最後の戦い
舞台に3人が飛び出して来た。1人が何か呟いている。頭の上が光ったので、見上げると光りの球が見え。飛んでくる。コレは例の強酸か!?
バリアをもう1度最大に強くする。ドン!という衝撃とともに、バリアがガリガリと削られてくるのが分かる。あの3人はここに宰相がいることを知っているのだろう。それなのに攻撃してきて大丈夫なのか?
強酸が辺り一面に広がり床に落ち、ブツブツと泡を吹いて辺り構わず接触した物質を溶かしていく。
次の攻撃が来る。今度は炎か?おかしい、何かおかしい。宰相を見ると護衛の1人と密着して護衛に腕を組まれている。あっと、護衛がバリアを張っているのか!密着しているから2人だけのバリアってことか?どんな攻撃でも2人だけ助かろう、という計算か!
「ヨハネ、ミン!最大限のバリアを張ってくれ!オレはあの3人を倒す!」
と言ってバリアを消す。そしてポケットから魔力玉を出して2人の足下に置いた。
「えっ?どういうこと?何するの?」
ミンは戸惑っているけど、オレが前に出たので仕方なくバリアを張る。それに続いてヨハネもバリアを張り、魔力玉から魔力を吸い上げている。
ずっと使わないで来たが、ここで神剣をポケットから取り出した。なんか使うの久しぶりのような気がする、ご機嫌よろしいだろうか?と余計なことを考えるが、とにかく舞台に向かって走り出す。
「来た!」
「バカか?無防備だぞ?」
「やっちまえぇ!!」
好き勝手なことを言いながら、たぶん豪炎使いの手が光り、オレに向かって炎が吹きだした。炎圧を感じるが魔力が足りていないのか、さっきほどの威力はないように感じる。
剣を盾代わりに炎に向けると、みるみるうちに炎が剣に吸い込まれて行った。舞台の3人は驚いたっていうもんじゃないくらいに驚いている。特に豪炎使いは顎が外れるんじゃないかってくらい口を開けている。
その間にもドンドン走って間を詰める。1人が慌てて、オレに手を向け呪文を唱えるが、レーザーポインターくらいの光がオレに当たりそうになったくらいで、余裕で回避する。もう2人は魔力が切れただろう。強酸使いは床に魔力玉を置いて魔力を吸い上げていた。上に上げた手からゆらゆらと煙が上がっている。これが凝集して強酸になるのか?それなら、その煙を両断した。
すると剣に煙が引き寄せられ、吸い込まれる。オレは3人の目の前に立った。3人とも腰を抜かしたような格好で、後に逃げようとしている。
「動くな!動くと命はないぞ!」
豪炎使いの鼻先にシュッと剣を突き付けた。それだけで豪炎使いは、ぺたりと床に這って、
「すみません!逃げませんから許してください!殺さないでください!!」
と嘆願してきた。こいつ、さっきからどれだけの人を殺したんだよ?と思うが、コイツにしてみればそんなの戦闘では当たり前のことだと思っているんだろう。
そいつの頭に触って
『Paralysis』
と唱えると、瞬時にコテンと倒れた。
「死んだの!?」
強酸使いが聞いて来た。コイツも同じ手を使ってやる。が、オレが手を伸ばすと、イヤイヤをしながら、なんとか手に触れないように逃げる。でもコイツも魔力以外は取り柄がないようで、身体もろくに動かず、すぐに捕まる。そして、
『Paralysis』
と唱えると、そのまま倒れ、頭が床にぶつかって、ゴテン!と大きい音がした。きっとデカいたんこぶができただろうな?ゴメン、後で治してやるから。
そして最後のレールガン?使いはもう、先の2人のを見てあきらめの境地になっているようだ。正座して頭を下げている。近づいたタイミングで何かしてこないよな?と一応、警戒して、背中を剣の腹でバン!!と叩くと、相当痛かったようで、反っくり返った笑。それでオレと顔を合わせたところを手を掴んで
『Paralysis』
と掛け、静かにさせた。
振り返ると宰相は驚いた顔と悔しそうな顔が同居するという不思議な表情をしている。それでもバリアを張っているから安全だって思っているんだろう。まだ薄ら笑いするだけの余裕はあるようだ。
舞台から降り、大公様たちのところに歩いて行く。
「ヨハネ、ミン、解除していいぞ」
「うん」「了解しました」
バリアがなくなり、残っているのは宰相と護衛を包むバリアだけ。宰相が、
「その剣で脅しても無駄だぞ。この防御は破れんぞ。それにもうすぐ近衛兵が到着する。オマエの命運も後しばらくだからな!」
ここに来てまだそれを言う、と思うんだが。それならアンタのバリアを斬ってやろうじゃないか!と思い、宰相の護衛の間に剣を入れようとしたとき、宰相たちの後でギレイ様が指でバッテンを作っていた。分かってますって、宰相を殺すなってことでしょう。了解の合図にウインクしたら、気持ち悪がられてしまった。
とにかく、宰相と護衛の間に剣を差し込む。剣の先がバリアに触れると剣先が白く光った。さらに奥に差し込むと、バリアが剣に吸い込まれていった。護衛にはそれが分かったのだろう、大慌てでもう1度バリア張ろうとしたが、魔力が剣に吸い込まれて行く。結局、護衛も魔力切れで座り込んでしまった。
「さあ、いよいよ閣下お一人となりましたよ」
大公様は余裕の笑みで宰相に聞いた。宰相は汗をダラダラとかき始めている。滝のような汗という表現がピッタリである。
「わ、私にどうせよ、と言うのだ?」
見てわかるくらい動揺している宰相。
「先ほどお伝えした通りですよ、私の願いは」
大公様が言うと、宰相はイワンを指さし、
「コイツを皇帝にしろというのか!こ、こんなヤツを!こんな、ろくでもないヤツを皇帝にしろというのかぁ!!」
えらい言われようなだ、イワン。ちょっとイワンが可哀想な気になってしまった。オマエは宰相に何をしたんだよ?
