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宰相と大公様の会談

 たっぷり待たせておいて、偉そうな顔をして帝国宰相が現れた。

「済まない、お待たせしてしまって。いや、急な来客があって......」

 などと定番の言い訳をするが、大公様より優先する来客って誰なの?と思うが、もちろん口に出さない。でもこれって、大公様以下、付いてきた者はみんな思ってるだろうな。コイツはロ〇アの大統領かい!と一人つっこむオレ。


 帝国宰相というから、はち切れんばかりに肥満した歩くのも辛そうな外見の人かと思っていたら、背の高いスリムな方だった。ただ頰がずっとぴくぴくなさっている。横に立つ秘書官らしい人は、痩せてさらに神経質そうなひとである。この2人の下では、働きたくないな~~と思わせられる。


 それで会談の内容は?っていうと、天候のこと、季節のこと、互いの国の作物のでき具合、サキライ帝国のこと、ルーシ王国のことなど。あたりさわりのない話で、最後の最後に宰相が新皇帝になる皇太子がいかに立派な皇太子かという自慢話を吹きまくった。弟のイワンの話によると、そんなご立派な方とは聞いてないけれど、そこは下げるわけにはいかないから、そりゃあ吹くよね。それでついでなのか、イワンのことを下げまくった。確かにヤツは胸張って言えるようなご立派な人格を持っているかというと、ごくごく普通の兄ちゃんだよな。皇帝候補と思って見ると、えらく危なっかしいと思うけど、一般市民と見るとごく普通の人のいい兄ちゃんだし。これは大公様がイワンを握っているから言っているんだろうか?

 そのついでか、勢いなのか四男のアレクセイ皇子もくそみそにこき下ろされた。悪意のタップリ入った人物像を語られると、その話をする者がほんとに嫌いになるんだよなぁ。もし、皇太子の代わりにイワンが皇帝になったとしても、こんな宰相に政治を任せたくないなぁ、とオレは思う。


「さてそろそろ」

 と大公様がおっしゃったとき、宰相がポンと手を打ち、

「そう言えば市井の噂なのですが......」

 と言い出した。つられて、腰を持ち上げた大公様はもう一度座り直し、

「どのような噂でしょう?」

 と聞かれたら、

「いや。単なる噂でもうご存じかも知れないのですが」

 と前置きして、

「ヤロスラフ王国内で内戦が起きているということなのですが、ご存じですか?」

 もちろん大公様は当たりがついていると思うが初めて聞いたような顔をして、

「いえ、初めて聞きました。ヤロスラフ王国内で内戦が起きていると?ご存じなら、誰と誰が戦っているか、教えていただけませんか?」

 驚いた表情をされて宰相に尋ねられる。

「そうですか、ご存じなかったですか......それでは」

 と少し相手の知らない情報を教えるという優越感を滲ませながら、

「チェルニのポトツキ伯爵がユニエイトに攻めかかったということですよ?」

「本当ですか!?」

 大公様が驚いてみせる。しかし後に並んでいる従者は誰一人として、無表情のままだ。ギレイ様の顔は見えないので、どうなんだろう?とにかく驚いているのは大公様だけという状況なんだが、宰相は大公様の顔しか目にはいっていないのか、得意満面である。


 大公様が、

「まさかポトツキ伯爵が叛旗を翻すとは思えないのですが?」

 と言うと宰相はニンマリとして、

「私もそう思いますよ。帝国としても、和平条約締結以来、友好的にお付き合いさせていただいているので、突然こんなことになり驚いております。いや、帝国としてもヤロスラフ王国で内戦が起きるのは困惑しております。隣国の平和は帝国の一番の願いですから」

 などと、シラっと言う。そこで大公様が

「まさかと思いますが、帝国軍にご迷惑をお掛けしていませんでしょうか?」

 と心配そうな口調で言われると、

「それはございません」

 と言い切った。そこまではっきり言うということは、噂でなく、情報が入っているということでしょ?確証が!?とツッコミを入れたくなる。オレの横に並んでいる従者のみなさんも同じ事を考えているんだろうな。


「帝国軍は、王国より攻撃を受けることはありません。もし、攻撃されれば反撃致します。しかし帝国軍が王国に侵入することはありません、ゼッタイにありません。それは友好条約に記載されている通りです。それは友好条約を締結したときの正使である大公様もよくご存じでしょう?」

 平然と言う。それを受け大公様が、

「では、もし帝国軍を名乗る者が王国内、大公国内に現れたとして、その者たちを討伐しても帝国は与り知らないということでよろしいでしょうか?」

 宰相は何を言うんだ?という顔をしながら、

「もちろんでございますよ。そのような帝国軍を騙る者はニセモノですから、そちらで討伐されて結構です」

 と言い切った。宰相の横に立っている秘書らしい男の顔は、頬がピクピクしているな。まぁ、帝国とすれば、帝国軍が王国軍や大公国軍に負けるというのはゼッタイにあり得ないコトなんだろう。

「いや失礼なことを申し上げました、謝罪致します。条約を結んでおきながら、帝国の方から条約を破られるようなことはございませんね」

「いやいや、謝罪は必要ございませんよ。それはあり得ないことですから」

 と宰相は平然と言う。


 宰相はヤロスラフ王国内の戦闘状態を聞いているのだろうか?どちらが優勢で(ヤロスラフ王国側は良くて五分五分だろうが)帝国軍が各地に侵攻しているとか、情報を聞いているのだろうか?情報遮断されている状態に近いオレたちに比べ、宰相にはヤロスラフ王国内の帝国軍から途切れることなく寄せられているだろうし。


 とにかく、宰相はずっと上から目線でモノを言い、会談は終わった。宿舎に帰る馬車の中は、誰も口をきかず静かなものだった。誰も表情が暗く、眉を寄せていたり、目に手をあてて何か考えているようだったりしている。誰もが大公国がどうなっているのか心配しているのだろう。ハルキフの帝国領を通過したときは、軍の動きがあるようには見えなかった。しかし、我々はハルキフの表面しか見ていないから、どこかで準備していて、今頃はギーブやオーガに攻め込んでいるかも知れないのだ。南から侵入した帝国軍はユニエイトを通ることになるが、ハルキフの帝国軍はそのまま大公国を攻めることができる。


 大公様が無為無策で国を出てこられたとは思わないが、それでも心配は尽きない。ギーブにはヒューイ様がいるが、オーガは領主のギレイ様がこっちに来ている。果たしてどうなっているのだろう?誰か教えてくれないだろうか?

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