マウリポリの道を進む
街の中で盛大に炎を上げていても、近づいて来るヤツはいなかった。傍若無人という言葉がぴったりのオレたちに近寄るとろくなコトはない、と誰もが思ったのだろう。それなりの数の集団が遠目にオレたちを見ているのが分かったが、それ以上近寄って来ようとはしなかった。燃やしていると肉の臭いがするし、こんな状況下で肉を燃やしているとなったら、それは何の肉なんだと思うだろう。そう考えると、燃やしているのは?と行き着くだけの頭を持っているヤツもいるということだろう。
おおよそ燃えたところで、街の外に出る。マウリポリに向かって歩き出す。ここからはミワさんを背負って走り出す。ミワさんの感触が刺激する。
マウリポリに繋がる街道には人がいない。街道を外れたところにも人はいない。マウリポリから来る人間は通していると聞いたが、今はシャットアウトしているんだろうか?だいぶ進んだところで、先に櫓が見えた。それは街道をまたいでおり、櫓の上に松明があって、街道を照らしている。人は?いるにはいるようだ。
櫓から両側に木の柵が伸びている。見た感じ視界の限り、続いている。それはそうだろうと思う。立ち止まり、考える。
「どうする?」
スティーヴィーが聞いてくる。
「無駄に争いは起こしたくないので、迂回して向こうに行く」
「面倒だぞ?」
「分かってる。それを言ったら、この依頼自体がそもそも面倒なんだから。これからこういうことは付きものだろう」
「確かにそうだ」
ここでミワさんが会話に加わった。
「柵が続いていると言っても、急ごしらえでしょうし、どこまでも続いているわけではないでしょう」
「そうだよな。何でも限界というものはあるだろう。まさか万里の長城ってことはないだろうし」
「まさか。領内になんのためにあんなものを作ろうというのですか」
ミワさんはおかしそうに笑うけど、万里の長城を知らないスティーヴィーはなんのこと?という顔をしている。
「ともかく迂回しようか。右の方は草原が続いているけど、左はすぐに山になってる。きっと山になったら柵は途切れているだろうし、そこから行くことにしようか?」
「了解」
「分かりました」
ミワさんを背負ったまま山の方に向かって進む。一応獣道みたいのはあるだろう。最初に住んだあの村で散々山を歩かされたから、どういうところを通れば良いかってことくらい分かる。ただ一つ問題があるとすれば、オレが獣を呼ぶコトなんだろうなぁ。
柵は予想通り、山のところで終わっていた。そこは崖になっているところだったので、そこから入ると何かありそうな気もして、山に入ってから向こう側に行くことにした。鬱蒼とした森の中を進む。虫が寄って来ない、というのは本当にありがたい。
しかし、予想は的中して、夜なのに起きている獣が襲ってきた。
「マモル様!何か来る!」
「そうだな、見つかったようだ。スティーヴィー、相手してくれるか?」
「わかった、たぶん大丈夫だ」
スティーヴィーが剣を抜き放ち、迎え討つ構えをする。来るのは2頭の獣。それも結構大型の。足が速く、飛ぶようにやって来る。これだけ木が生えているのに、それに夜だというのに、昼間のように軽快に走ってくる。
「来る!」
スティーヴィーがオレたちに教えるように叫ぶ。走って来たのは白い塊。大きい玉のようなモノが突っ込んで来た。野生の超大型の羊だ。額から真っ直ぐに角が生えている。
1頭目がスティーヴィー向かって突っ込んで来るのを、スティーヴィーは跳び上がり、頭に向かって剣を振り抜く。そして羊の背にトン!と片足を付いて、さらにジャンプし2頭目の羊目がけて跳ぶ。身体が回転していて足が上、頭が下、それより下に剣がある。羊はその剣に吸い込まれるように走って来る。剣が見えているのかいないのか、見えていたとしても、もう除けようはないだろう。そのまま剣に頭をぶつけて額を割られる。2頭の羊はスティーヴィーに斬られた後も走り、1頭は大木に衝突して止まり倒れた。もう1頭は10mほど行って足をよろめかせて転がった。
「こんな大きな羊は初めて見た!」
スティーヴィーは驚いているけど、オレはその羊を一撃で倒すスティーヴィーに驚きだって。ミワさんだって息を呑んで、身体を縮こまらせているし。
「この世界では、こういうの普通にいるんだよ。これからまだまだ出会うと思うぞ、スティーヴィー頼むな」
「任せとけ」
なんか、スティーヴィーはどんどん男の方に行ってるような気がする。とにかくスティーヴィーの倒した羊を魔力袋にしまった。これでこの先、配る食料にも事欠かなくなってきた。解体しなくちゃならないけど、山を抜けてからで良いだろう。
そう思っていたときはまだ良かった。しばらく歩くと今度は鹿が出て来て、次は熊、そしてまた鹿と次々に出て来た。
「この世界の山というのはこんなにも獣が出てくるものなのか?しかもこんなに大きいモノばかり!」
しまいにはスティーヴィーも半ギレになってきた。それにいつまで経っても山を抜けれない。
そして山小屋に辿り着いた。




