ステファニー、転移する。
ステファニー・ニックス(通称スティーヴィー)が転移するときの話です。
気が付いたらスティーヴィー・ニックスは真っ白な空間の中にいた。周り中が明るく、上も下も左右も分からない空間。立てるかどうか分からないが、とりあえず立って見る。辺りを見回して、前を見たとき、白い服を着た女の人が立っていた。銀色の髪に白い肌。目の色も同じ銀色。非常に整った顔をしていて、とても人とは思えない。
「スティーヴィー・ニックスですね?」
女が聞いてくる。少し高い声だ。
「あ......はい」
「あなたは自分が死んだことを自覚していますか?」
スティーヴィーは女から問われて、森の外れで戦い死んだことを思い出した。確か、ロビィ様を守って、リリ姉と一緒に戦っていたはず。そして敵の男に斬られて......あれ?それで私、死んだはず......?どうして?
「はい」
「あなたは、どうしてここにいるのか、不思議ではありませんか?」
そう言われれば確かにそうだ、どうしてなんだろう?
「不思議です」
女は少し呆れたような顔をして、
「本当にあなたは少し言葉が足りませんね。生前、それでは人付き合いに困ったでしょう?」
その通りだから、
「はい」
と答える。
「私が誰か疑問に思いませんか?」
と女が問うから、
「はい」
と答える。はぁ、とため息をつき女は、
「私はあなたたちの想像する神の1人なのですよ」
スティーヴィーは驚き、
「女神様!?」
と言った。スティーヴィーとしては精一杯驚いたのに女神は
「なんと反応の薄い子なのでしょう?ああ、この子を呼ばなくとも、他にもっと良い子がいたのじゃないかしら?」
と嘆いている。
スティーヴィーはなんのことか分からない。呼ばれたと言われても、どうして呼ばれたのか分からない。反応が薄いと言われても、極度の人見知りだから、よほど親しくならないと会話ができない。まともに会話できたのは兄とロビィ様とリリ姉だけだったから。
「でもまぁ、いいわ。私はあなたの最後を見ていたのです。とても頑張り、主人を助け、主人の犠牲となったあなたを見て、この子は是非、もう一度違う世界で生かそうと思いました。たんに私の気まぐれなだけですけど」
何か訳の分からないことを言われた。
「違う世界?」
「そうです。あなたの世界でも、異世界から来た人間がいるということを知っているでしょう?あなたをそうしてあげようと思うのです」
「私が?」
「そうです!」
「無理......」
「はぁ?何が無理なのですか?そんなことを言う者など初めてですよ!ほとんどの者が、1度死んだのに復活できることを喜んで受け入れるのに!」
女神の口調が強くなる。スティーヴィーは萎縮してしまう。
「新しい世界なんて無理。知らない人と仲良くできない......」
「なんて後ろ向きなことを言うのですか!?だからあなたは......いえ、止めましょう。そうですね、あなたが転移する所には、あなたを仲間として、すぐに受け入れてくれる人間のいるところに転移させますから」
「えっ、ロビィ様の所がいい」
「1度死んだのですから、それは無理です!」
「それなら、死んだ方がいい」
女神は困り果てて、
「どうしてそのようなコトを言うのですか!もう少し前向きになりなさい!」
と叱るからスティーヴィーはさらに萎縮する。
「......無理......できない......ロビィ様に会いたい......」
ベソをかいているスティーヴィーを見ながら、女神は頭を抱えながら、
「では仕方ない。ロビィ様にたまに会えるようにしましょう」
「ホントにっ!?」
急に大声を出したスティーヴィーに女神は驚きながら、
「ごく稀にということなら可能です。直接会うことはできませんよ。ロビン・マリーの近くに媒体があれば、それを通して話をしたりすることができるようにします」
「リリ姉!リリ姉がイイ!」
「では、そのリリ姉?リリー・ペイジの身体を借りてロビン・マリーと話せるようにしましょう」
「ありがとうございます!」
「しかし、その時、リリー・ペイジの身体を借りるだけで、リリー・ペイジの意識はあるので、リリー・ペイジが嫌がったら会話はできませんよ。よろしいですね?」
「はい!」
「あくまでもリリー・ペイジが許してくれたなら、ですよ?」
「はい!」
「それと、あなたの意識は1つしかないのだから、あなたの意識がリリー・ペイジに行ったなら、転移した先のあなたの身体からは意識が抜けるのですよ。良いですね?」
「はぁ?よく、分からない」
「だ、か、ら!あなたがロビン・マリーの近くにいる時は、転移した先のあなたの身体は意識を失っている状態だと言うのです!」
「はい?」
「ですからっ!転移した元のあなたは、気絶したか眠ったように周りの人からは見えます。あなたの意識が戻るまで、あなたの身体がどうなろうと動きません。何をされても反応はありませんよ!」
「殺されても?」
「そうです。それに今度殺されると、意識も消滅します」
「大変だ!」
「そうです。ですからリリー・ペイジの身体に移るときは、極力安全な所に身体を置いておきなさい。そうしないと、戻る身体がなくなりますよ」
「はい」
女神はホッとしたようで、肩の力を抜いた。内心、説明が大変ならこの子を転移させなければ良かったと思いながら。
「あと、転移するにあたり、何か希望する能力を与えましょう。転移する世界の言葉を理解し、話せるようになる能力は当然与えますが」
