さらに追加で来客があって
ドヤドヤドヤと音がして、集団が現れた。手には剣や槍が握られている。良く言えば自警団、悪く見れば強盗団である。ただ、顔が凶悪顔そのものなので、とても街を守る連中には見えない。
「なんだ?さっきの声は?」
ボスらしき男が先頭に立って歩いて来る。必要以上に肩を怒らせて歩いて来る。そいつに従っているヤツらも、ボスの真似をするのを強制されているかのように、歩いて来る。こういう連中って、こうやって威嚇するのが必須なんだろうか?
「さあ、なんだろう?何か聞こえたか?」
一応はとぼけて見るが、
「なんだぁ、その足下の血の跡はぁ?オマエがやったのかぁ?」
何ともめざといことで、ちゃんとそれを見ていらっしゃる。職業病というのですかねぇ?血の跡に敏感なんてのは。
「手助けにきた」
後ろにスティーヴィーが現れた。オマエが出てくるとなぁ、またあいつらが盛り上がるから、出て来て欲しくなかったんだよ。それにスティーヴィーは風呂上がりじゃないか。それなのにまた汚れるんだぞ。血を浴びなくとも、埃はかぶるんだから、ずっと中にいれば良かったのに、血が騒いだのかなぁ......トホホ。
案の定、お客様たちは盛り上がった、一部ではあるが。
「おおお、コイツはキレイな兄ちゃんが出て来たねぇ!」
「へへへ、久しぶりだぜぇ!こんな兄ちゃんがいたとは、たまらないぜぇ!」
10人も男が集まれば1人くらいは必ずそういう性向の方がいらっしゃる。そういう方のモチベーションがグッと上がったのが伝わってきた。
「邪魔するんじゃねえぞ!オレたちがあの兄ちゃんを捕まえるからよぉ!」
「そうだぜ、オレたちのもんだからなぁ、あははは!」
なんとも嬉しそうな声を上げて宣言なさる。スティーヴィーはきっと、表情変えてないんだろうなぁ。内心、どうなのか想像したくもないけど。
「おっさんよぉ、その兄ちゃんを渡してくれたら、大目に見てやってもいいぜぇ?」
ボスらしき男が言ってきた。大目に見る?それはどういうことなんだろう?大目に見て、結局なぶり殺されるという未来しか見えていないんだが。
こんなの、野放しにしといて、街中にきっと潜んでいる善良な市民の方々にとって、有益なことは1個もないだろう。それならここで始末してしまうに限る。
「ほらほら、おっさんよぉ。どうするんだいぃ?その兄ちゃんをよお、あれぇ、もしかしたら、兄ちゃんかと思ったら姉ちゃんだったかぁ......」
ボスが途中まで言いかけたとき、オレの横を疾風が通り過ぎ、ボスの前で金属のきらめきが起き、次の瞬間ボスの首が宙を舞っていた。
「あっ......」
ボスの部下もオレも同じように声を上げた。呆然と、宙を舞うボスの首を見る。ボスの首が地面に着く前にスティーヴィーは、スティーヴィーのことを兄ちゃんと呼んだ男を斬る。気の毒だがその男に挟まれていた男もついでに斬られている。ヤツらは武器を構える余裕もなくスティーヴィーに斬られていく。スティーヴィーさん、よほどさっきの揶揄が腹に据えかねたのね。人に物を言うときは、よくよく気をつけて言わないといけない、という見本を目の前で見せられている。
スティーヴィーの剣も神様からもらったモノだからか、血糊が付いて斬れなくなるとか、刃こぼれがするなんてことは一切ないらしい。あと、スティーヴィーに人を斬るためらいってものがまったくないから、次々に斬っていく。
オレは仕方ないので、死んだヤツを魔力袋に収納していく。まだ息のあるヤツはトドメを刺すんだが、そんなヤツほんのわずかだ。スティーヴィーは敵にしたくない、というか絶対に敵にできんわ、と思う。あの細い身体で、あのちっこい頭で瞬時に判断して最適解で斬っていくってどういうことなんだろう?って思う。
さて、盛大に血がばらまかれた道にスティーヴィーが立っている。ろくに息を切らしていない。
「スティーヴィー、もう1度風呂に入ってこい。この跡はオレが片づけるから」
「そうか?悪いな」
オレに対してはそっけない返事のスティーヴィーである。これが本当にご主人様に抱かれたというのか?ちょっと信じられないなぁ。それにしてもスティーヴィーを女だと見破ったボスの鑑定眼は驚いたけど。
血の跡は水で薄めて流す。血ってたくさんでるんだなぁーーなんて他人事のように思いつつ。そして、こんなのミワさんには見せられんわなぁーーと思ったりして。
屋根から家の中に戻ると、家主と奥さま、娘は血の気を失っていた。どこかで覗いていたらしい。そりゃあね、家の前で大量殺人が行われたのを目撃すれば、そうもなるでしょう。この世界に生きていれば、目の前で人が殺されるのも一生に1度以上は目撃することになるだろう。
身体が冷めてしまったので、スティーヴィーが湧かし直してくれた風呂に入る。やっぱり伸び伸びと風呂に入れると嬉しい。いくら『Clean』を使ってきれいになっても、この気持ちの良さって、何物にも代えがたいよなぁ。日本人だってことを痛感する。
ふと、このお湯を瓶に入れて、スティーヴィーの顔写真を貼って売れば、儲かるかなぁ?なーんてよからぬコトを考えてしまった。あっ、オレの身体のエキスもお湯に入っていたんだった......。




