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マウリポリを出発する

 ブラウンさんたちが来たので、オレたちはマウリポリを出発することにした。領主からポルタの街の領主への案内状をもらい、ロマノウ商会の店主には食料を分けた。


 例の魔力持ちの母娘はブラウンさんたちの元で働かせるように頼んだし。もちろん、魔力は使わせない。オレでなくミワさんが魔力回路の点検をしたら、ちゃんと魔力が流れていたそうだ。ミワさんの言うには、

「これ以上、妻を増やしたくありませんから!」

 というきつめの言葉を浴びせられたし。オレはそんなに誰かれ見境なく、妻を増やしているわけではないのに。


 ポルタの街からはポツリポツリと馬車がやって来ている。乗っている者たちは黒死病には罹っていないし、それほど痩せてはいない。ポルタの街を出てマウリポリに来ようと思うくらいだから、それなりに財力がないとできない。でも精神的にはやられていて、マウリポリに着くと、マウリポリは街の雰囲気が明るい、と言う。きっとそれは、ブラウンさんたちが着いて、黒死病を克服できるという希望が見えて来たからだろう。治療は始まったばかりだが住民は希望を持っているからだろう。

 その人らを横目で見つつ、ポルタの街に向かって走る。やはり道ばたに死体がある。虫の息というのもたまにある。死体が積み重ねられているのもある。虫の息はもう助かる見込みもない(ブラウンさんたちでも無理だろう)から、楽にしてあげる。そして燃やす。昼過ぎにはポルタの街の前に着いた。


 ポルタの街の門は、予想通り開いたままだった。門の周りに人影はなく、誰もいない。ということでノーチェックで街の中に入る。街の中は見事なくらい死の街だった。ミコライと同じか、さらにひどいか。貴族街に入っても、それは変わらず、レーダーを回して探ると館の奥の奥に人が潜んでいるのが分かるけど、今のオレたちにはその人たちをわざわざ救う余裕はない。あれはギーブの街のモァとユィのようなものなんだろう。しかし、助けたところで連れて行くことはできない。だから気づかないふりをして領主の館を目指す。スティーヴィーも気づいていると思うが何も言わない。


 領主の館は、文字通りのもぬけの殻だった。それこそ、持てるものをみんな持って逃げ出したような。そう思えば、貴族の家々も同じようだった。領主が逃げ出すとき、貴族も一緒に逃げたのか?そして連れて行ってもらえなかった者が残っているのだろうか?


 案内状を渡す領主もいないので、次にロマノウ商会を捜す。ひどく大雑把な地図を頼りに捜すのだが、ロマノウ商会があると思われる地域は怖ろしく荒れていた。家々は襲撃された跡があり、玄関にドアがある家がない。窓もみんな打ち壊されている。レーダーで捜すが人の気配がない。仕方なく、まだマシだと思う家に入って泊まることにした。窓はないがベッドがあるし、汚れているのは『Clean』でキレイになった。


 その夜、通りからは見えないようにして火を点け、夕食を取る。

「スティーヴィー、マウリポリで『Cure』を使っていたけど、今はまだ弱いままなのか?」

 と聞いてみたら、

「わからない。走るのは遅くなってないけど」

 ちょっと考えるように言う。

「そうか。なら襲ってくるヤツがいたらオレが戦わないといけないのか」

「そう。か弱い女性を助けるべき」

 とシラッと言う。


「マモル様、ミワ様、カレーライス、食べたい?」

 スティーヴィーが突然言い出した。オレとミワさんは顔を見合わせて、

「そりゃ食べたいけど、レシピが分からないし」

「レシピ分かる。あっちの世界の召喚された女の人がリリ姉に教えてくれた」

「「ええーーーー!?」」

 思わず大声を上げてしまった。通りにまで聞こえたんじゃないか。


「どうして分かったの?」

 ミワさんが動揺しながらスティーヴィーに聞く。スティーヴィーが召喚された女の人から聞いたと言っているのに、驚きのあまり聞き直している。

「だからリリ姉が聞いた。私が聞いてくれとリリ姉に頼んでいたから」

 サラッというスティーヴィー。


 オレとミワさんは手を取って踊りだす。

「やった!やった!カレーが食える!」

「すっごい!すっごい!夢に見たカレーライス!!」

 オレたちを怪訝そうに見るスティーヴィーとの温度差がスゴい。


 その後、スティーヴィーからレシピを聞き、メモする。どれもポツン村にないものばかりだ。でもザーイに行けばあるかも知れない。ザーイで取り寄せた種籾から今は猫の額ほどの稲田ができているんだ!長粒米でもいい!最悪、麦飯でもいい!カレーをかけて食べたいのだ!


 スティーヴィーの肩を叩いて、

「良くやった、スティーヴィー!!こんなに役に立つとは思わなかったよ!良かった、スティーヴィーが来てくれて本当に良かった!」

 力一杯褒めるがスティーヴィーは嫌そうな顔をしている。


「スティーヴィー、その教えてくれた人にお礼と言ってはなんだが、味噌と醤油の作り方を伝えてくれ」

 と言って、斉藤さん堀田さんから聞いた味噌と醤油の作り方を伝授する。喜んでもらえるかなぁ?


「スティーヴィー、もし、できればだが、ラーメンの麺の作り方を聞いてくれるようにリリーさんに頼んでくれ」

 とお願いする。1960年にこっちに来た斉藤さん堀田さんは、ラーメンはまだ食堂で食べるもので家で食べるという発想はなかったと言っていた。インスタントラーメンも普及し始めたばかりで(斉藤さん堀田さんは田舎に住んでたので)、1袋25円とかだったけど非常に高価な食べ物だったと言ってたもんな。だから自分で麺を作る、スープを作るなんて想像の域を超えていると言ってたし。教えてもらえれば、お礼に白胡椒とか白砂糖を送れればいいなぁ。そういうのはラノベに良くある設定なんだけど。


「ラーメン?」

 スティーヴィーが怪訝な顔をする。

「いいの!聞いてみて!ラーメンって言えば分かるから!」

 ミワさんも前のめりになってスティーヴィーに迫る。

「えっ?はい、分かりました」

 コクコク頷くスティーヴィー。オレが言ったときは、何コイツ、変なこと言い出して、っていうような顔をしてたくせに、ミワさんが言うと素直になるんだから。コイツの男嫌いって筋金入りだぜ!

インスタントラーメンの値段ですが、1970年頃、サッ〇ロ一番味噌ラーメンをおやつ代わりに与えられていました。確か1袋が25円とかだったと思います。田舎ですのでカップラーメンなど目にすることもありませんでした。そもそもスーパーマーケット自体がほとんどありませんでしたし。たこ焼きが3個20円とかだったなぁ。プラモの一番安い箱が50円だったし、チロルチョコが1個5円だった。読者の方でこの金銭感覚の分かる方はいらっしゃるのでしょうかね(笑)

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