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ヨハネと近衛兵

 ヨハネは剣を横にして戦闘の中に飛び込んで行く。あんななまくらな剣じゃ、防具に当たっただけで折れるか曲がるかするだろう。剣の持ち主にすれば、家宝だったのかも知れないが、実戦向きではないことは明らかだし。そもそも、そんなことを考える憲兵隊って、なんなんだよ!

 

 舞台を見ながら憲兵隊と近衛兵の戦いを見ている。舞台上もクールタイムに入ったのか、動きはない。何か後ろから出そうとしているように見える。


 弱いヤツばかり、防戦一方の憲兵隊の中にあってヨハネだけが、無双状態だ。防具の隙間に剣を滑り込ませて、致命傷に至らなくても、首や手の筋を斬り裂くくらいのダメージは与えている。憲兵隊はヨハネが強いのでだんだんと後ろに下がりつつあり、ヨハネが先頭で戦っている状態になっている。それなのに近衛兵の応援部隊が到着したのか、舞台の後ろから湧くように続いている。憲兵隊は......服装は立派だが、どいつもこいつも見栄えばかりで頼りないぞ。


 いくらヨハネが強いからって、数の暴力には負けてしまう。ポキン!ついに剣が折れてしまった。数人斬ったと思うが、血糊も付いて切れなくなっていた。打撲道具に化していたし。

 足下に落ちている剣を拾おうとしたとき近衛兵が、

「もらったぁぁーー!!」

 と叫び、大上段から振りかぶってヨハネを斬ろうとする。が、オレから見れば、いや昨日の模擬戦を見ていた者からするとそれは悪手だよ。

 剣を拾う動作を止め、相手の懐に飛び込んだヨハネは近衛兵の剣を持つ手を握り、そのまま背負い込んで前に投げる。相手は床に叩きつけられた衝撃で剣を放す。その剣を奪い、後ろから斬りかかった近衛兵の腹を薙ぐ。投げられた近衛兵がヨハネの脚を掴もうとしたとき、そいつの顔を蹴飛ばす。

 ドゥ!!

 重い音がして、そいつの顔が凹んだ。たぶん死んだな、そいつ。ヨハネの奪った剣は装飾が一切ないが刃の厚い、幅のある実用剣でちょっとやそっとのことでは折れないだろう。


 いくらヨハネが無双しているといっても、いつまでも続くもんじゃないから。誰か助けてやってくれぇ!


 心の叫びが届いたのか、後ろから加勢が入る。今度は憲兵隊と違う服だ。あれっ!?陸軍兵か!?

「憲兵隊の役立たずどもめぇ!前を開けろぉ!どけいぃぃ!」

 と大声で叫んできた。次々に陸軍兵が走って来て、近衛兵を1人、2人と斬り捨てた。背格好は普通で筋肉が盛り上がっているわけではないが、とにかく俊敏で短めの剣で斬っていく。ヨハネが後ずさりしつつあるところを一挙に盛り返し、前進する。

 どうも彼は有名人のようで、近衛兵たちが何か言っている。ついに、彼に立ち向かう近衛兵がいなくなり、彼が1歩前に出ると、近衛兵たちが1歩下がるという状況になった。後ろから「剣王が」とか「剣神が」とかコメントが出ているから、たぶん帝国で一番強い剣の使い手ということなんだろう。


 ヨハネはオレたちの所まで下がり、肩で息をしている。


 コレで勝てるか?と思った時、ホールにいた者はみんなそう思っただろう。しかし、舞台上で一瞬の光の点が生まれ、無双している彼の首に一直線の細い光の筋が届いた。その光の筋は彼の首を貫通し、そのまま消失した。

 見ていた者はみんな、息を呑み、彼がどうなるのか見つめる。彼は動きが止まり、少し間があってからスローモーションのように前に倒れた。光の筋の跡から血が噴き出すわけでなく、見た目は何もダメージを受けていないが、倒れて動かなくなった。

登場してきて、敵をなぎ倒して、光明を見せといて、あっという間に退場してしまうってのはどういうことなんだろう?そもそも陸軍というのはどんな組織なんだと思うが、それより役立たずの憲兵隊もなんなんだと思う。異国の人間であるオレからそう思われるっていうのは、どんなんだか。


 舞台の光の点を生み出した男は、放った後、倒れた。魔力が尽きたのか?さっきからどれだけ撃つんだと思っていたが、ついに限界が来たのか?残るは炎と強酸の使い手か?でも、あんなスゴいのは、そうそう撃てやしないだろう?さっき撃ってからずっと沈黙していることが、その証拠だろう。あと1撃があるかないか。


 いろいろ考えを巡らしているとき、舞台の後ろから男が引きずり出されてきた。すごく立派な格好をしている。しかし、2人の男に両脇を抱えられ、脚を引きずるようにして連れて来られている。首を大げさに左右に振っていて、何か喚いているように見えるが分からない。時折「イヤだぁー!」という声が聞こえるような気がするのだが?


「兄だ!あれは兄だ!」

 イワンが叫ぶ。

「ということは皇太子?」

 オレの問いにイワンが頷く。以前見た皇太子に比べて、違うような気がする。ちょっとイってるように見えるがどうだろう?でも言われて見ればそうかも知れない。大公様も同じことを感じたようで、

「前に会った皇太子とは同一人物には見えないが?」

 と言われるとイワンは、

「あれはダメなときの兄です」

 と答える。ダメな時の兄?ということは良い時もある?オレの疑問が伝わったのだろう。イワンが語り出した。

「良い時の兄、自信満々の兄と、今のようにダメな時の兄がいるのです。子ども時はダメな兄がずっと続いていたのですが、ある日突然、良い時の兄が出てきまして、それからはほとんどが良いときの兄であって、たまにダメな兄が訪れるのです」

 話を聞いた限りでは、二重人格のように聞こえるがどうだろう?

「良い時の兄は強気で、人の意見をろくに聞かず、自分の意見が通るまでガンとして曲げないところがありまして、当たる物全部蹴散らす、ような兄です。しかし、ダメな時の兄は、内向的で人と目を合わせて話をすることができず、声が小さくてなかなか聞き取れないような声で話をするのですが、本当に優しくて私にも気を使ってくれて、私の好きな兄です。でも、人前に出ることが本当にイヤで、皇太子というのは向いていないと思っていました」

「それで今の皇太子はダメな時の兄だと?」

「はい。あのままでは壊れてしまいます。泣きそうです」

 

 無理矢理連れて来られたような皇太子は演台の所に、抱えられるように運ばれて来た。横に宰相が立って、何か話しているが、下を向いて聞いているように見えない。宰相が何が言ったら、顔をイヤイヤしている。うつむいて、終いには演台に突っ伏してしまった。

「大丈夫か?」

 大公様が言われたが、見ている者はみんな同じ気持ちだったろう?イワンの解説がなければ、皇太子はひどく具合が悪いのだろう、と思うかも知れない。


 そんなとき、突然皇太子が、

「キャハハハハーーーーーーーー!!」

 と大声を上げた。

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