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福音派の拠点を訪問する

 ポツン村を出発し、ギーブに到着した。


 大公様に到着の挨拶をして、応援をお願いすると、軍監を付けるということで、出発日を5日後にするように命令された。オレの方としては特に異議はないので、そのまま指定された宿舎に入った。


 その日の夕食を食べていると、福音派の使いがやってきた。明日行くつもりだったが、知らせなくてもやって来る。

「タチバナ様、ご無沙汰しております。お元気なようでなによりです。つきましては、これは長老からの書状でございます。読んでいただきお返事をお聞かせいただけないでしょうか?」

 と言うので読むと、要は明日の昼に来ていただけないだろうか?ということだったので、承諾の意を伝えると、すぐに帰って行った。オレたちがギーブに着いたとき、ヨハネが連絡していた。


 ミワさんにリヨンのことを伝える。会うのは初めてだ。オレたちのような転移者でなく転生した日本人がいることを話すと、驚いていた。


「でも、私たちのように転移する者がいれば転生される方がいらっしゃっても不思議ではありませんね。でもよくぞ今まで頑張ってこられましたね」

 とミワさんは言うけど、たしかにリヨンも頑張ってきたけど、ミワさんだって頑張ってきたんだから、そこはおんなじだって。転移しても転生しても楽した人なんていないだろう。それに、そもそもこの世界に生まれて来た人で、楽して生きている人なんて1人もいないと思うぞ。それくらい過酷な世界なんだって。ミワさん、自分の生きてきたことをもっと評価して良いと思うよ。


 翌日、ヨハネに連れられ、福音派の拠点を訪れた。場所は以前のままだが、外観は見違えた。町の中が復興しているのに、福音派の拠点がみすぼらしいままだったらどうしよう?と思ったけど、だいぶ良くなってる。拠点を囲んでいた塀も新しくなっている。街中に板塀っていうのは違和感大なんだけど、織田様も大公様も認めてるんだし、オレがどうこういうのもおかしいね。


 門の上の門番がヨハネを見つけ、その後にいるオレを見て、

「タチバナ様!ようこそいらっしゃいました!お待ちしておりました!!おい、長老にお伝えしろ!」

 もう1人の門番が奥に向かって駆け出した。訪問することは知っているはずなのに、門の中でバタバタと人が動き出した。


 ここに来るのは考えてみると、黒死病のさなか、拠点に残ったリヨンを引き取りに来て以来だろう。大公様について帝国に行った帰りにも、拠点はまだまだ復興途中ということで宿舎で長老と会ったんだった。


 オレたちが中に進むにつれて、人が集まり出す。こうやってみると人も増えている。帝国の福音派の人たちも、移住してきているらしい。元々ここに住んでいた福音派の人間だけではこんなにいないだろうし。復興してきていると言っても、家はまだまだボロ家に毛が生えた程度である。ポツン村の福音派の者たちが、自分たちの収入の中からここに資金を送っているということを聞いている。ポツン村だって、まだ復興途中なので、村から村人に渡している賃金は大した額ではない。その中から爪の先に火を灯すようにして貯めた金を送金しているんだよな。日本にいるとき、営業先の工場で働いていた外国人実習生を思い出す。ポツン村の福音派の人間もきっと同じなんだろう。


 奥の大きいあばら屋の前に長老がいて、その前に幹部が並んでいた。レイカは......後に隠れていた。隠れているつもりはないのだろうけど、背が低いので見えないだけだろう。人垣の間から2つの視線が光った。レーザービームのような視線がオレから順に舐めるように移り、最後のミワさんで止まった。顔を見て、黒髪を見て止まっている。衝撃を受けているのがオレに伝わっている。しかし、何も言って来ないぞ。黙ったままだけど、黒い渦が取り巻いているように見える。


 福音派の方たちはオレたちを歓迎してくれて、そのまま昼ごはんを頂くことになった。たぶん、福音派のみなさんの精一杯のごちそうが並ぶ。オレの向かいには長老が座っておられ、リヨンは......なぜかミワさんの向かいに座っている。まったくの無表情だ。たまにオレに向ける目がガラス玉のようだ。


「さあ、キーエフ様に感謝のお祈りをしましょう」

 長老の声に全員が頭を下げる。今やオレもこれに慣れた。ただオレは福音派ではないので頭を下げるだけで、お祈りには加わらない。


 お祈りが終わると、食事が始まる。アルコールの類いはオレたちがポツン村から持ち込んだビールが出された。ビールと言っても、アルコール分はごく薄い。大麦麦芽をアルコール発酵させただけ、という感じ、それでも久しぶりに口にするアルコール飲料は大歓迎された。アルコールはまだまだ高価なので買えないからだと思う。葡萄酒にしても供給の絶対量が足りていないだろう。

 そもそも水でさえ、十分とは言いがたい。生水を飲むコトはできないから、水の代わりに紅茶や葡萄酒を飲むのだが、黒死病によってギーブ周辺の農業生産の労働力が壊滅的になり、やっと復興し始めているところだ。そのため葡萄酒は遠くから運んで来ているため、金持ちの飲み物で、貧乏人は茶色い色の付いた紅茶を飲んでいる。紅茶と言っても、湯冷ましの水に近い。湯冷ましもちゃんと沸騰させているわけではないだろう。水を浄化することができる人がいれば、湯冷ましでなくても飲めるが、そんな人は多くない。そのような能力を持つ人は金持ちの家に雇われてしまっている。とにかくギーブは消費都市であるので、食べ物飲み物は外から運んで来ざる得ず、それも遠方からになっているので、とにかく高コストになり高価となっているのだ。


 とにかく福音派の人たちは久しぶりの豪勢な食事で喜んでおられた。福音派の方たちは日頃から質素な暮らしを心がけ、その中から少しでも他に住む同朋に送ろうとしている。はっきに聞いたわけではないが、このギーブの福音派の人たちも帝国から同朋を呼ぶために、資金を送っているのだというし。


 オレたちが来たから、客人をもてなすということで精一杯のごちそうを出してもらっている。だからオレも食材を持ち込んだ甲斐があったというものだ。ミワさんは......リヨンと話を、していない。リヨンは下を向いて周りの談笑に加わらず黙々と食事している。リヨンの周りに黒いオーラが渦巻いているような気がする。

 リヨンの左右の女の人とミワさんは会話が弾んでいる。ミワさんが異世界転移してオレと同じ世界から来ているということは、福音派の人たちにも知れているので、その話になっているらしい。ただし、R〇yは出していない。アレを出すとくちゃくちゃにされてしまうだろうからな。


 リヨンが顔を上げ、オレをキッと睨んだ。口だけは動かして、飲み込むとまた口に入れる。ただ何も言わずオレを睨む。リヨンの気持ちは痛いほど伝わってきているけど、オレとしてはリヨンの希望を叶えたくないので、何も言ってこないのならオレからは何も言わない。

 別にそれでいいじゃん。冷たいようだけど、リヨンはここで生まれ育てられたんだし、ここの人たちがリヨンを送り出してくるなら受け入れるけど、オレの方からアクション起こすつもりなんてサラサラないから。

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