種痘が終わり
結果だけ言うと、接種はあっという間に終わった。インフルエンザ注射より痛くなかった。そもそも注射じゃなかったし。すごく身構えていたオレとしては拍子抜けした。ミワさんも続いて接種した。
しかし、大公様始め、見学していた閣僚、側近の皆さまは接種が終わった途端、「ほぉーーー」と歓声を上げられた。そして接種後、オレがピンピンしているのを見て、大公様始めその場にいた方々が接種を受け始めた。
「天然痘はそんなに患者がいるんですか?見たことないんですけど」
と不用意な言葉を発したら、ブラウン夫妻、ミワさんだけでなく大公様、閣僚、側近の場の全員から睨まれた。それもかなりキツい目線で。
説明によると、天然痘は子どもの罹患が高いそうだが、死亡率が高く、治ったとしても後遺症が残ることが多いそうだ。膿んだ痕が残って、それを見られるのが嫌で一生外出しなかったり、布で隠して過ごす人も多いという。外に出ることがないから、オレが目撃したこともないってこと。
この場にいた人の中にも、天然痘に感染した家族を持つ人も多く、亡くなるのも珍しくないと教えられた。それを聞かされると、さすがに皆さんに謝罪した。知らないから良い、なんてことはないし。
2,3日様子見ましょう、とブラウンさんに言われて、明日も公宮に来ることになった。今日よりははるかに気が楽である。
何も心配要らないだろう、と思っていたらその晩熱を出したオレ。今になって思い出したけど、オレってインフルエンザの接種したら腕がパンパンに腫れたんだった。どうも都合の悪いことは忘れているみたい。
翌々日、公宮に出仕するとすぐに大公様に呼ばれた。
「例の転移者が移動するという報告があった。まだマモルの準備は整っていないかも知れないが、わが軍と一緒に出発して欲しい。最悪でも問題の転移者だけを殺してくれ」
と命令される。殺すことを何度も繰り返し言われるということは、オレはそいつを逃がしてしまうかも知れないと思われているんだろう。そういう点は信用がないということを改めて知らされた。それにもっと早く出発して欲しかったのかなー?という気が今になってしてきた。
そしてやっと公都を出発した。旧タチバナ村は住んでたときは良かったけど、滅ぼされてからは戦って戦っての繰り返しだ。
公都を出発してから、割と早く進む。軍と言うヤツはノロノロと進むのが一般的と思っていたが、この軍は騎馬が中心なので早いのだが、日が暮れる頃に到着した宿場には前触れの軍がいた。要するに、先発隊が先行しててオレたちを待っていたということでした。待ちきれなかったということ?それとも本軍を早く進めるために。先に行って準備してたってことか?ということは、この先々、先発隊がオレたちを待っていらっしゃるということですか。ユィモァを連れてきて、誰か顔を知ってる騎士もいるんじゃないかと心配したけど、誰も何も言わない。お子ちゃまから娘になろうと脱皮しつつあるから、顔つきも大人っぽくなってきたし、キレイになってきてまぁ!
騎士たちが集まって何か話しているから、ユィモァの素性について話をしているのかと思って耳を澄ますと、スーフィリアを含めて3人の誰が好みか?なーんて俗なことを言ってやがる。残念だがオマエらなんかにウチの娘たちはやらないぞ!
その後2日何事もなく進み、明後日はタチバナ村に着くという村に着いた。この村からタチバナ村を通って、タチバナ港に行くという交易はまだまだ活発でないところに、タチバナ村に降って湧いたような悪人どもが発生して暴れているから、この村も旅行者が泊まらなくなってしまっている。オレたちは久しぶりの泊まり客、それも上客ってことだった。
「明後日は戦場だ。今日はゆっくり休めよ」
誰かが部下に言ってる。オレもその通りだと思ったし、明日から禁欲生活に入るだろう。1日で片が付けば良いけど、クロダが逃げてしまったら、後を追って追跡しないといけない。そうなるとオレが1人で追うということも考えられる。
夜中、ミワさんとするべきことをして、オレとミワさんは2人ともパンツ1丁になってベッドの中で抱き合っている。小さいミワさんを抱いていると、この人がホントに娼館で働いていたのかなーー?と思うさ。コトを始めるときは恥ずかしそうにして、それも演技でなく本心でやってるようだし。
などと考えているときは良かった。
ドン!!
突然、地響きと共に大きな音が鳴り響いた。これは地震か?と思ってミワさんの顔を見ると、ミワさんも同じことを思ったようで、オレを見ている。村の中で人が騒ぎ始める。
ドン!!とドアが開けられ、
「マモル!あ、ごめん、マモル様!今の何?」
こんな勢いよくノックもしないで入ってくるのってモァしかいないって。モァの後ろにユィとスーフィリアが部屋の中を覗いている。オレはパンツのみで上半身は裸でミワさんも同じように上は着ておらず、毛布で胸を隠している。
「何と聞かれてもオレにはわからん」
「外、外で何かあったんだよね!」
窓から身を乗り出すモァ。その両側をユィとスーフィリアが占拠したので、オレが外を見る隙間がない。まさかモァの上から重なって身を乗り出す訳にはいかないって。
「何にも見えないよ?灯り付けよっか?」
と言ってモァがパッと灯りを点した瞬間、3人の足を引っ張って部屋の中に入れた。パジャマがめくれて背中が見えるやら、紐パンツが見えるやら眼福である。
「な、なにすんのよ!!」
「え、えっち!」
「......」
3人3様の抗議の声を上げた時、ゴォ!という音がした。そして窓の辺りが削り取られる。横に高さ1mくらいの幅で削られた。部屋が外と直接つながった。
「部屋から出るぞ!」次のが来るかも知れん!」
オレのかけ声で4人が一斉にドアに向かって走る。ミワさん、毛布を身体に巻いたまま。パンツ履いてるからいいじゃん、ということはないらしい。オレがしんがりでドアから廊下に出ようとした時、もう1度、ゴォーー!!とさらに大きい音がした。そして真後ろがごっそりなくなった。屋根の木材がパラパラ落ちてくる。何じゃコレは?これは魔法だってのは分かるが、こんなむちゃくちゃな威力って人のやることじゃないだろう?一発なら分かるが、こんな連発できるってのは、魔王とか勇者とか?え?勇者?タチバナ村跡に現れたクロダ?神の祝福受けたっとか言うの?
村の一角が明るくなってきた。木の燃える臭いがしてきた。火を付けたか、火が付いたのか、とにかく火事が起きたってこと?まずい、マズいよ!
「マモルさん、早く逃げましょう!」
ミワさんが胸に毛布を当てたままオレを促す。脇に服を抱えている。そして玄関の方に走っていく。夜目にもミワさんの白い背中が見える。パンツもチラチラ見えて、なんともまぁ!




