ついにカニフに着く
ヌエの気が一瞬スティーヴィーに向かった。その瞬間、ヌエの顔を目がけて、飛びこみながら剣を薙ぐ!ヌエは人間のそういう行動に慣れているのか、剣を口を開けて受けようとする。そこに剣が吸い込まれて行く。
ガキン!!
剣がヌエの歯に咥えられた。そのまま、顔を切断できると思ったのに、止められた。一旦止められてしまうと、オレの力では動かせない。ヌエの口の端に剣先が食い込んで血が漏れているが、ヌエは気にしていない。
剣を咥えた歯にギリギリと力が込められている。剣を噛んで、剣を砕こうとしているのか?これでそれで成功体験があるのだろうか?だけど、この剣は神様からもらった剣だから欠けないし錆ないし折れないし、ということは噛んで壊れるわけがない。
ギリギリギリと音がする中、オレが力を込めて剣を抜こうとするができない。ヌエが頭を振って、オレから剣を奪おうとするが、それをなんとか押さえている。ヌエの目が爛々と輝きオレを睨む。引けないなら押すべき!と、力込めて押す。ヌエは意外だったようで、さらに歯に力をいれるが剣が滑って奥に入った!口元に剣が入って行き、ヌエの口元が裂ける!
ヌエが声にならない声を出して、火事場のバカ力で、剣ごと跳ね上げ口から剣を放した。オレは剣を持ったまま宙に跳び上がる。ヌエの口元から血が飛び散る。自然落下するオレを見て、ヌエが余裕の目で構える。どうするのか?と思ったら、オレ目がけてジャンプしてきた。剣を立てて突く構えを取る。その剣をヌエが払う。そのとき、見上げているヌエのノドに矢が刺さった。矢じりの根元までしか刺さっていないが、1本2本3本と次々にノド、胸、腹に突き刺さる。
「グワァーーーー!!」
ヌエが叫び、空中で身をよじる。オレから目を離し、スティーヴィーの方を向こうとするが矢が邪魔になった。矢をなぎ払おうと前脚を振るったとき、剣先がヌエの頭に届いた。そのまま手を離すと、剣がヌエの頭の中に吸い込まれて行く。オレの手を離れた剣は誰も持てないくらいの重さになる。そのため、ヌエの頭に落ちた剣はそのまま真っ直ぐにヌエの頭を貫き、ノドから胸に達し、床に当たって止まった。ヌエの串刺しが1丁できあがった。ヌエから剣づたいに血が落ちる。スティーヴィーがいて良かった。矢も刺さらないんじゃないかと思っていたら、無防備にしているところには刺さることが分かった。ヌエには二正面作戦で臨むと効果的ってことが分かって良かったよ。
それにしてもヌエと遭遇するんだったら、夜道だろうとカニフに向けて出発すれば良かったよ。コイツは人の肉の味を覚えて、ここにやって来ているんだろう。もしかしたらコイツがこの街の人を食い尽くしたのかも知れないな。
ヌエを殺して、やっとスティーヴィーを見る余裕ができた。スティーヴィーは弓を構えたまま肩で息をしている。その後ろにいるミワさんはスティーヴィーの肩越しに顔を出していた。
「死んだ?」
とミワさんが聞いてくるから、
「大丈夫、死んだから」
そう言って魔力袋に収納する。おっと剣も一緒に収納されてしまった。残っているのは床一面に広がったヌエの血。
『Clean』
でキレイになった。
「もっと広い所だったら楽勝だったのに」
簡単そうにスティーヴィーは言うけれど、そうでもないような気がする。
「これでこいつが、火を吐いたりしないから良かったな。もしそうなら、火で3人丸焼けだったよ」
と言えばミワさんから、
「火を吐けるんだったら、ここに来る前に外からこっちに向かって火を吐いていたでしょ?」
もっともなことで突っ込まれる。ヘイヘイ、そうですね。
「さっきの獣の肉は美味しいのかしら?」
ミワさんが聞いてくるけど、
「どうなんだろうね?なんか脂肪が少なそうで、赤身ばっかりじゃないかな?見た目がアレだから、食用になる気がしなくて、自分で食べようとは思わなくて。ヌエを見てみたいという人はいたけど、食べてみたいと言ったのはミワさんが初めてだ」
「わぁ!そんなこと言ったら、私が食いしん坊みたいじゃないですか!」
とオレを叩きにかかるミワさんだが、スティーヴィーの目が冷たい。
ちょっと気まずい雰囲気のまま、オレとミワさんがどっかに行って時間を過ごすということもできず、そのまま毛布にくるまって朝を迎えた。こういう時にいつも思うけど、一軒家を魔力袋に入れられれば良いのにと思う。その家の外見が熊でも構わないのにね。
日が昇るとすぐに出発する。今日はとにかくカニフに着きたい。もし門が閉まっていたなら、周りをぐるっと回って、夜に忍び込めそうな場所を捜さないといけないからな。
カニフに行く道は通行人が皆無だった。オレたちと一緒にカニフに行く者も、カニフの方から来る者もいない。道がずっと続いているが、本当にこの先に領都があるんだろうか?と思う。所々死体があったり、白骨が散らばっているのは、これまでと同じだけど。
ここまで来たら、そんなに急いでも仕方がない。走ることもないだろうと思って、ミワさんを背負いながら、それでも早脚で進む。
遠目にカニフの城壁が見えて来た時は感動モノだった。しかし、近づくにつれ、街の雰囲気が今まで通り過ぎて来た街と同じすさんだものということが分かった。昼間だからか、門は開いている。しかし、そこに入って行く人や馬車はいない。門から離れた所に馬車が止まっている。そこに人がポツリポツリと集まっている。
さらにカニフに近づいて分かってきた。まず門には門番が立っていなかった。そして門は中途半端な開き方をしている。あれは開け閉めをする者がいないということなのだろう。そして馬車の周りにいるのは街の中から食糧などを調達するために出て来た人のようだ。ということは中で人が生活しているということなんだろう。その周りに武装した者たちが立っていた。
オレたちが近づいていくと、その者たちはたちまち殺気立つ。
「止まれ!それ以上、近寄るな!!」
剣が抜かれ、オレたちに向かって突き付けられる。
「待ってくれ、怪しい者じゃない」
と言ったのだが、こういう時に怪しくないと言うヤツが1番怪しいと、何かに書かれていた気がする。
オレの思ったことは、向こうも思ったようで、
「そう言うヤツを信用できるわけがなかろう」
と鼻で笑いながら言ってくる。こういう時はやはり定番の口上を述べるしかない。
「オレたちは医師だ。黒死病を治療できる!」
と断言する。こういう時は、曖昧なことを言ってはいけない。断言するに限る。そうしないと信用してくれない。
「なにぃ~~~そんなことが信用できるか!」
ほら、断言しても信用されない。オレたちの会話を聞いているヤツらもせせら笑っている。
それならば実証するしかない。結局この流れになるんだよな。
「どこかに病人はいないか?治療してみせよう!」
と言ったら、
「バカめ!病人がこんなとこに来るわけないだろう!病人は死にそうなヤツばっかりだよ!」
と真っ当なことを言われてしまった。ぐぅの音も出ない、はい。




