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ヨハネの腕試し3

 腕試しはもう良いだろう、と思ったけど、まだ続くようだ。多少ケガしてもミンが治してくれるという安心感から多少無理してでも挑戦してみよう、という気になったのだろうか?なんか、道場で弟子に稽古をつける師範代というような絵面になっている気がする。


「次」

 とギレイ様に呼ばれて出てきたのは「旗持ち」だった。大公様の馬車が進むとき、先頭に立って旗を持っているヤツ。今回の随行員の中ではもっともガタイが良く筋肉がついているだろう。いつも着ている制服もパツパツで筋肉の躍動が分かるくらいだし、今はシャツだけ着ているから筋肉の有り様が良く分かる。

 握っている得物は槍だ。この世界にタンポ槍というものはなく、普通の槍の先を潰しただけの極めて危ない代物である。木剣だって硬いカチンコチンの剣なのだ。こっちはもっと危ないと思うが、これはこの世界の常識のようで誰も何も言わないし、使われている。


 ヨハネはさすがに少し下がり距離を取った。それを見たギレイ様が

「はじめ!」

 と声を掛けると「旗持ち」は、フン!と叫びながら槍を突き出してくる。どうでも良いけど、声を出してくると、それだけで攻撃掛けるって分かるから無言で攻撃しようよ。裂帛の気合いというなら声にせず、剣か槍に込めれば良いと思うけど。


 槍先が一直線にヨハネの胸に目がけて伸びる。槍先の伸びきった所から10㎝ほどの所にヨハネは少しばかりスエーしていた。すごいね、見切りが。ヨハネって何でもできるんだって思うよ。「旗持ち」は口の端でフン!と笑って、槍を引きもう一度突こうとする。と思ったのだろうが、ヨハネが手元に踏み込んで、「旗持ち」の腹に一発拳をたたき込んだ。さすがに「旗持ち」はグフッ、と言っただけで、手元に入り込まれたので槍を放し、両手でヨハネを押さえ込もうとする。ヨハネはその「旗持ち」の左手を掴みながら身体を回転させ、左手を引きながら「旗持ち」を背中に乗せた。


「おーーー!」

 と思わず声が出るくらいの一本背負いが決まって、「旗持ち」は背中から床に落ちた。そして間髪入れず「旗持ち」の首に剣を当てる。ミンが興奮して

「ヨハネさん、スゴい!!スゴいよ!」

 とオレの服の袖を掴んでぴょんぴょん飛んでいるが、喜んでいるのはミンだけで周りの誰もが渋~~い顔をしている。苦虫を噛んだ顔ってこんなんだ、って言う感じ。「旗持ち」は背中を打ち付けたためか、起き上がれない。それを見てミンが駆けて行って呪文を唱える。どこかで、

「いいなぁ、私も掛けてもらいたいよ」

 という声が聞こえる。


 「旗持ち」はミンに手を取られて立ち上がった。こいつもヨハネに負けたのに悔しそうな顔をしていないぞ。ギレイ様は結構不機嫌そうな顔をしているんだぞ。おまえら、もうちょっと頑張れよ!という気がしてきた。


「次!」

 口調がちょっと怪しいと思うが?剣、槍と来て次は何なの?と思ったら無手、要は武器を持っていなかった。

「武器はなくていいのか?」

 とギレイ様が問うと

「はい、問題ありません」

 と言い切った。ヨハネの投げ技を見ていると、格闘技というのは悪手だと思うけど、今度の相手はガタイがいいので、力任せに圧倒しようというつもりなんだろうか?そういえばこの人、護衛とか旗持ちとかじゃなくて、いつも荷物の積み卸しをしているわ。デカい鞄を軽々と持ち上げている姿を見ているんだった。ヨハネは掴まれたら終わりだろうけど、まあ掴まれる前に投げちゃうと思うな。

 でも普通はそう思わないようでミンは、

「ヨハネさん、大丈夫ですかね、あんな大きい人と?」

 と初めて心配そうな声を出した。ミンはサキライ帝国軍との戦いの時もヨハネと一緒に戦っているので、そうそう心配することもないと思うが、こんな近接戦闘なんてことはなかったし、組み合うこともなかった。でもそういう心配するより、ヨハネが剣で斬れば(叩けば?)いいだけなんだよ。片方が武器を持たないから、それに合わせて武器を持たず戦うなんて義理もないし。でも、こういう場ではそうもいかないんだよなぁ。と思ってると、ヨハネも剣を手放した。

「剣を離しましたよ、ねぇ、持ってればいいのに。ボン!ボン!って叩いてやればいいのに!」

 とミンは言う。けど、ミンよ、周りの人たちはみんな、口に出さないけど、そろそろヨハネが一敗するところを見たいと思ってるんだぞ。たぶん、ヨハネがオレの従者だからって遠慮しているんだと思うよ。オレたちのまとっている空気とその外側の空気が違うような気がしているんだから。


 そんな思惑とは関係なく、

「はじめ!」

 とギレイ様の声が掛かると「荷物持ち」は飛び出したりせず、一歩一歩進んできて、まずヨハネを掴まえようとしている。もう一歩でヨハネに手が届くという距離になったとき、ヨハネが横に動くと「荷物持ち」もさささっと横に動く。

「へへっ」

 と「荷物持ち」は嬉しそうに動くけど、キミ、ヨハネはキミに分かるように、対応できるスピードで動いているんだからね。最初の目にもとまらぬスピードだったらキミはなんもできないでしょうが?


 「荷物持ち」が一歩踏みだし、ヨハネの肩を掴もうとした瞬間、ヨハネは「荷物持ち」の懐に入り込み、腕を取り背負おうとした。さすがに「荷物持ち」は投げられると思ったのだろう、踏ん張って気持ち後に重心を移動した。その「荷物持ち」のかかとに足を掛け、少し持ち上がった所を手で持ち上げる。そのため「荷物持ち」はヨハネを抱えたままの体勢でごろんと転がる。転がったら終わり、というわけでなくどっちかが参ったと言わないと終わらない。「荷物持ち」は転んだだけで何も致命傷となるようなことにはなってない。2人は寝っ転がってモゾモゾしていたが、一瞬ヨハネの頭が上がったかと思うと流れるように「荷物持ち」の右腕を取り、腕ひしぎ十字固めが決まった。


「うわっ!!」

 と「荷物持ち」から声が上がり、その後悲鳴に変わった。周りは腕ひしぎ十字固めの痛さが伝わってないようで、「どうしたんだ?」「そんなに痛いのか?」なんて声が上がっているけど、やられたことがないから言えるんだって。

「ま、まぃ、まいったぁ......」

 「旗持ち」が言ったのでヨハネが緩めたとき、「旗持ち」が左手でヨハネに殴りかかる。

「オオッ!」

 と周りから声が上がるが、それはもっと悪手なんだって。「旗持ち」はひっくり返されてうつぶせになり、右腕持たれたまま首に足がかかってるじゃん。もう声も出ないよ、きっと。見えないけど顔は真っ赤だと思う。なんとかはずそうとして、身体を動かすけど、完全に決まっているから、動くほど絞まっていく。ついに力が抜けて、ダランとなった。

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