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やっぱり攻撃はオレたちに向くように

 省庁の壁なんて感心している暇なんてないんだった。

 陸軍省の皆さん、陸相と第4王子を除いて、ほぼ全滅した。ホールの入り口の所に兵士たちはいるが、そこから前進して来ようとしない。第4王子は、もう魂が口から抜けているように見える。


 イワンはどういう顔してんの?と思って見ると、宰相をものすごい目つきで睨んでいる。目をいっぱいいっぱいに広げて、白目に血管が浮き出るくらいに力が入ってる。出血するんじゃないかって心配なるくらい。でもね、キミがどんなに睨んでも勝てるはずはないんだからね。目力で人は殺せない、きっと。


 誰か応援に来てくれないのか?もっと魔法の攻撃力持ってる人が来ないのか?と切に願う。

「マモル、なんとかならないのか?」

 ギレイ様が聞いてくるけど、オレの魔力って、当てにされてもなぁ、

「無理です。オレは基本、生活関連の延長線上にある呪文しか使えないんで」

 と答えたんだが、

「えーーーーー!?」

 大公様他4人と、なぜか後ろの見ず知らずの人からも声が上がった。後ろを見ると、言った人はおずおずと頭を下げる。あなたに期待されるほど、オレは有能じゃないんですよ。


「ギレイ様、オレの呪文ってほとんど、守備の方でしょう?攻撃する方はほとんど剣なんですって」

「そう言われればそうか。あの火の玉だって見栄えだけだもんなぁ......」

 そう言ったもんだからか、また目の前のバリアが輝いた。気のせいか、だんだんと威力が下がってきた気がするが、ここで調子に乗って前に出ると、思わぬ方向から何か撃たれる可能性があるでしょう。


「なんとかしろ!」

 ギレイ様が無理難題言ってくるけど、そう思うならギレイ様がなんとかしてくださいよ。でも、ま一つやってみますか。

 そう思って、いつもの石ころをポケットから出す。後ろから「魔力袋が!?」と驚きの声が上がりましたがな。

「マモル様、投げますか?」

 ずっと黙ったきりだったヨハネがやっと喋ったよ。

「よし、投げよう!まっすぐはダメだぞ。斜め上に向かって投げろ。高ければ高いほど加速度つくから」

「加速度とは?」

「細かいこと気にしなくていいから、とにかく投げろ。石はまだまだあるから」

「アタシも投げる!」

「ミンはいい。届かないと思う」

「私も!」

「イワンは......まあ投げて見ろ。ヨハネ、見本見せてやれ」

「はい」

 

 ヨハネが1個握り拳大の石ころを掴み、天井に向かって斜め上に投げる。ギューーーーンと上がっていく。天井まで届くかと思ったけど、小さく、ホントに小さくなって落ちて来た。そしてかなりのスピードで落ちてきて、壇上の宰相様の前に落ちる。


 ドン!!!!

 意外に衝撃があった。惜しくも宰相に当たらなかったが、初めて宰相が顔を歪め、慌てふためいている。後ろの護衛たちに何か喚いている。ヨハネが次々に石を投げている。ドン!ドン!ドン!と宰相の頭上に落ちる石がバリアに跳ね返されている。でも後ろの護衛たちに石が当たって、倒れる者も出始めた。投石で狙い済ましてなんてできる訳もないので、みんな思い思い投げている。そのうち、後ろの皆さんたちも投げ始めた。

 それなら、オレたちはバリアを張って守備に徹していれば良い。後ろの人たちの前に、ゴロゴロと石ころを転がして出すと、

「どれだけ出てくるんだ」

「こんなに入る魔力袋と言うのは!?」

「魔力袋に石を入れているのは、なんともったいない!」

「魔力袋の中に入れば安全じゃないのか?」

 思い思いの声が聞こえるけど、一切無視する。

 後ろの方々も投石に参加し始めると、数の暴力で護衛が倒れ出す。でも宰相が舞台中央から動かないので、自分たちが逃げるわけにもいかない。

「ミン!大公様たちを守って『Defend』使ってくれるか?」

「マモル様はどうするの?」

「オレも石を投げる」

「分かった!」

 バリアを消してミンに任せる。


 バリアって魔力で作っているから、魔力と魔力のぶつかり合いで強い方が勝つ。ということは強力な魔力の塊をぶつければ突破できるはずだ、と思う。それなら、オレが石に魔力をまとわせ、それをぶつければ一点集中に魔力がぶつかり、突破できるのじゃないかと思った。石を拾い、魔力の込めやすそうな石を選ぶ。そして魔力を込める。投げるタイミングを図る。


