村の人たちを迎えに
「村にはいつ、迎えに行くんでしょうか?」
「明後日だ。マモルが着いて、すぐに便りを出したから、明後日、迎えに行く」
「そうなのですか?オレも一緒に行って良いのですか?」
「あぁ、いいさ、もちろんだ。オレたちは獣が寄ってこない、お守りを持っているんだよ。だから、マモルみたいなクサい臭いをさせて行かなくてもいいんだよ」
「お守り?」
「これは、魔力がいるんだが、そのお守りに魔力を流すと、そのお守りから人には聞こえないが、獣にはすごくいやな音がするんだそうだ(超音波?)。その音は馬も嫌がるから、馬には聞こえないように耳栓をして行かないといけないんだけど、これが役に立つんだよ」
「へ、そんなのがあるのですか?オレのいた国には、ルーシ王国にはそういうお守りはあるのでしょうか?」
「いや、ないと思うぞ。マモルはあの国の名前を知っているのか?スゴいな(感心されるほどでもないけど)。
あの国は昔、魔女狩りというのがあって、魔力を持つものはことごとく殺されたと聞くぞ。だから、魔力を持つ者はいると思うが、魔力持ちであることを周りに知られないようにしていると思うぞ。だからたまに魔力を持つ者が、この国に逃げてやってくることがあるんだ」
「そうなのですか?」
「そうだ。魔力を持つ者は、持たない者からすると得体が知れない者で、支配する側から見ると制御が効かないと思ったらしいな。いつ、自分に害を及ぼしてくるか分からないってな。だから魔力持ちを根絶やしにしようとしたそうだぞ。
でも魔女狩りってヤツは残酷なもんでな、魔力持たない者も、そいつが気にくわないからって密告されてしまうと、証拠があろうがなかろうが裁判に掛けられて必ず有罪になってしまうそうだ。無実だっていう証明なんて元からできないし、無実なのに殺されたというのがたくさんあったって、聞いたぞ。椅子にくくりつけて、水に沈めて死んだら魔力を持ってないから無実、生きていたら魔力を持っていたから生きていたってことで、魔力持ちっていう、どっちに転んでも殺されちまう裁判もあったそうだぜ。
だから、誰1人あの国では魔力を持ってるなんて言わないだろう。そして、魔力を持ってても、使って見せたりなんてことは絶対にしないはずだ。だから、魔力を使うお守りがあったとしても、使って見せるヤツなんていないと思うぞ。しかし、あの村には魔力持ちがいるらしい。だから、1個送ったよ。
でも、そんなおっかない国にはオレは住みたくないよな。何もしてなくたって、無実だって言ったって、魔力持ってると告発されただけで、殺されちまうんだから。一度裁判に掛けられるとゼッタイ無実にはならないんだってよ」
「そうか、オレの知ってるので2人います、あの村で魔力持ってるのは」
「なら、大丈夫だろう。ま、マモルも心配だろうから、付いてくればいい」
翌々日、ヤロスラフ王国の人たちと村の者を迎えに行く馬車に付いて行く。
宿場からしばらく行くと、辺り一面草原になった。来たときと一緒で、とにかく空が高い。10人ほどと馬車が2台で移動している。この10人ほどの中の誰かが魔力を持っているんだろうな。この国では魔力持つのが、さほど異端視されないようだから魔力を持っているといっても、さほど危険ではないのだろう。最初に会ったとき、自分の臭いを消すのに『Clean』を使ったけど、何をしたか分かった人間がいたんだろう。誰か、知りたい。魔法の呪文を知りたい。教えて欲しい。
2時間ほど進むと、合流地点に着いた。オレと合流した地点から、だいぶ村に近づいている。迎えがここにいるという案内のために狼煙を上げるそうだ。やっぱり、目印があると、不安感がなくなるのは大きいよね。
オレたちを囲むように100mほど離れて狼たちが見ている。獲物だと認識しているけど、近づけない、と言った感じ。やっぱりお守りの効果は大きいけど、あれを呼び寄せたのはオレの効果かな?
