ポツン村の戦い14
我が家が稲作しているのは、たびたびお話していますが今年のコシヒカリの収穫が終わり、もみすりまで終わりました。我が家は今年4反余り作付けしましたが、1反当たり約7俵の収穫でした。稲作やっておられる方はたぶん「えらく少ない」と感じられたと思います。普通の田んぼだと9俵くらいは取れると思うので、2割くらい少ないと思います。原因はやはり化学肥料をやってないからだろうと父が言っております。田んぼの管理は90になる父がやっていますが、だんだんと化学肥料を減らしており、私の知る限り春先に鶏糞を撒くくらいしかしてないと思います。ここまで聞くと「有機農法じゃん?」と思われるかも知れませんが、農薬は人並みに使っているので、有機農法ではありませんね(^_^)
作った米は自家消費と人に分けるだけで売る分はないのですが、昨年米(いわゆる古米ですな)を人にあげると、スーパーに売ってる新米よりずっと美味しいと言っていただけます。
たった4反(40a)でも作るのは大変で、毎年、今年で終わりにしてくれと思っていますが、新米が取れると、来年やってもいいかな?と思います。
帝国軍の後衛部隊から火が上がっているのはポツン村の正門にいる者にも見えた。炎は見えなかったが、火によって夜空が明るく照らされている。最初は小さいものだったのだが、だんだんと明るくなってきた。
「あれはシモンさんたちの攻撃の成果ですね」
サラがミワに語る。
「そうなのでしょうか?」
ミワはよく分からないので疑問形になる。
「たぶん、そうです。工場にある酒をあるだけ持って行って良いかと聞かれたので許可したのですが、きっと帝国軍に持って行って飲ませたのでしょう。酒精の強い酒だと火が点くと言ってましたが、まさかそんなことはしていないでしょう。
帝国軍の失火なのかシモンさんたちの放火なのか分かりませんが、消えずにだんだんと火が大きくなってきているようなので、火勢が強くなるようにしているのだと思います。この火が消えるまでは、敵もこちらに攻めてくることはできないでしょう」
とサラが言った。これを受けてヤナーチェクも、
「陣営の中から火が出て、すぐに消せないようでは、兵たちがまともに動いているとは思えませんよ。夕方見て来たときには、あそこに1500から2000人の兵士がいたと思います。そんなに兵士がいるのに、火が出て、消すどころかますます勢いを増しているというのは、消す者がいないのかと思いますよ。まさか自軍の中の火事を放り出して、こちらに攻めて来るなんてバカなことはしないでしょうし」
と付け加えた。
「そうですか。そう言われれば理解できました。ありがとうございます」
ミワが礼を言うと、ヤナーチェクはちょっと意外そうな顔をした。
「でも、あの火事の出ている軍隊が、私たちの方にやって来ると思われる軍と同じということはないのでしょうか?」
ミワが聞くとヤナーチェクは、
「分かりませんね。火事を出した所の兵隊たちが、こちらに攻めて来るのなら大幅に遅れるか、中止するかも知れませんが、別の部隊だとするとあまり期待できませんね。あれ?あんな所に灯りが点きましたよ?」
と指し示した先に、小さい灯りがポツンポツンと点き始めた。
バランニコフ中佐率いる前衛部隊は、月の薄明かりの下、ほとんど暗闇に近い状態でポツン村の正門を目指して進んでいる。昼間に偵察に行かせた者を先導させていたのだが、なぜか帰って来ず行方不明になってしまったようだ。そのため、1500人からの兵士が土地勘のない所を進んでいる。ユニエイトとブカヒンを結ぶ街道からブカヒンとギーブを繋ぐ街道に出て、それからポツン村に向かう道を進めば良いということは分かっている。
しかし、まず川を渡らなければならない。工兵たちに架けさせた橋は急こしらえだったせいか、いささか橋のできが悪く、橋桁が崩れたり、渡した板が落ちたりした。そのため川に落ちたり、ケガをした者も出た。2列縦隊で橋を渡るはずが1列となり想定の倍かかってしまってる。