「しかし、他に選択肢はありませんよ。今のこの状況では。なんなら、あなたを眠らせたまま大公国に連れて行きましょうか?そうすれば喜ぶ者もたくさんいるのではないですか、帝国には?そして第2王子を擁立して皇帝に即けてくれる実力者を捜せば良いだけのことです」
「うぬぬぬ......」
大公様がオレに向き、
「マモル、やれ」
と言われる。それなら、と1歩前に出ると、宰相はオレに手を向け
「待て!」
と言う。大公様が、
「何を待てと言われるのですか?」
にこやかに聞かれた。本当に宰相をねぶるのが嬉しそうに。
「何を、と言うのは......何を......分かった。コイツを皇帝にしよう。約束しよう」
声を絞り出すように宰相は言った。
「では、約束を守って頂くために、約束を破ると死んでしまう呪文を掛けますよ。よろしいですね?」
と大公様が言われるのだが、誰がそんな呪文を知っているんだ?ヨハネとミンの顔を見ても、首を振っているし、オレも知らない。もしかして大公様が知っているんだろうか?
オレたちの心配をよそに大公様はシラッと、
「マモル、死の束縛の呪文を掛けよ」
オレの顔を向いて重々しく言われた。もうこれは、ハッタリかませということなのか?適当に掛けるしかないだろう。何か、有名でなく無害な呪文を考える。あった!人には意味のないヤツ。もしかしたら何かあるかも知れない。だって人には使ったことないもの。
『Grow』
宰相の身体に光が吸い込まれた。宰相は何が起きたんだ?という顔をしているが、それを気にせず大公様が、
「これで契約されました。あなたが私との誓約を破ると死が訪れますから」
非常にもっともらしいことをおっしゃった。宰相もその護衛も真に受けて聞いている。護衛は小声で「さきほど即死の呪文を目の前で見ましたから......」と言ってる。それが聞こえたので、
「それは秘密にしてください」
と目力を込めて押す。護衛は消えるような声で「はい......」と言った。う~~む、『Grow』で髪の毛が成長するとか、副作用があったらどうしよう?身長が伸びたとか?
宰相の顔は強ばっていて、表情が消えている。何がそんなにショックあったの?と思うけど、知らない人から見ると、一連のこと全部がショックだったのだとは思う。ごく少数だが後ろに残っている招待客の面々は、みな座り込んで震えているし。
「ぼ、ぼくは、ど、どうなる、んだろう?誰か、教えて、くれないか?」
皇太子が途切れ途切れに言った。そうだ、彼のことをどうするのか決まってなかったよ。と言ってもオレが決められるわけでないので、大公様と宰相の話合いになるのだが。
「私が連れて大公国で保護しましょう。姓を変えて暮らしていただきます。政治には関わらず、一生静かに過ごしてもらえば良いでしょう」
大公様の言葉に皇太子は、
「あ、ありがとう、ご、ございます」
大公様を見て頭を下げた。皇太子はコミ障なだけで、地頭は良いと思うし基礎知識と計算はできそうだから、地方の役人とかが似合いそうだ。博物館や美術館があれば、学芸員の補助くらいが向いてそうな気もする。大公様も宝物庫のリスト作成を頼めば、懇切丁寧な報告書を作りそうな?
宰相が突然、
「さて、イワン様。皇帝になっていただくには、色々と手続きが必要です。大臣たちも多くが死んだようですので、大臣を選任するところから始めないといけません。あなたはしばらく帝都を離れていたので、帝都の政情を知っていただくことも必要です。さぁ、こちらにおいでください」
と言い、イワンの前に跪き頭を下げた。慌てて宰相に習い、護衛も跪き頭を下げる。
「私の忠誠をあなたに捧げます。この忠誠は、あなたが亡くなるまで、そして私が生を全うするまで続くものです。何があろうと、この忠誠は変わるものではありません」
宰相がイワンに対して忠誠の誓いを述べた。この忠誠は宰相の心から出たものと感じた。
その後、宰相の言った通り近衛兵が入ってきたが、宰相の態度は変わることがなく、近衛兵に対してテキパキと指示を出している。最後にイワンを連れ、去ろうとしたとき大公様が、
「宰相閣下、先ほどマモルが掛けた呪文は2年で切れてしまうので、2年ごとに更新させるために、マモルを帝都に寄越しますから」
と笑いながら言うと、宰相は片手を挙げ、少し口の端を上げて笑った。どうも信用されていない気がする。
その後宿舎に戻って、解散となり、オレとミンはベッドに入り泥のように眠った。翌朝、起きたときには朝立ちという生理現象があり、先に目を覚ましていたミンは、顔を赤めながら沈めてくれた。そして、いつもの変わりない宿舎生活が始まった。オレは変わりないが、大公様とギレイ様は早くから出かけているという。結局、帝都を離れるまで大公様はずっと帝都政府関係者と会議を持たれていたようだ。こういうとき、お偉いさんは本当に大変だと思う。
予定より遅れたが、帝都を離れ、大公国に向かう。帰りの道中は何事もなく平安で済み、ポツン村に無事帰ることができた。
その後、オレは40才まで生き、神様に言われたとおり天寿?を全うした。死ぬまでいろいろあったが、それはまた別の話だ。死ぬとき、3人の妻と子どもに見守られて、自分の波瀾万丈な生き様を思い返したが、満足して死ねることに感謝した。
もう転移したくない、これで十分だよ。
終わりです。




