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式が......

 世界が違えど、国が違えど、そして大なり小なり、〇〇式というものは、どこでも同じものだということを、今ここで学習している。

 舞台に誰か上がり、何か喋っている。良く分からないことを延々と。それが終わったかと思うと、また別の人が登壇し何かを喋る。もう聞く耳はなくなってしまったよ。シャンとした姿勢のまま椅子に座って眠りについてしまった。


 ドン!?という音で目が覚めた。眠っていたことがばれないように、薄目を開ける。ここでキョロキョロすると眠っていたことが分かるということは、日本にいた時の体験上知っている。落ち着いたフリをしておかないといけないのだ。ちょっと汗が出ている。

 前を見ると大公様、ギレイ様とも右を向いているのでオレも横を見ると、きらびやかな衣装を着た兵が式場に入って来ていた。でも彼らは手に剣を持っている。剣は木剣でも模造剣でもない、実際に使用できる剣だぞ。人を斬ったら死んじゃう剣だぞ、あれはルール違反でないのか?それとも帝国の人間は良いのか?


 周りの関係者たちは一斉に騒ぎ出した。オレたちの周りにはいろいろな国、地域の人がいて、いろいろな言語で騒いでいる。「あれはなんだ!?」とか「これは予定通りなのか?」とか周りに聞いている。この人たちも知らないということは、予定にないことなのだろうか?オレたちがいけずされて知らされていないということはないようだ。もしかして、大公様がオレに黙っていたということでも、たぶんないだろう。

 しかし皆さんは焦っているにも関わらず、前に座る大公様、ギレイ様は落ち着き払っている。

「始まったか」

 大公様が呟くとギレイ様が

「そのようですね」

 と返して会話は終わった。誰か解説してくれ!と心の中で叫ぶとイワンが、

「陸相か......」

 と小さく呟く。オマエには分かっているんか?なら、少しはオレに教えておいてくれよ、と思うが、あっと、オマエは帝国中枢にいたヤツだった。お偉いさんとか、顔と名前が一致するんだよな?だから見当ついっているってことか?それか、事前に情報渡されていたってことか?

 周りの喧噪をよそに、オレたち大公様以下6人は無言だが、緊張感が漂っている。その中でオレの手を握っているミンが可愛い。


 入って来た兵たちはすぐに駆け足となり舞台に向かう。それに合わせたように、舞台の袖から違う服を着た兵が出てきて、壇上の人の周りを囲む。

「あれは何だろう?」

 と聞くとはなしに呟くとイワンが、

「壇上には近衛兵、舞台に向かっているのは陸軍の兵士だ」

 と返事してくれた。これ幸いに

「どうして違うのが分かるんだ?」

 と聞くと、

「近衛兵と陸軍兵では服装が違う」

 ともっともなことを言うのだが、

「近衛兵と陸軍兵、同じ兵なのに違うのか?」

 一応確認するオレの問いに、イワンはフンっと鼻で笑って(そりゃまあ笑うよな)、

「近衛兵は皇宮省、陸軍兵は陸軍省の管轄だ。それくらい当たり前だ。壇上にいるのは宰相だから近衛兵が守っているんだろう。それに対して陸相ストレイビンが叛旗を翻したのだ」

 と解説してくれる。となるとクーデターということか?皇宮省ということは日本でいうなら宮内庁?宮内庁と予算がまるで違うんだろうな、ということはオレでも想像できる。あっと、ゴダイ帝国と日本を比べると大日本帝国の方が近いだろう。でも、大日本帝国の時の近衛兵がどこの役所だったか、日本史に疎いオレは知らない。きっとゴダイ皇帝の財布持ってるのも宮内省だろうし近衛兵の予算も握っているんだろう。


「陸相は反乱起こしたのか?」

 さらにイワンに聞いてみると、見事に解説してくれた。

「陸相は皇帝の4男のアレクセイを担いでいる。宰相を殺すか、宰相の後ろにいる皇太子を亡き者にしてしまえば、アレクセイが皇帝になり、すべては正当化される。ここで勝てばいいのだ、強者、勝者の正義だ」

「オマエは出ていかなくていいのか?」

「関係ない。このまま陸相が勝てば、黙って帰るだけだ」

 イワンは平然とした顔で言うが、オマエはこれを予想していたのか?もしかして、ここで突撃せよ、と大公様に言われるかと思ったのだが、違うようだ。それに陸相が勝ったとき、黙って帰れるような気がしないんだが?


