狩りに連れて行ってもらう
「これ、朝ごはん。私たちは朝と夕方にご飯食べる。夕方は日暮れに食べる。今は夏に近くなっているから、日暮れ少し前に食べる。今日の夕ご飯は婆さまと一緒に食べるから」
と言って盆を差し出された。
盆の上にはジャガイモと野菜の煮物と少しの肉と果物が載っていた。
朝ごはんが終わると、アンが盆を取りに来たのでジンの所へ連れて行ってもらう。
ジンは朝ごはんの後、いつもは狩りに行くらしいが、オレが剣の手入れの仕方を教えてくれと言ったので、待っていてくれた。
剣の手入れをしながら、色々と話をする。この村には読み書きできる人がジンの他にバゥという男と婆さまの計3人しかいないこと。ジンが村長でバゥが副村長、婆さまが長老という位置づけらしい。この村は陶器を作っている人がおり、昨日オレが見た煙は陶器を焼く煙だった。
オレが歩いてきた道は、領都から隣国に行く街道で、あまり通行量はないが、月に一度隣国に行く交易隊が通るそうである。交易隊が1日で進む距離毎に宿場があり、この村も交易隊の宿場の一つだそうだが、人が移住させられ村になり、近くに陶器を作れる土が見つかり、陶工が移住してきたそうだ。
普通の宿場には宿場守という番がいて、宿場を獣たちが荒らさないように守っている。宿場守は交易隊が領都から運んでくる生活物資で暮らしているそうだが、この村は100人以上の人が生活しており、経済的に自立しているので領都から支給されるのは塩だけだそうである(後で分かるが、とてもじゃないが自立しているとは言いがたい)。
この村からは陶器の他に獣の干し肉、毛皮、薬草などが領都に売られている。陶器を見せてもらったが、土を焼いただけの素朴な物で、釉薬を使っていない。オレは化学系商社にいたから陶器の製造工場に行ったことがあったんだけど、細かいことは忘れたなぁ。釉薬を作って渡せればいいんだけど、陶芸工場には先輩に連れられて行ったから、あまり興味なかったし釉薬がどうのこうのと現場の人にウンチク語られたけど、ろくに聞いていなかった。思い出せそうで思い出せないなぁ、まぁゆっくり思い出そうっと。
あれやこれや話をしているうちにだいぶ日も高くなった。ジンは狩りに行くというので連れていってもらうことにした。ここにいても何もすることないし。
ジンが毛皮の帽子、手袋、ブーツのようなものをくれたので服の上から着る。ヘルメットがあれば良いけど、あるわけないよね。ちょっと臭いけど頭と身体を守るためだからかぶる。あと、カゴを背負わされる、何か獲物があればいいな。
昨日入った門とは別の門から外に出る。門の外には畑が広がっており、主食のジャガイモを育てているのだろうか、女たちと子どもが働いているように見える。畑の向こうには獣よけの1mほどの高さの柵が広がっている。さらに草むらがあり、その先に森がある。
オレはジンに先導され森に入る。
ジンは歩きながら、足下に生えている薬草らしい草を摘んではカゴに入れている。どこかで見た木があるぞ、と思ったら田舎の庭にあった山椒の木だ。そういえば夕べの食事でも塩だけ使われていて、他の香辛料は何もなかったような気がする。
「ジン、ここに山椒の木があるけど摘んでいかないのか?」
「山椒?なんだそれは?」
「あれ、この村では山椒を使わないのか?夕べの食事は塩味だけだったと思うが香辛料は使わないのか?」
「香辛料?なんだそれは?もし食えるものがあったら取っとけ。この道はオレ専用の道で、どれだけ通ったか分からないが、まだまだ知らない草木もあるんだ。何が食べれるかなんて、食べてみないと分からないからな。そこら辺に生えてる物を食うなんて命がけだぞ。だから、うかつに口に入れられない」
そりゃそうだ。キノコなんで8割が毒キノコで、食べていいのと悪いのを見分けられる人なんてほとんどいないし、かなり知識量あっても間違うことあるんだから。トライアンドエラーで死んじゃったら、元も子もないな。それに薬だって、毒にも薬にもなるっていうくらいだから、長生きするには慎重に食物を選ぶことが重要だろう。
オレは実家の両親に連れられて山に行ってたから少し分かるけど。あのときはイヤイヤ行ってたけど、こんな時役に立つとは。お、ここにも山椒の木があるぞ、イテテテ、山椒の実を採るのは素手では無理か、今度手袋をもらおう。
「ジン、ここで塩は贅沢品か?」
「おう。そうだ。塩は領都から運んで来ている。塩がどこかで取れればな、もっと塩味の効いた物が食えるんだがな」
そうか、塩は貴重品なのか。だとしたら山椒の実をあく抜きするときに塩を使うけど、ここでは無理かな?たくさん、持って帰っても無理だから、少しにしようっと。ここは異世界ノベルの主人公のように、空をずっと飛んで行って海を見つけて、MY塩田を作って塩を取るか、岩塩を見つけるか、何かしないといけないですね。食生活改善のためにも!
「本当はまだマモルを森に連れてくるのは、危ないような気もするんだが、昨日は牛一頭と狼三頭殺っているから大丈夫だと思ってな。何事も経験積まないといけないし、実戦第一だ」
ということを言いながら森の中に進んでいく。
ジンの言うには、この村の狩りの方法としていつもは罠を仕掛けて、捕まった獣を回収するやり方だそうで、剣を持って獣と戦う事なんて滅多にないそうだ。それこそ、昨日みたいに獣が迫ってきて逃げられないと判断したときだけ、迎え撃つのだそうだ。弓矢は使わないのか?と聞くと、矢自体が非常に高価だし、おまけに中々当たらず、すぐになくなるので割にあわないとのこと。弓矢の命中率が高い人間がいれば使えるが、弓矢が上手になるまでの矢の消費を考えると、とても無理なそうなのである。
アーチェリーの矢とか、どうやって作っているのだろう?
大量に生産する手段があれば、伝えたいけど、まっすぐ飛ぶ矢を作るというのは大変なんだろうな。