 今だ!狙い澄まして振りかぶり全力の1球を投げた。魔力を込めて渾身の1球だ。今まで、こっちから魔力の打撃が撃たれてなかった。ずっとこっちは守る一方だった。だから、こっちから攻撃が来ないって油断しているんじゃないかって思った。


 石はまっすぐ飛んで、途中何かに触れたようにクッ!と一瞬だが宙に止まり、すぐに元のスピードで宰相の横にいた男に当たった。

「やった!」

「当たった!」

「ざまぁみろ!」

 周りから一斉に声が上がった。石の当たった男が吹っ飛んでいく。後ろにいた者が男を抱えるが、一緒に後ろに転がった。宰相がこちらを睨み、後ろに怒鳴った。後ろから男が出てきて何か唱える。たぶんバリアを張ったのだろう。頭の上にヨハネやイワンの投げた石がドン!ドン!と落ちている。後ろにいる人たちも投げ始めた。力が足りなくて、壇に届かない石も多くある。壇上に落ちる石も多い。それでも脅威にはなっているのだろう。


 宰相が耐えかねてか、後ろに下がろうとしたときイワンが吠えた!

「ネッセル!!逃げるのか!私はここにいるぞ!ロストフ2世の息子、イワンはここにいるぞ!皇太子を出せ!こんな時に逃げてどうする!皇太子が逃げてどうするのだ!!」

 イワンの怒鳴り声に宰相がこっちを睨む。顔がものすごいことになっている。そのとき、オレたちの後ろから、

「そうだ!皇太子を出せ!!」

「こんな時に何をしてるんだ!」

「帝国を背負う者が逃げてどうするんだ!!」

 と叫びが上がる。怒号と言って良い。その通りだと思うが、後ろにいるのは帝国の人間じゃないんじゃないか?でも、それが口火となって陸相たちの後ろに立っている連中からも声が上がる。宰相が後ろに怒鳴り散らしている。さっきまでの冷静さをかなぐり捨てて、真っ赤な顔を歪めて何か言っている。

「皇太子を出せ!」

 イワンの叫びに応えるように、後ろから

「皇太子を出せ!!」

 という声が上がる。それが繰り返され、声が広がって行く。ゴダイ帝国語でのシュプレヒコールが大きな渦となってホールに響き渡る。


 そんなとき、舞台の袖から、近衛兵が飛び出し、こっちに向かって来た。魔力攻撃は通じないと思ったのだろう。物理攻撃にすることにしたのか。10人あまりだと思うが、今のバリアを張りながらのオレには手に余る。

「ヨハネ、行けるか?」

「はい!」

 ポケットから剣を出すのは、後で武器を持ち込んでいたじゃないか!と言われそうな気がしたので(この状況で何を今さらではあるが)、ヨハネは徒手空拳で立ち向かうことになる。


 と思ったが後ろから、武装した兵が前に飛び出し、近衛兵と戦い始めた。ずっとホールの入り口付近で待機していたんだよな、こいつら。いつ入ってくるのか、敵か味方かと思っていたけど、味方のようだ。

「憲兵隊か、やっと来たか。遅いぞ!内相は何をやっていたんだ!!」

 イワンが吐き捨てるように言った。憲兵隊?確かに陸軍とも近衛兵とも服装が違う。

「憲兵隊というのは、もしかして内相の配下か?」

 オレの問いにイワンは、腹立たしそうに、

「そうです。もっと早く加勢に入ると思っていたが、こんなに遅くなるとは、どういう意図なのか!?」

 イワンはかなり怒っている。しかし、憲兵隊、弱いぞ!数は近衛兵の倍はいるだろうに、押されて斬られまくっている。憲兵隊の剣が転がってきた。やたら華美な装飾がされていて、実用的でない剣だよ。刃の厚みが足りてないと思う。そもそも憲兵隊というのは実戦経験がないんじゃないのか?


「イワン、憲兵隊、弱いぞ?」

「そうですね。こんなに弱いとは。彼らは他の部署の罪過を取り締まるばかりで、戦うことを前提にしていないのかも知れません。強い者は陸軍か近衛部隊に行ったのでしょうか?」

 なんていうことを言うんだ!それって、某大学が昔、ケンカの強いヤツはヤの字の職業に就き、ケンカ弱いヤツは警官になるという都市伝説と同じでないのか?


 剣を拾ってヨハネに渡し、

「ヨハネ、行け!」

「承知!」

 ヨハネは飛び出して行った。




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[一言] ここでまさかの国◯舘大学伝説!?
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