 陸軍兵が舞台に押し寄せると、式の招待客が悲鳴を上げながら両側に逃げる。オレたちはだいぶ離れているのだが、余波を受け、席に座っている訳にいかず席を立ち、ホールの端に移動する。


 陸軍兵、近衛兵とも抜剣してぶつかる。すぐに血で血を洗うような剣戟が始まった。誰もどうして戦うのか、その正当性?を言わないけど、近衛兵陸軍兵ともに知っているんだろうな。外国のオレたちからみると、帝国の内紛に巻き込まれるなんて、いい迷惑なんだが。いや、悪い迷惑か?とにかくオレたち外野にケガ人や死人が出ないうちに止めて欲しい。


 オレのささやかな願いも空しく、近衛兵と陸軍兵に斬られて、血しぶきがあがり、倒れる者が出始めると、式の出席者のすぐ前で剣戟が繰り広げられるように拡大してきた。最初は、式のイベントか?と思った人もいたかも知れないが、今やそうでないことが誰にも分かってきたので、式の出席者はより端の方に避難し始める。女の人がいなくて良かったよ。いたら悲鳴が上がっていたと思う。

 お陰で周りも人が多くなりギュウギュウ詰めになってきた。会場から外に逃げ始めた者も出始めた。どんどん逃げ始めた。しかし、オレたちは......イワンがいるから、ずっとここにいるのね?でも帝国の記念すべきイベントで、国際的な招待客のいる真ん前で戦闘を始めていいんかい!?なんとかしてくれ!


 近衛兵と陸軍兵、どっちかというと陸軍兵の方が数が多いような気がする。誰かが、

「前皇帝陛下の4男アセクセイ様こそ、新皇帝にふさわしい!邪魔をするな!邪魔をする者は排除する!」

 と大義をやっと叫んだ。オレは伸び上がって声のした方を見ると、イワンより少し年下風の金髪のイケメンとその横にでっぷりとして口ひげを整えた陸軍の制服?を着た人物がいる。胸には数多くの勲章を付けている。きっとあれが、アセクセイという王子と陸相なんだろう。この2人はじっと舞台を見ている。その舞台上の宰相を睨んでいるんだろう。


 舞台の前の戦いは陸軍兵が優勢になりつつある。ふとここで疑問が湧いた。横のイワンに聞いてみる。

「弓矢は使えないのか?」

 イワンに聞いたのになぜかギレイ様が、

「いい質問だ(と褒められる、少し嬉しい)。陸軍側は舞台に向かって弓を引くというのは皇帝に対して矢を射るのに等しい行為だからだろう」

「なぜでしょう?」

 思わず解説してくれるイワンに下手に出る小市民のオレ。

「皇帝の棺があるからだ」

 確かに言われて見れば、舞台の奥の方に亡くなった皇帝の棺が置いてあるのだった。棺に矢でも刺さったくらいなら、大変なことだろう。


「それなら近衛兵の方はなぜ使わないのでしょうか?」

「詳しくは分からんが、準備してないか、他に弓矢より有効な武器があるのだろう」

「なるほど」

 オレとしては弓矢を使って欲しくない。剣同士の戦いなら、ここまで危険が及ぶことはないだろう。弓矢が使われたなら、間違って矢が飛んで来ることもある。


 近衛兵がどんどん倒されていく。陸軍兵が50人もいるのに近衛兵は20人もいないんじゃないか?と思った時、ギレイ様の予想通り弓矢より有効な武器が現れた。


 ギィーーン!という音がしたのかしないのか、サキライ帝国軍と戦ったときと同じレーザービーム?光の柱?が舞台上から王子と陸相目がけて放たれた。しかし、2人の前にバリアが張ってあったようで、天井に跳ね飛ばされた。それでも王子と陸相は動揺した顔をしている。オレとしてはビームが天井に当たって、天井に穴が開いた方が心配だけど。


 思い出すと、昔チェルニ郊外で帝国軍と対峙して、ヒューイ様と森に偵察に入ったとき、木こりの小屋の中から同じモノが飛び出したんだった。アレを使えるヤツがかつていたんだから、帝国で他に使える者がいたって不思議じゃない。ちゃんと伝承されているんだわ。帝国の教育制度に感心してしまった。どこかの不可思議な研究会とは違うよ。


 大公様が前を見たまま、

「マモル、オマエにアレが使えるか?」 

 かなり強ばった声でオレに聞いてこられた。大公様はアレが初見だろう?初見だと怖いわな。

「あの飛んだ方は無理です。防いだ方は私たち3人が使えます。サキライ帝国戦で使われたのがあれです。ちなみに飛んだ方のは、娘のモァが使えます」 

 と答えるとギレイ様が、

「報告で聞いていたが、実際に見ると恐怖を感じるな。それにしてもアレを、あの......が使えるか」

 モァについては固有名詞を言いそうだったので、ごまかしたみたい。でも何か歯ぎしりしてそうな感じでおっしゃる。こんなならモァを連れて来れば良かったのか?いや、モァを表舞台に出すのは無理だってご存じでしょ?それに村を出るときは、こんな所で戦争するなんて思ってませんでしたもん。守備を第一に考えて来たんですよ?


 でもとにかく、アレが間違って飛んで来たときのことを考えないといけない。

『Defend』

 1歩前に出て、大公様とギレイ様の前にバリアを張った。その瞬間、目の前が光輝いた!


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