ミコライの町を出発するが
その後は寝かせてもらった。特にイベントが発生しなくて助かった。家主以下3人は、もともと昼間は活動していないようで、静かにしていてくれた。いつも息をひそめて生活しているんだと思うが、今日はいつも以上にひっそりとしていただろうと思う。
オレたちは日暮れ前に起きだし、せっかく風呂があるんだし、もう一度風呂を沸かすことにした。スティーヴィーは面倒がらないかなぁ?と心配したけど、これがニコニコして協力してくれる。転移前はめったに風呂に入れなかったようだが(なんでも風呂番?からは外されていたと言っている)、転移してくると超お気に入りとなってしまったそうで。風呂番というのは風呂を沸かす役目なんだろうか?でも女の子のスティーヴィーに風呂を沸かさせるなんてことはないだろう?そうすると風呂番は何をする役なんだろうか?これは聞いて良さそうな雰囲気ではないので聞いていない。
「タチバナ様、この町からマウリポリに行く街道は封鎖されております。領軍が出て、境界線を築いていると聞いております。ですから、行くとおっしゃっておられますが、無理だとおもうのですが」
家主が申し訳なさそうに言ってくる。さっきから不思議なんだが、そういう情報っていうのは、どこから聞いているんだ?家に引きこもって生活していると情報遮断にあって、今日が何月何日かも分からないくらいのもんじゃないのか?そうなると外で何が起きているのかなんて、分かりもしないだろう?でもそれを、ある程度知っているというのは、地下に人に言えないネットワークが存在するんだろう。問い正せば教えてくれるかも知れないけど、これは聞かない方が良いような気がしてきた。
「わかった。貴重な助言、ありがとう。そういうのは散々くぐり抜けてきたので、きっと大丈夫だと思うから。もし突破できなかったら、またここに戻って来るので、その時は泊めてもらえると助かる」
家主は頷き、
「はい。その時は遠慮なさらずにお泊まりください」
と言う。オレが突破と言った時、スティーヴィーは顔色を変えなかったが、ミワさんは動揺している。どんな悪路になるのか、路と言えるくらいの道があるならまだしも、獣道でもないようなところが突き進むということになるかも知れないな。進むだけなら良いけど、もし獣がオレたちに絡んできたりすれば、それは面倒なことになる。でもミワさんがいれば、虫は寄ってこないからその分快適なんだけど。オレが獣を呼ぶというコト以上に、虫が来ないっていうのは、ほんとこの世界の旅ではありがたいことだと思う。
夕食を家主一家と一緒に食べる。オーガの街で買ってきたスープの鍋をそのまま出す。できたてを鍋ごと買ったのでまだ温かい、というか熱い。極力煮炊きを制限してきた家主一家は、できたてのスープ具たくさんに舌鼓を打って食べてくれた。娘はスティーヴィーに、行かないで!オーラを発しているが、スティーヴィーは気が付いているのかいないのか、まったく知らん顔をしている。目に涙を溜めているけど、誰もそれに触れない。
日が暮れ、辺りに人のいないことを確認し、屋根を伝い、道路に降りる。よーく注意すると、廃墟に見える家の中に人のいる気配が感じられる。玄関に人の骨が置かれている家の中にも人がいるようだ、カモフラージュに置かれているんだろう。
街の中を進み、時折、人の集まりを見る。遠目で、焚き火をしてそれを数人が囲んでいる。こっちは無灯火で歩いているし、足音も消しているので分からないと思ったのだが、向こうに遠目の効くヤツか異常に感の効くヤツがいて、無視してくれれば良いのにわざわざ近づいてくる。
向こうもすることがないのだし、そもそも夜中に街をうろついている人間がいること自体、珍しいし怪しいように見えるだろう。もしかしたら物の怪に見えているかも知れない。
そいつらはオレたちに向かってやって来る。オレたちは特に足を速めることもなく歩いている。100mも離れたところから、ヤツらは走って来て、
「ま、待て......」
息も絶え絶えに声を掛けてきた。でもオレたちは、そいつらに用もないので、無視する。ヤツらは走って来て、徐々にオレたちの周りに到着する。が、膝に手を付き、ゼイゼイと言っている。地面に座り込んでいる者もいる。ここまで走って来て、力尽きたという感じになっている。栄養不良なのに走って来るから、そうなるのは当然だろう?と思いつつ、無視して先を進む。
