを立つなと合図しながら、草むらからひょいと頭だけ、出した。

「お~い、どこに行くんだ?」

「どこにって、どこに行っても良いだろ」

「この先は戦場になるから、これ以上進まない方がいいぞ」

「なんだよ、どこに行こうとオレの勝手だろ!」

「おや、あなたはゴダイ帝国の訛りがありますね。変ですねぇ、こんな所にゴダイ帝国訛りの人間がいるのは。どうしてでしょうね?」

 出た、こういう場面の典型的なあぶり出し尋問口調です。テレビで何度も見ましたよ。直にこの目で見ることがあるとは思わなかったなぁ~~ヒューイさん、どうするんですか♪

「......」

「黙っちゃうとは、怪しいですねぇ。こういう場面では、ウソ八百言わないといけないのに経験不足ですよ。さあ、どうしますか?」

「うるせえ、黙れ!!」

 と煽るだけ煽らせて、オレらに立てと合図するヒューイさん。オレたちはザッと立ち上がると、相手の男はもうビビった表情丸出しで、顔面蒼白となった。

「どうしますか?降参するのも手ですよ。ここから逃げられると思わないことですね」

 上手いです、ヒューイさん。もう、心がほとんど折れてるでしょうね。でも、そいつは腰の剣を抜いて構えた。若いあんちゃんみたいで(オレもそうだけど)構えがなってなく、剣先がブルブル震えているし。初心者の偵察専用で戦闘要員ではないのかな?


 こいつの相手もオレがするのかな?と思っていると、後ろからミコラが出て来て

「こいつの相手は私にお任せください」

 と言って、剣をすらりと抜いた。この人も剣を使いなれてるよ、きっと強いんだ。

「分かりました。任せます」

 とヒューイさんが言ったので、3人でそいつを広く囲んで、ミコラに任せる。こいつにしてみれば、ミコラを倒したところで、残り3人いるんだから、降参した方が良いのにね。ミコラはいわゆる正眼の構えでずんずん近づいて行く。そしてついに、相手の剣先に自分の剣先を触れさせた!!剣先と剣先が触れて、チンチン音がする。向こうはブルブル手が震えて剣に伝わっている。顔から汗が滝のように流れている。息がハアハアいってるのが聞こえてる、もう止めればいいのに。

「フン!!」

 と言ってミコラが気合いとともに、相手の剣をたたき落とした。そいつは呆然として腰を落として、座り込んだ。

 ヒューイさんはそいつの懐からカードを取り出し、猿ぐつわを咬ませて縛り上げた。そしてバゥとミコラの2人でそいつを藪の中に放り投げる。

 あとは何事もなかったような顔をして座り込む。

「夕暮れ頃にオダ様が到着するから、それまでにもう1人か2人通りますね。1人は夜でしょう」

 と予言されたので、オレらは待つだけです。偉大なる予言者ヒューイ様の言われたことに間違いはないですだ。座っているのも疲れてきたので、みんな横になって、耳だけ神経を集中しておく。


 タッタッタッという駆け足が近づいてくる。どうするのか?と思っていたら、ヒューイさんは、みんなを押さえる。

「あれは行かせましょう。偵察が全然帰って来ないというのも変なので、少しくらいはこちらの情報を流すのです。そうしないと、向こうも巣穴から出てこないですから」

 なるほど、中途半端な情報を届けさすつもりかな。


 日が暮れて、夜になり月が煌々と輝いている。

 遠くで足音がする。ヒューイさんがバゥに

「弓矢でいけますか?」

 と聞いたらバゥが

「待ってました!」

と言い、準備を始めた。

「通り過ぎて、背中を見せた所を射てください」

「分かった」

 タッタッタッという音がして、前を通り過ぎる。バゥがむくっと立ち弓を構え、しゃっと矢を放つ。オレは矢に念を込める。当たれ、当たれ、当たれ、と込めた念のお陰で、走っていたヤツの背中にドンと矢が立ち、そいつは倒れた。ヒューイさんが近寄って懐を捜し、何かを取り出した後、息の根を止めた。謙虚なオレは、オレの念のお陰で矢が当たったなんて、一言も言わない。言ったら、また説明が大変なことは学習したし。


「さて、これをそこの藪に放り込んで移動しましょう。明日はこの辺りが戦場だから帝国軍が移動してきますよ。私たちは高みの見物です」

 あれれ、縛ってあるヤツはどうするのかな?誰も疑問に思わないのかな?


