ノンの視点(3)
領都に連れて行かれたマモルが帰ってきて、それから何かバタバタしている。
領都から偉そうな人が2人と下っ端の人が10人ほど来て、あっちに行ったり、何か調べたりしている。ジンとバゥが難しそうな顔をして何か相談している。
領都のお偉いさんたちがいなくなって、マモルも突然いなくなった。
そして、その夜、ジンは村のみんなを集めて、この村を捨て、隣の国に移住しようと提案してきた。突然の話にみんな、非難轟々で、ジンの話を聞くどころじゃなかった。だって無理もないよ、どうしてこの村を捨てるのか分からないんだから。
それからジンとバゥの説明が始まったけど、ちょっと信じられない。あのマモルが見つけてきた胡椒やチョウジの実を辺境伯領のものにするために、この村に農業専門の人が移住してきて、アタシたちの居場所がなくなって、追い出されるってこと?え、この村に住んでる人は、犯罪者の家族や使用人や子孫だから、居ても邪魔なだけだって?
それなら殺されちゃうって言われても信用できる?あれ、意外と、ウンウンと同意している人がいる。あぁ、罪をかぶせられて移ってきた人たちだ。え、ジンの言ってたことが分かるの?そう思うの?ありそうだと思うの?
ジンの話を信用する人、しない人ははっきり別れた。信用する人は30人もいなかったけど、もうここには居たくない、新しい所に行きたいという強い気持ちが感じられた。
残る人がいるから、そのためにジンもこの村に残るという。隣の国に行く人にはバゥが付いて行くという。そして驚いたことに、マモルは次の宿場に行っていて待っているんだって!
アンはこの村に残るんだって決めた、そして婆さまも。アンに、マモルの所にいかないの?って聞いたら、アタシはこの村しか知らないから他で生きていけない、それにマモルのことをそんなに好きじゃないし、って言ってた。はぁ、あんな声を出さされて、あんなに気持ちのいい思いをしても好きじゃないのか。女心は複雑だね。
でも、獣だらけの草原をどうやって、女、子どもを連れてどうやって渡るのか不思議に思ったらジンから小さい袋を渡された。ジンが言うには、この袋に魔力を注ぐと獣が寄ってこなくなるんだって。この国にはないけど、隣の国は魔力を持つ者が残っているから、こういう道具があるんだって。それで、魔力を持ってるアタシとミンで、この袋に魔力を流して、獣が近寄らないようにして草原を渡るんだって。
それって無理じゃない?アタシは自信ないよ。魔力なんて、つい最近覚えたばかりなのに、そんな初めてなのに、やってみろって、無理だって。
でも、無理でもやるしかないって、みんなに言われてやることになった。
1日だけ練習する時間があった。けど、やっぱり無理だって。袋に魔力を注ぐと、パァァァァと光って、辺り一面違った空気になったけど、そんなの維持できないもん。他の人に聞いたら、村の柵の外まで光が届いていたって。近くにいたウサギなんかが、驚いて逃げて行ったって言われたもん。
とにかく、あんまり光を広げないで安定しろと言われて、強くしたり弱くしたりの繰り返し。アタシが疲れたら、ミンにもやらせるけど、ミンの方が上手かも?アタシのやるのを見てて覚えた?この子、天才じゃん!と思ったら、長続きしないし。やっぱ、母のアタシが頑張るしかないんだって。
魔力使うからって、たくさん食べさせてもらって、よく眠って出発の朝!
荷車に胡椒とチョウジの実の詰まった袋を載せ、その横にアタシとミンを座らせた。バゥの言うには、少しでも疲れないようにして、魔力を残しておきたいんだって。みんなには、アタシの魔力をなるべく節約するために、あんまり広い範囲に使わないようにするって、バゥが説明する。すぐ側まで獣がきたりするけど、ゼッタイに襲ってこないから、むやみに怖がったり叫んだりしないようにしてくれと言ってる。あと、なるべく早く進むと、それだけ早く向こうに着ける、って言うけど、それは当たり前でしょ?