「不思議だな。普通、お守りがあると、あんなに狼は近づかないんだけど。近くに来てもすぐにいなくなるのに、今日はどうしたんだろう?」
「よほど、この中に旨そうな獲物を見つけたんじゃないのか?」
やめてください、フラグを上げるのは。
「もしかして、これはマモル効果か?」
きっとそうですよ、と苦笑い。
「マモル、オマエはこっちに来るとき、狼の群れに遭遇して、数頭殺したって言ってたよな?」
「あぁ、そうだけど」
「あれは、その残りじゃないのか?殺られたヤツの群れの残りが、マモルを恨んで捜してきたとか?」
と呆れられるが、
「そんなことはないでしょう?あんとき、ボスを殺ったから、残りは弱そうなヤツばかり残ったはずだけど?」
と言ってみる。
「そうか、どうするかな?あのまましておいてもいいが、もし向こうの村の魔力持ちの魔力が弱かったら、ここまで魔力が持たないかも知れないな。そうすると、あいつらに襲われるかも知れないし、ここで始末しておいた方がいいだろ」
「そうだな、殺ってしまった方が良さそうだな。やるか!」
「マモル、オマエの力を見せてもらえないか?オマエの力を見ておけば、領主様に話がしやすい」
「分かりました」
「マモル、あの狼たちはどれくらい殺れるんだ?」
「全部いけます。任せてください(ここで良いとこ、見せないといけないでしょ?)」
「「「「「「「「「「え、ほんとか?」」」」」」」」」」
「あぁ、見ててください」
と言って、たぶんお守りのこの辺りだと思われる保護範囲内から出る。何か雰囲気が変わったような意識があり、なんとなくクリアになった感じがする。
さっそく狼たちが向かって来た。7頭か?そんな強そうな気はしないな。狼たちは加速しながら、オレの方に向かって走ってくる。オレは少し膝を曲げ、剣を下段に構えているので、向こうから剣の有り様が草に隠れて、見えていないだろう。狼たちがあと10mという所まで近づいた時、オレはダッシュして先頭の狼の正面に飛び込み、地摺りの剣を振り上げる。狼の顎から入った剣が、そのまま頭に抜ける。斬り上げた剣をそのまま、右にいる狼に向かって斬り下げる。右の狼を斬って竜尾で止め、そのまま左にいる狼に向け身体ごとぶつけていき、断つ。
一拍で3頭殺し、残りを見るとかなり戦意をなくしているそうだが、あの村から来る人たちを襲っても困るので、残り4頭も一息で斬った。前よりは、だいぶ血を浴びなくなった。『Clean』と唱え、気分をリフレッシュする。ん、リフレッシュ?何か使えない?『Clean』と近そうだから、役に立たないよね、きっと。
狼を殺して、後ろを振り返ると、みんな唖然とした顔でこっちを見ていた。
「マモル、スゴいな......」
「そうだな、こんなにやれるとは思わなかった」
「これはスゴいわ。とんだ拾い物だな。準騎士爵なんかじゃ収まらないぞ。すぐに上に上がるぜ、オレが保証する!」
「バカ言え、オマエの保証なんて何の役にも立たないぞ、あはは」
「マモル、その狼はどうするか?」
「これ?これは、このまましておけば、他の獣が始末してくれるでしょう?」
というとガヤガヤ始まる。
「おい、聞いたか。あのままして置くんだってよ」
「おぉ、狼をそのまま残して行くんだってな」
「もったいないねぁ、毛皮、牙、肉、捨てる所なんて、どこもないぞ」
あーーーうるさい。
「全部、聞こえていますから。この狼は好きにしてもらって良いですから!」
「いや、悪いなぁ!すまんな、マモル」
「マモル様様だよなぁ」
って喜ばれていますが、オレは村のみんなを迎えに行こうと思う。
「オレは村のみんなを迎えに行こうと思います。もしかしたら、魔力が尽きてしまっているかも知れない。行ってきます!!」
オレは走り出した。イヤな予感がする。




