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勇者召喚って何?

 オレとミワさんの驚いた顔を見て、若干引き気味のスティーヴィー。

「突然、何を言い出すんだ。勇者召喚なんて」

 オレの問いに、スティーヴィーはスープをすすりながら、

「うん、私の前にいた世界で勇者召喚という話題で盛り上がってるみたい」

「なんと!」

「ほんとに?」

 ミワさんだって驚いている。


「ほんと。夕べ、リリ姉がロビィ様と話してた」

 ちょっと頬を赤らめながら言うスティーヴィー。女の顔になっている。

「夕べって言うのは、馬車の中で寝ていた時のこと?」

 ミワさんが聞くと、

「うん」

 とスティーヴィーが答える。

「あの時、久しぶりに向こうに行こうと思って、でもリリ姉が替わってくれなくて、そっと陰に隠れて聞いてたの」

 陰に隠れて聞く?

「そしたら、勇者召喚って話をしていた」

 なるほどーーーそういうことか。


「勇者召喚って、こっちの魔法使いが、違う世界から無理やり人を呼ぶというものだよ。向こうで生活していたのを、ある日突然、連れてくるんだ」

 説明するがこっちと向こうの世界で同じなんだろうか?


「それなら、マモル様と同じ?」

「違う。オレたちは向こうの世界で一度死んで、神さまに復活してもらってこっちに来たんだ。勇者召喚っていうのは、向こうで生活しているのを、生きたまま連れて来る。神様が関与していないと思う」

「それって悪いことじゃない?」

「そうだなぁ、誘拐と同じかな?攫われてきたんだろうし」

「それはかわいそう」

「そうだね。向こうでさ、家族がいたり、恋人がいても、もしかして結婚したてとかでも、そういうの全部断ち切って連れてくるんだから、残酷な話だ」

「人さらいだね!」

「確かに」

 オレが同意すれば、

「確かにそうですね。勇者召喚って聞こえは良いですが、その中身は人の道を外れていますね」

 黙って聞いていたミワさんも、暗い顔をして言う。それをやるって言うのか。


「それでスティーヴィーのいた世界で勇者召喚が行われるの?ロビィって人がやろうとしているの?」

「ロビィ様はやらない」

「じゃあ誰が?」

「ロビィ様の近くの人」

「近くの人?」

「知り合い、とか?」

「「うわぁ!」」

「失敗すればいいのに」

 ミワさんが言うけど、オレもそう思うわ。

「そう。失敗か......」

 空気が重くなり、そのまま朝食は終わってしまった。


 食後、領主の私室に呼ばれた。そこには奥様がベッドに寝ていたけど、顔色は良く、とても夕べまで黒死病を患っていた人とは思えない。


 奥様が起き上がろうとするから、

「寝たままでどうぞ。無理なさらないでください」

 と制する。領主が、

「夕べは試すようなことをして申し訳なかった。おかげで妻は治ったようだ。とても信じられない。一時は妻の死を覚悟していたのだが」

 そう言いながら奥様の顔を見て微笑む。それを受けて奥様が、

「ええ、本当にありがとうございます。まさか生きたまま朝を迎えられるとは思いませんでしたわ。夢かと思ったけど、こんなに安らかに朝を迎えられるなんて奇跡のようです。黒死病にかかる前よりも気分がよろしいわ。本当にありがとうございます。この感謝の気持ちは、どれだけ申し上げても足りません。本当にありがとうございます」

 まだ細い声だが、声に力が感じられる。この人を助けて本当に良かったと思えた。


「それで悪いのだが、この街の病人たちを治してやってくれるか?」

 領主が頼んでくる。

「分かっております。そうさせてください!」

「おお!そうか、助かる!」

「この先の街、ポルタでしたか、そこにも知らせてあげてください。マウリポリの街にくれば病気が治せると。それと近いうちにオーガの街から部隊がやって来ると思います。その人たちが活動できるように、準備しておいて頂けますか?軍隊を連れてきたりはしないと思うので、自分たちを守ることはできないと思います。ですからこの街の兵で守ってやって欲しいのです。よろしくお願いいたします!」

「そうか。分かった!この街を救いに来てくれる者たちを、この街の兵で守るのは当然のことだ。近隣の村々にも呼びかけて、マウリポリに来させよう。マウリポリに来れば病気を治してもらえるのだと伝えよう」

「お願いします」

 ここで領主は一転して重い口調で語り出した。


「しかし、タチバナ様、そこまでやって頂いても、この街には報酬を支払えるだけの金がない。どうすれば良いのだろうか?黒死病のせいで、街の蓄えは底をついている。辺境伯様からの支援も途絶えている。黒死病を克服して、街が復興すれば報酬を支払えるようになると思う。しかしそれは数年後のことになるだろう。ヤロスラフ大公国も黒死病を克服してからまだ数年しか経っていないだろう?それに辺境伯様の侵攻もあった。財政に余裕があるとは思えない。それなのに、いつ返せるか分からない支援を頂き、どうすれば良いのだろうか?」

 うーーん、深刻な問題だな。どうすれば良いのかオレにはさっぱり分からない。と言うことは、

「そういう難しい話は私には分かりません。私は単なる先発隊なので、治療団が来た時にきっとそっちの方の官僚が付いて来ていると思います。その者と相談してください。その者が誰かは私には分かりませんが、それなりに地位の高い人間だと思います。ですから、私のような小物でなく、そっちと打ち合わせてください。お願いします」

 と丸投げした。


 オレの予想では、治療団と一緒にやって来るのは、上手くいけばギレイ様、悪くてもブロヒンさんが来るだろう。どっちが来ても、書類の山を後にしてやってくるんだろうな、気の毒だ。


 




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