いよいよ敵さんに近づきます
真夜中に、ヒューイさん(様?)、オレ、バゥ、ミコラの4人で出発する。
荷車に武器を載せ、汚い布を掛け運ぶ。ここから、半日ほどの所に目的の場所はあるそうで、朝前には着くそうだ。近くまで行って、山へ狩りに入るような顔をして進むんだそうな。ヒューイさんの案内で、月の明かりだけを頼りに進む。この人は夜目が利くようだし、オレたちもあの村で住んでいると自然と夜目が利くので、月明かり程度でも十分に歩いていける。
獣がやってこないのかな(オレがいるから)?と思っていたら、ヒューイさんがお守りを持っていた。ヒューイさんも魔力持ちで、魔法を使えるほど魔力はないけれど、お守りを使うくらいは十分だそうである。魔法を使える人は信忠様の配下にいるそうなので、戦が終わったら紹介してもらえばいいですよ、と言われる。
夜道をテクテク歩くと、夜明け前にヒューイさんの考える目的地に着いた。
ヒューイさん曰く、夜道でこんなに早く着くとは思いませんでした。こんなに夜目が利く人が揃うなら、これから織田軍で偵察担当は決まりましたね、と笑われる。ヒューイさんは事前に1人で来たことがあるそうで、おおよそどこに根拠地があるか、掴んでいるとのこと。本当の山賊なら明確な根拠地を持って活動するということは少ないのに、明らかに山城のような構えで作っているので、帝国の正式軍としか思えないということだった。確かに言われて見ればそうだわ。そこまで見てたら、オレらいらないんじゃない?と思ったら、どのくらいの人数で、どのような装備か調べれれば良いのです、とのこと。
バゥとミコラは心得ているらしく、素人はオレだけだったみたい。3人は少し呆れたような顔をしたけど、オレはこの世界生活の初心者マーク付けているんだから、って説明して納得してもらう。ヒューイさんは、マモルさんのように率直に言う人は初めてです、と呆れともなんとも言えないニュアンスで語られるけど、事実だから仕方ないです。さあ、がんばりましょう。
ヒューイさんが先頭に立ち、ミコラ、バゥ、オレの順で山に入って行く。獣道のような、辛うじて人が通ったことがあるような道をウネウネと進む。そうこうしているうちに、夜が白み始め、朝日が昇ってくる。どんどん視界が広がってきて、現在は山の中腹辺りに来ているようだ。
「ここから1時間ほどの所です。1度ここで休憩しましょう」
ヒューイさんが言う。休憩と言っても、干し肉と水を飲むだけだが。そこで聞いてみた。
「聞いてみるんですけど、皆さん、オレが魔法を使えることを知っていますか?」
3人ともうなずく。ヒューイさんが
「参謀から、マモルさんは魔法が使えるらしいから、オマエの魔力が尽きたら、お守りをマモルさんに渡せと言われています」
そうなのか、それならちょっとくらいサービスしてもいいか?
「そしたら、ちょっと皆さんに回復の魔法を掛けますから、側に来てください」
みんな、お?というような顔をするけれど、寄ってくる。1人ずつ
『Cure』
と掛けると
「「「おぉ、これはすごい」」」
と反応があった。
「疲れもなくなりましたし、眠気もなくなりました。しかし、こんなことに魔法を使っても良いのですか?
とヒューイさんが聞いてくる。バゥもミコラも、ウン、ウンと頷いている。
「いや、私の使える役に立つ魔法はこれだけなので、魔力の使い道がないですから大丈夫です」
と答える。バゥとミコラは『Clean』はどうした?という顔をしているけど、それは内緒だからね。
いよいよ、敵の陣地に近づいて行くが、ヒューイさんの足取りは見るからに軽くなって、藪の中を進んで行く。
「ほら、ごらんなさい」
と、ヒューイさんが指差す方を見ると煙が上がっている。
「敵が朝食の準備をしています。敵も警戒して、あまり煙を上げないようにしていますが、私たちが近くに来たので見えました」
ふむふむ、なるほど。
「1人でも捕まえればいいのですが」
「捕まえて、状況を吐かせるのですか?」
「吐いてくれれば良いですが、そうはいかないでしょう。持ってる武器や身なりを見れば、山賊かゴダイ帝国のものか分かりますから。煙の数を数えれば、おおよその数が分かりますし」
ヒューイさん、すごいですね、と思っていたら、バゥとミコラはあんまり感心したように見えず、どうも知ってる人は知ってるような豆知識のようだ。
「いくつですかね、数えてみましょう。1,2,3,4,......」
とオレを除いて、みんな数えだしたので、オレも数える。
4人で数え終わると、28から31という数が出て、おおよそ30であろうと言うことになった。ひとつの煙で8から10人くらいが炊事するから250から300人ほどがいるのだろうと推定されるらしい。それに、こんな大人数の山賊を維持するのは、どこからか食料を供給してもらわないと不可能であるので、ゴダイ帝国から来た兵隊たちが山賊に偽装しているのであろうということになる。
「木の上に登りましょう」
とヒューイさんが言ったので、みんな思い思いに近くの木に登る。敵陣は結構、下にあった。250から300人もいると広い場所が必要だし、上から見ると丸見えだ。モンゴルのゲルみたいなテントが張られている。
「やはり、250から300人と言ったところですね。オダ様が近づいているのは、今日の午後くらいに情報が入るでしょうから、今はまだゆったり構えていますね」
ヒューイさんの解説に、オレはただ感心するばかりだ。
「さて、敵の兵士を捕まえたいのですが、近づかないといけないんですよ」
と言いながら、藪を降りて行く。この人、大胆だなぁ、場数を踏んでいるんだろうな。オレなんて、さっきからビビりまくっているのに。
結構、音がしている。枝が折れる音。滑り落ちる音、などなど。気にすると余計気になる。消音の呪文とかないのだろうか?この世界の魔法の呪文って、英語の動詞にしなくちゃいけないような気がする。『Silent』は形容詞ですよね、確か。なら、動詞にするなら『be』を付けて『Be Silent』にすればいいのかな?エルの発音と末尾のtを発音しないようにすれば
良いのかな?
『Be Silent』
と唱えると、あ~ら不思議、1発で効いたような気がする。ヒューイさん他2人がオレを振り返り
「「「何かした?」」」
と聞いてくるので
「試しに、音が消える魔法を掛けてみたのですが、うまくいったようです笑」
「「「それはスゴい」」」
「それなら、姿が見えなくなる魔法はかけられませんか?」
「すんません、それの呪文が思い付かないので無理です」
「え、今のは思い付いてやったら、できたのですか?」
「はい、たまたまです」
「たまたまって。ちょっと常識では考えられませんね」
「いやいや、せいぜい生活魔法の範囲内でしか使えませんから。あと、どれだけ持続するのか、分からないのですがね」
「そうですか。そうしたら、聞きたいことは山ほどありますが、先に進みましょう」
とヒューイさんが言いながら、どんどん降りて行く。目と鼻の先にテントが見えてきた。あと20mくらいだろうか?こんなに近づいてドキドキしてます。見つかったらどうするの?きっと逃げるんでしょうが、追いかけられたら、逃げ切れる自信ないです。ヒューイさんの自信はどこから来るんだろう?大胆不敵、って言葉知らないのかしら?あぁ、もう帰りたい。
あ、『Be Silent』切れました。