 ヒューイさんに連れられて、道から離れ移動し、森の中に入る。森の外から見えない場所でたき火を焚き、夕食の干し肉と干しパン、葡萄酒を飲む。これはもう少し、なんとかならないものか?と思いながら、飲み込む。

 干し肉がまずいと言っているわけじゃないんですよ、ただね、もう少し美味しいものが食べたいな、と思っただけです。知ってますよ、異世界ノベルじゃ、主人公が発明して、その世界で見たこともないようなものを食べさせ、びっくりさせるんですよね。都合良く、元の世界とつながっている何かがあって、そこから取り出せたりとかするんでしょ?結局、オレがなんとかすれば良いのですよね。女神さまからのギフトとか、お取り寄せボックスとかあればいいんだけどなぁ、とつらつら思いながら、何もできない自分を顧みて諦め、はぁとため息をついた。


「ため息つくと幸運が逃げると言いますよ」

 とヒューイさんが言ったので、こっちでも言われていんるんだと驚いたけれど、これもどこぞの『降り人』が言ったのかも知れないね。

「ヒューイさん、質問なのですが、最初に捕まえた敵の偵察員を縛ったまま、あそこに置いてきましたが、あれで良かったのですか?ヤツは逃げないですか?」

「あ~ぁ、アレですか?アレなら逃げてもいいんですよ」

「いいんですか、逃げても」

「いいんです。逃げて、報告したとしても、もう時間の経った情報ですから、大して役に立たないのですよ。オダ様の本体は偵察に見えるように行動しているので、それをちゃんと報告してくれれば良いのですから」

「あれ?本体の他に別働隊がいるのですか?」

「そうなんですよ。今まで黙ってましたが、別働隊がいるんです。今までオダ様の討伐隊は200人と言ってたでしょう。それで、あの偵察にもそう言ってましたから、ヤツは敵にオダ様の軍は200人と伝えているはずです。だから、敵が300人でオダ様が200人だから、1.5倍の勢力なら絶対戦うでしょ?

 でも別働隊が40人の2隊いるんですよ。そうすると向こうが300人で、オダ様が280人で同じくらいになります。だから、最初は200人で戦うと見せると向こうは、オダ様を舐めてかかって、やって来るんです。そこを40人の部隊が2つ、両側から挟み撃ちするんですよ。そうすると、敵は油断しているので、間違いなくやられるわけです」

「すごいですね、それって。でも、そんなに上手くいくんですか?」

「これが、いつも面白いように決まるんです。もちろん、十分な準備が必要ですが」

「そうかぁ、誰がそれを考えたんですか?」

「オダ様ですよ。オダ様は前の世界にいたときに教えてもらった、と言われていましたね」

 前の世界で教えてもらった、誰に?織田信長?まさか。戦さ上手って、豊臣秀吉?聞いてみたい、是非!

今はとにかく寝よっと。


 明けて今日は決戦の日です。確か、決戦は金曜日、という歌があったと思うけど、今日は何曜日なんだろう?そもそも何月かも分からないけどね。遠目に山の方から軍が移動してきているのが見える。敵さん全軍出動したのかな?旗は立ててないけど、キレイに隊列組んで進んでくるし、あれを見れば山賊でないのは一目瞭然だよね!

「さあ、彼らが進んできます。彼らがオダ様と向かいあったら、彼らの後ろに移動しますよ」

 とヒューイさんは言うけれど、もし信忠様が負けたら、オレらはどうなるんだろう?


 敵軍の後ろにある木の上で戦を見学した。

 ヒューイさんの言う通りの展開で、織田軍の圧勝だった。


 最初は、両軍がもみ合い、しばらくして押し負けた(ように見せかけた)織田軍が後退し始め、しまいには崩れて逃げるように下がる。それに釣られて敵軍が、織田軍を追いかけ始める。織田軍が一纏まりで逃げているのに、敵軍は先鋒が走っているが後ろは追いついておらず、伸びてしまっている。素人目にも危ないのが分かるよ。

 敵軍が伸びるだけ伸びた所で、織田軍が停止し、横に広がり敵軍を包もうとするが、敵軍は勝ったと思って勢いに乗っているので、簡単に包まれようとしない。敵軍の後ろがだんだんと追いついてきて、まん丸になってきたとき、敵軍の斜め後ろ左右から、織田軍の別働隊40人×2が突っ込んで来た。

 あれはやられるなぁ、というくらい、別働隊が敵軍の中に強襲している。敵軍の後ろは負けると思っていないし、ましてや敵がやってくると思っていないだろうから、ひとたまりもなく、倒されていく。人ごとながら気の毒な。


「さぁ、出番が来ましたよ。もうしばらくしたら、敵は総崩れになりますから、敵の偉いさんを捕まえましょう」

 ヒューイさんが木から降り、行き先を示す。ヒューイさんは昆虫採集にでも行くような感じで、おっしゃいます。

「お偉いさんは、死んでても生きてても良いですけど、できれば生きてる方が良いですね。身代金が違うんですよ笑」

 なるほどーーー、地獄の沙汰も金次第、だったっけ?

 

 道から少し離れたところで待つ。バゥとミコラは弓を構え、オレは石を持つ。頭の上にはお日様が輝いている。こんないい天気なのに殺し合いをやってるのか。前の世界にいたときは、こんなこと夢にも思わなかったのに。


 みんな、どうしているかな?広い空を見上げてそう思った。

 信忠様も今まで、そう思って過ごしてきたのかな?滝川さんもかな?


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