カニフの様子を聞いてみる
「オレたちはオーガから来たんだ!」
まずはそれを言う。掴みはOKというヤツになるはず。
「そんなとこから来れるはずがないだろう?何をバカなことを言ってるんだよ」
まともに受け取ってもらえない。まあ、別に信用してもらえなくてもいいさ。
「カニフの中はどうなっているのか教えてくれ。領主様はどうされているんだ?リューブ宰相の家はどうなったんだ。知っているか?」
「領主様は、いなくなっちまったよ!」
「えっ?いなくなったとは?」
思いも寄らぬことを聞いて、素っ頓狂な声が出てしまった。
「言ったとおりだよ。いなくなった、逃げちまった。黒死病が流行り始めてすぐに王都に一族連れて逃げちまったぜ」
「宰相だったオルカ様だって逃げちまった。残っているのは下級騎士ばかりだよ」
「そうだ、自分の身がかわいくてよ、平民なんか死に絶えてもイイって思っておられるんだぜ」
誰からも辺境伯への恨み辛みが聞こえる。無理もない。
「それならリューブ様の家はどうなった?」
「リューブ様だとぉ?おまえ、あの家と何か関係あるのか?」
口調が険悪になる。
「昔、世話になったことがあった」
オレの言葉に相手は顔をしかめて
「ふん、あいつのせいで、ヤロスラフ王国に攻め入ったのにチャラになったんだろうが」
と言い放つ。隣のヤツも、
「そうだよ。アイツが急に死んだせいでヤロスラフ王国征服の夢が消えて、代わりに黒死病が入って来ちまったしな」
周りが頷いているから、それはきっと一般的な評判なんだろうな。
「リューブ様の血筋の人たちはどこにいるか知っているか?」
「知らないな」
「知らん」
「みんな死んじまったじゃねえか?」
「領主様と一緒に王都に逃げちまったんじゃないのか?」
悪評の上に、行方を誰も知らないという始末。苦労の果てにカニフまで来たのに、行方を手繰る糸さえない。
どうすれば良いんだろう?と考える。他に知り合いというと、ポリシェン家だ!ペトロ様は亡くなられたと聞いたが、きっと家族の方はいらっしゃるはずだ。
「ポリシェン男爵はどうされているか知らないか?」
と聞いてみたが、こっちの反応も薄く、
「ポリシェン男爵?」
「知ってるか?」
「男爵なんてな」
「分かんね」
こっちも行方知れずだ。
仕方ない。一応は話を聞いたので、礼の代わりに酒の瓶を渡す。これには男どもの顔が緩む。
「悪いねぇ。なんの役にも立っていないのに」
「もらうモンはもらっとくけどよ」
「それでアンタら、今晩はどうするんだ、女連れでよう?」
半分心配、半分興味で聞いてくるから、
「とりあえずリューブ様の屋敷のあった所に行ってみる。そこに何もなければポリシェン男爵様の家に行ってみる」
そう答えると、
「行くのは良いけど、よくよく注意しなよ。貴族街の所は酷いことになっていると聞いてるぜ。特にエラい方々のところは酷いってな」
とアドバイスを受けた。
「ありがとう。気を付けて行く。あんたらはそんな武器や防具を持ってて騎士とかじゃないのか?」
気になって聞いてみると、
「いや、オレらは平民だって。これはかき集めたもんだよ。街の中が荒れてよ、自衛しなくちゃならなくて、集めてきたんだって」
「そうさ、危ないヤツらが襲ってきたりするから、仕方なしにやってるんだって。女や子どもを守らなきゃいけないだろうが」
なんと、女子どもを抱えているのか。
「そうすると、ここへは買い出しに来ているのか?」
「そうさ。前は中に売りに来ていたけど、今は危なくてここまでしか来てくれないからな。帰り道も戦々恐々しながら街に戻るんだよ」
「街と言っても砦みたいなもんだけどな」
「街に残るより、外に逃げれば良いんじゃないのか?」