「待て、止まれ......」
やっとボスとおぼしき男がやって来た。一応腰に剣を刺している。
「オマエら、どこに行くんだ、ハァハァ」
「マウリポリに行く」
「ええーーー!それは無理だぞ!絶対無理だ、領軍が出て来て、マウリポリに入ろうとするヤツはみんな殺していると聞いているぞ。止めておけ」
「わかった、忠告痛み入る」
「そうだ、もし行くならヤロスラフ王国に行くのがイイ、と言われているぞ。あそこに行くと助かるらしい。風の噂で確証はないが、あの国は黒死病を克服したらしい。大草原を越えさえすればヤロスラフ王国だ」
「そうか、考えておく」
そう言って、スタスタと歩き出す。ミワさんは背負っておらず、歩いているので一目で女と分かる。内股で歩幅が狭くテケテケとゼンマイ仕掛けのように歩くから。
「オマエら女を連れているのか?」
ボスの言葉にヤツらの中の空気が変わる。どいつもこいつも女に飢えている。否定してもしょうがないので、
「いたらどうする?」
剣を抜き、ボスと相対する。スティーヴィーも剣を抜いた。ボスは後ろの仲間を見渡す。これだけの人数で襲えば2人か3人か死んでも、女は獲れると思っているのか?こういう時に最初に出てくるヤツっていうのは決まっている。このパターンはどこに行っても延々と繰り返されてしまうんだろうなぁ~~と諦めの境地に入りつつあるオレ。スティーヴィーがいるから、男好きの男たちにもウケが良いので、誰でも襲いかかってくる。
ボスの横から飛び出してくる。無手ということはなく、剣を握って振りかぶっている。同じようにスティーヴィーにも1人が向かっている。バカめ、と思いながら踏み込んで、そいつの腹を薙ぐ。ついでに避けた拍子にそいつの足にオレの足を掛ければ、前のめりになり後ろはガラ空きになった。そのガラ空きの首筋を剣で斬る。そいつを蹴ってボスにぶつける。ボスはそいつを抱えて、転がった。
「オ、オレたちは、な、なにも!」
ボスは叫んでくるが、何もしていないと言う、あなたの心がけがいけないんでしょうが。どうしようと思っているうちに、スティーヴィーがボスの首を刎ねた。スゴいね、スティーヴィーさん、迷いってものがないんだ。
「こういうヤツらを野放しにしておくと、善良な平民がバカをみる。だから駆除するに限る」
平然とおっしゃるスティーヴィーさん。確かにそうですけど駆除と言いますか。
殺したヤツらをこのままにしておくわけにもいかないので、燃やしてしまうことにする。家の前で殺したヤツらも魔力袋の中に入れたままだったので、これも一緒に燃やす。1度袋に入れて、取り出すときは積み重ねる。それにオレが火を付けると盛大に炎となった。
「こんなに大きな炎を出せるなら、風呂を沸かすのも簡単だろう?」
スティーヴィーが不思議そうに聞いてくるから、
「そうじゃないんだ。細かな調整って難しくて、やってもらえるなら任せた方が安心なんだよ。前にギーブで黒死病が流行った時、死人を数え切れないくらい燃やしたので、一気に燃やすのが得意になってしまって、風呂を沸かすのは苦手なんだ。だからこれからも風呂を沸かすことがあれば、火の方はやってくれ。頼む」
「分かった」
一応は納得してくれるスティーヴィー。人を燃やしているというのが分かるのか、誰も近寄ってこなかった。
本編とはまったく関係ありませんが、今年の稲作はまったくの不作で、出荷の新米は全部2等米でした......おまけに反あたりの収量も例年の8割くらいしかないという結果で涙が出ます。7月8月が例年の1%くらいしか雨が降らないと、いくら田んぼに水を流していても、稲は満足に育たないということを証明した気がします。それにコシヒカリって暑さに弱い銘柄ってこともあるんでしょうし。
江戸時代とか、干ばつで大不作で飢饉になるってのは今年みたいな天候の時を言うんだろうと思ってます。
でもナゼか今年の栗は大豊作です。去年は大凶作だったんだけど、何が違うんだろう?栗は売り物にしていないので、人に分けるにも限りがあり、毎晩妻と一緒に皮を剝いて冷凍庫に保管しています。作者の苦労をマモルにも分けております。