とにかく、不安だらけだけど出発した。村の前に残るみんなが集まって、見送りしてくれた。残る方も行く方も命がけだね。
出発してから、バゥが言ったんだけど、バゥが領都で衛兵をしてたとき、同じようなことを経験したんだって。
この村と同じような辺境伯領の端っこの村の近くで岩塩が見つかって、そこを開発することになったんだって。それで、その村は領都から派遣された人が住んで、岩塩を掘る基地になったんだって。元々住んでいた人たちは岩塩の採掘をさせられて、後から領都から罪人も多く送り込まれて、最初はどんどん人が死んだって。
ジンとバゥは衛兵だったけど、領兵だけじゃ働く人を監視する人間が足りなくて、連れて行かれて、その村の人たちや罪人たちが逃げないように監視したんだって。もう、働いている人たちは虫ケラのような扱いで、働いている人が死んでも当たり前、みたいな扱いで、近くに穴を掘って埋めて終わりだったんだって。しばらくして、ジンやバゥの代わりの人が来て、領都に戻ったけど、2度とあんな仕事するのがイヤで、この村に来たって言ってた。
そしたら、その話を知ってる人がいて、きっとこの村も同じことになるよ、と言った。それを考えると、他に行って苦労するのは苦労のうちに入らない、と言ったから驚いたよ。
歩いていて、いよいよ村が見えなくなると獣の吠える声が遠くて聞こえるようになってきた。バゥが「いよいよだな」と言ったけど、そういうこと言うと、必ず来るんだから止めてよね!たしか、マモルはフラグとか言ってたなぁ?
何か近づいてくるのが、分かるもん。ずっと向こうに、草の中からぴょこん、と頭が見えた。やっぱり見つかったんだよね、はぁ。だんだん近づいてきてる。どうする?と思ってバゥを見ると、バゥはイヤイヤと首を振る。近づくだけ近づかせて使うのか?でも、女の人は結構、びびってて「早くして!」と言っているんだけど?
近くまでやってきて、みんなかなり怖がりだしたから、バゥを見ると顎で「ヤレ!」って感じで指示を出すけど、アタシはアンタの女じゃないんだし、ちゃんと口で言ってよね!
袋に魔力を流す。おっっっと、入れすぎた!?
袋から光がビン!と出て、辺り一面に広がる。近くにいた、狼だか野犬は「キャン!!」と言って、弾かれたようにして離れて行く。すっごい効果だわ、使ったアタシが一番驚いたけど、みんなは安心したみたい。
でも、アタシの中ではかなりビクビクしてる。だって、魔力がどこまで続くか分かんないんだもの。今みたいなことしてると、すぐに魔力はなくなっちゃいそうだよ?しばらくして、また獣たちが、今度はそーーーと寄ってくる。試しにそっと魔力を入れて見ると、狼はちょっと離れたところまで近寄ってきて、それ以上近寄ってこない。とにかくこのまま、マモルたちのいる所に急ごうよ!
バゥにも気持ちが伝わったらしく、気持ち荷車の進む早さが早くなった。道はまっすぐ続いているけど、なかなか先は見えない。荷車の周りを歩いている人たちはアタシをどう見ているんだろ?袋を握って、座っているだけの、サボりしている母娘?なんか視線が痛いなぁ。
「お母さん、貸して」
突然、ミンが声を上げて、袋をアタシの手からもぎ取った。え、ミンでは無理だよ、続かないって。と思う間もなく、ミンが魔力を注入した、それもすっごい量!!
ずっっっどどどどーーーーーん!!って感じで、人間は分からないけど、袋から何か円状に広がって行った。近くに居た狼は泡を吹いてひっくり返ったし、ずっと遠くにいた獣も、逃げてくのが見えるよ。
「すごいでしょ?」
うん、すごいけど、ミンは一発屋だから続かないでしょ?だから返しなさい。お母さんの、もやがかかりつつあった、頭の中がキラッと晴れたし。バゥも笑ってるし。
「おい、向こうに煙が見えるぞ!」
誰か言った。ホントだ、小さい煙だけど、見える。あそこだ、あそこに行けば大丈夫だ。でも、ミンの衝撃から覚めた獣たちが大挙してやってきたよ涙。アタシの魔力もなくなってきた気がする。あと少し、少しなんだけど、頑張れアタシ。
だんだん魔力がなくなってきたのが分かる。
煙見えたけど、全然近くならないよ。頑張れアタシ!!
でも、そんなこと言うとみんな心配するから、アタシは顔色変えず、いつも通りの顔をしているけど、心の中はもう、心細くて、誰かにすがりついて泣きたいくらい。頑張れ!頑張れ!!
煙がなかなか、ホントに大きくならない。もうダメかも?みんなゴメンね、と心の中で呟いて、 涙がにじんで来たとき
「誰か来るぞ!!」
おっきい声がして、前を見ると、おっっっと、誰かすっごい勢いで走ってくる。あれって人?狼より早くない?みるみるうちに近づいて、狼たちをばったばったと斬っちゃう!アタシは狼があんなに簡単に斬れるなんて知らなかったよ、バゥもやってくれれば良かったのに?と思って、バゥを見たら
「あれをできるのはマモルだけだ。オレに期待しないでくれ」
って言うし。まったく、使えない男だぜ。
とにかく良かった、なんとか助かったよ、うぅぅぅ。
マモルに感謝、救いの女神、おっと違う、男神?だわ。マモルに一生付いて行くことを誓います!!よろしくね、えへへ。調子のいい女でゴメンね!