「そんなことできるかよ!王都に行く道はとっくの昔に封鎖されたって聞いているぜ。それによ、チェルシの街はカニフよりもずっと荒れ果ててると聞いてるぜ。人も住んでなくて、獣が人肉喰ってるって」
人の行き来がないのに良く情報が入ってきていると感心する。
「それによ、街を出てもどこに行くんだよ。近隣の村だって受け入れてくれねえぜ。こうやって食い物を売りに来てくれるけど、村の周りは防備固めて、外から攻められても大丈夫なようになっているって、コイツら言うし」
そう言って馬車の荷物を売ってる人間を睨む。その男は、
「そりゃそうさ。街から病を持って来られたんじゃ堪ったモンじゃないだろう?」
と笑いもせず言う。
「でもこうやって売りに来ているのに?」
「そりゃ、ここまで買いに来るくらい元気なら、黒死病に罹っちゃないさ」
「それもそうか」
「あんたが話し掛けてきたから喋っているけどよ、いつもは黙っているんだぜ。何でうつるか分からんからな」
他の人がウンウンと頷く。確かにそれもそうか。
「それは悪かったな。『Clean』これでキレイになっただろ?病気がうつったりしないと思うぞ」
これにはみんな、何があったんだ?という顔をしている。何かされた、という感触はあったと思うが、何をされたのか分からないようだ。
「オレたちはオーガから来たと言っただろ。ギーブの黒死病を制圧した手法を使ったんだよ、今」
「な、何をしたんだ?」
「消毒ってヤツだな。黒死病の種を死滅させたんだよ」
「まさか、そんなコトはできねえだろう?」
「信じてもらえなくても良いけどな。気休めくらいにはなっただろう。でもさっきも言ったが、誰か具合の悪い人がいるなら、診てみるぞ。別に金を取ろうってわけじゃない」
そういうと、買い物をしていた男たちが集まって相談しだした。
しばらく待ってると、1人がオレに向き、
「ちょっと来てくれるか?あんたら、今晩泊まる所ないんだろう?診てくれるなら泊めてやっても良い」
「いいよ、診ようか。それで診る相手はどんなんだ?」
「それが子どもで咳が止まらないんだ。コンコンと乾いた咳がするんだ」
「そりゃマズいな。悪くすると肺の病気かもしれん」
「そんなこと言うなよ。ホントにそうだったら、どうするんだよ」
確かにオレがフラグ上げてどうする、というヤツだよな。
「ここに来るまでに、そういう症状の人も診てきた。それで治してきた。だから診せてくれ」
「ホントか!?それなら連れて行こう」
「そうだ、来てくれ!」
さっきまでよそよそしかったのが、一気にウエルカムに変わった。
「じゃあ、行こうか。今晩泊めてくれ」
「ああ、一緒に行こうぜ!」
オレたちを胡散臭そうに見ていたが、目の色が変わった。それくらいに困っていたんだろう。乾いた咳がする子どもがいたら、誰もが肺病だと思うだろう。でも誰もそれを言い出せずにいたんだろう。薬か医者がいればと思っていても、どちらもなくて「この子はもしかして死んでしまうのか?周りのオレたちは大丈夫か?」と不安に思っていたんじゃないのか?
一通り買い物は終わったようで、荷車に買ったモノを積んで門をくぐる。魔力袋にしまっても良かったんだが、まだ手の内を見せるには早いだろう。オレたちは列の最後尾を付いていく。
道の両側には人の死骸が放置されている。家々は入り口のドアがなく、窓も破壊されて、とても人が住んでいたとは思えなくなっている。以前来たときの華やかな街並みは見る影もない。
しばらく歩いて行くと、
「ほら、あそこだ!」
「おーーー親分が待ってるぞ!」
「親分っていうとまた怒るぞ。隊長だろうが」
「そうだった、そうだった!おーーーい隊長!無事に帰ってきたぞぉ!」
そう言って荷車を引く面々が手を振る先に、人々が待って手を振っていた。その先頭に立っている男を知っていた。
ジン!?
ジンだ!!
やっとジンが出ました!ここまでが長かった......。