「もっと強くなりたい!」
「強くとは、力が強くなりたいということですか?」
「違う!もっと速く剣が振れるようになりたい!飛んできた矢を躱せるようになりたい!速く走れるようになりたい!」
スティーヴィーはだんだんと気分が上がってきた。
「分かりましたよ。それくらいはたやすいことです。転移する国で最高の武技の持ち主と同等の能力を与えましょう。他には?」
「ない!」
「では良いですね?転移しますよ......」
スティーヴィーの周りがまた真っ白になり、女神の姿が薄らいで消えていった。
そのときスティーヴィーは思った。もっと可愛くて女らしい身体にしてもらえば良かった、と後悔した。
また意識がなくなり、再度意識が戻ったとき、眩しくて目が開けられない。身体の周り中が光に包まれている。ナゼか身体の重さを感じない。と、上に空が見えた。暗い空だが、青さは分かる。太陽が暗い。だんだんと太陽が小さくなってきている。ということは降りている?トン!と身体に軽い衝撃を受けた。地面に着いたのだろうか?でも起き上がろうにも身体が動かせない。
ふと見ると金髪の少女が2人、自分をじっと見ている。まるで人形のようにかわいらしい。2人ともツインテールにしているが、1人はストレートの髪の毛で口の横にえくぼがある。自分に対する興味が目から溢れている。もう1人は巻き髪のちょっとぷくっとした頰をしている。この子は少し引っ込み思案なのか?横に2人よりも少し年上のポニーテールをした少女がいた。この子は少し目力が強いが、美少女だ。胸も膨らんでいて羨ましい。そして奥に男女が2人いた。2人とも黒目黒髪で平べったい顔をしている。そして色が少し黒い。このような外見の人間をスティーヴィーは初めて見た。男の方は背が高いが、ごくごく平凡。ロビィ様を見慣れた自分にとっては、取るに足らない顔をしている。
「誰?」
自分でももう少し言いようがあると思ったが、それしか言葉が出なかった。そうするとまず男から名乗った。
「オレはマモル・タチバナだ」
「私はモァ!モァ・タチバナよ!」
「私はユィ・タチバナです」
「スーフィリア・タチバナです」
「ミワコ・タチバナよ。あなたの名前はなんて言うの?教えてください」
次々と名乗る。全員がタチバナ姓を名乗った。ということは貴族なのだ、この人たちは!
内心、慌てながら、
「わたし......ステ、ステファニー、です。み、み、みなさん、貴族様?」
言ってしまった。
ステファニー、そうこれが私の名前だ。子どもの頃から無口で不器用で男勝りだったので、まるで男の子のようだと言って、兄が面白がってスティーヴィーと呼んだのが定着して、スティーヴィー・ニックスというのが定着してしまった。ステファニーという名を知っているのは兄だけだったから、こだわりはなかったけど、ここに来て自分が女であることを知って欲しかった。
女性4人に少しガッカリしたような色が見えた。そう、良くあること。私の外見を見て、少年だと勝手に勘違いして、女だと分かるとあからさまにガッカリされたりする。私は何も悪いコトをしていないのに、文句を言われるコトもあった。この人たちも同じだろうか?
ニックスという姓を名乗らなかったのは、貴族と言っても1番下なんだから、相手の爵位を聞いてからにしようと思ったから。
後ろにいた黒目黒髪の女が、
「そう貴族で私たちは貴族一家です。この方がタチバナ男爵で私が妻で、この3人が娘ですよ」
と言う。男爵様!そのご家族!あああ、やってしまった。男爵様になんという口のきき方をしてしまったのか!?
「も、もうしわけ、ありません......失礼、しました。お許し、ください」
謝罪するも口が回らない。
ツインテールの活発そうな女の子が身を乗り出して
「ステファニーさん、あなたはどこから来たの?教えてくれる?」
と聞いてくる。いいなぁ、こんなに活発で人見知りせず、物怖じしないで人に接することのできる性格が羨ましい。黒目黒髪の2人は少し引いている。金髪のポニーテールの2人は私に興味津々で迫ってくる。
そのとき視界の中に、矢が飛んで来て頭の上で跳ねているのが見えた。
「戦闘中?矢?来ている?」
と聞くと、平べったい顔をした男が、
「そうだ。今、オレのバリアで防いでいるけど、もうそろそろ間に合わなくなってきている。こっちから攻撃を仕掛けようと思っていた」
と答える。
「敵?」
と聞くと、平べったい顔の男が
「そうだ。この近くにいる悪党だ。凶賊だちで、人を襲い、何人も殺したと言われている」
と返ってきた。女神が私を転移した先の人が悪人ということはないだろう。それなら私は戦って、この人たちを守らないといけない。幸いにレイピアを腰に付けている。防具は壊れていたはずだが、新品同様に直されている。これはあの女神様に感謝する。
「手伝う。私も戦う!」
スティーヴィーはレイピアを手に立ち上がる。転移して最初の戦闘が始まった。
このスティーヴィーが転移するのは、私の別の小説の中から転移してきました。もう少し早く転移させたかったのですが、いつも通り話の進行が遅く、スティーヴィーが死んでから2ヶ月ほどかかってしまいました。
話は変わりますが、モァのような子がいると、スティーヴィーのコミ障をなんとかしようとするわけで、だんだんと話せるようになるわけです。スーフィリアが口数が少ないのはコミ障でなく、自分はメイドのつもりでいるので、口を挟むのを控えているためです。