部隊の先行部隊がやっと川を渡り、草原に進むと遠くで狼たちが吠え始める。縁起でもないのだが、自分たちを待ち受けて、獲物がやって来たことを仲間に知らせているように思える。
「固まって進め。足下に気をつけろよ!」
隊長が叫ぶ。部下たちは言われなくても、狼たちの遠吠えを聞いて、自然と集団を小さくして進む。しかし、道なき道を進んでいるので、足下は凸凹であり躓き倒れる者もいる。後に続く者は、先行部隊の踏み固めた道を進めるが、先行部隊は草をかき分け地道に進むしかない。
「うわっ!?」
突然、騎乗している小隊長が叫んで兵たちの中に落ちてきた。兵たちは何が起きたのか分からず、地面に転がった隊長を見る。
「小隊長!小隊長!どうされましたか?」
小隊長に声を掛けるが返事がない。
「小隊長!失礼します」
と言い、手探りで小隊長の身体を探ると、首に矢が刺さっていた。
「灯りを点けろ」
灯りを点け、小隊長を照らすと矢が小隊長の首に刺さっている。鏃の先が反対側に見えるくらいまで刺さっている。
「スゴいな、これは」
「こんな暗い中、見事に首を通すってのは大した腕だよ」
「どうする?」
「どうするったってよぉ」
と兵士たちが話をしていると、動かなくなった軍を不審に思い、後方から副隊長がやってきた。
「どうした?」
副隊長が聞くと
「これを見てください」
「小隊長がやられました」
「敵の矢です」
と兵たちが口々に言う。
「どこから矢は飛んで来た?」
副隊長は質問するが、誰も正確なことを言えない。足下を見ながら歩くことで精一杯だったのだ。小隊長がどうだったかなんて誰も見ていなかった。
「仕方ない。我々は軍を先導するのが使命である。小隊長の亡骸をこのまま連れていくわけには行かない。かと言って残して行くわけにもいかないから、オマエたち4人で後方に運んでくれ。バランニコフ部隊長に報告して処置を仰げ。この隊の指揮は小隊長に代わり私が取る。また矢が飛んで来るかも知れないから、気をつけろよ」
射手を捜索することも考えたが、こんな場所で隊をばらけて捜しに行かせると、個別に敵にやられてしまうかも知れない。それに遠くに狼がいるようだから、まとまっていないと狼が襲ってくる可能性もある。むしろそっちの方が怖い。それならこのまま、まとまって進むに限る。
副隊長が先頭に立ち、先行部隊を先導する。100歩も進まないうちに、副隊長の肩に矢が刺さった。
「ぎゃっ!」
悲鳴を上げて副隊長が馬から転げ落ちた。兵たちは周りをキョロキョロ見回すが、矢がどこから射られたのか分からない。辺り一面の草原で腰より上までの高さの草が生えているから、人がしゃがんで隠れれば昼間でも見つかりにくいだろう。
副隊長のキズがどのくらいのモノか暗くて分からないが、副隊長が唸っていることで、決して浅くないことは周りの者にも感じ取れている。
副隊長は目の前の兵を指名し、
「オマエが先頭になって進め。馬は使うな。徒歩で行くんだ。私はキズがひどく、行軍を続けられそうにない......」
と言ってしゃがみこんだ。昼間であれば、副隊長の顔色が青を通り越して、真っ白になっていたことが分かっただろう。しかし、今は夜なので兵たちは言われるまま、草原をまっすぐ進むことにした。ずっと先にかすかに灯りが見えるような気がする。何も目標がないところを進むより、例えあの灯りが地獄の門の灯りであろうと、それを目印にして歩いて行く。
ポツン村の弓上手と言われる者が、狙撃のため草原に潜んで帝国軍を待っていた。指示されたのは馬に乗っている指揮官クラスの者たちを射ること。無理をせず、帝国軍の進行速度を遅くすれば良いと言われている。獣除けのお守りを持ちながら待っていると、帝国軍がやって来た。草原の中を1列で進んでいる。魔力を目に貯めると夜目がいくらか利くようになった。先頭の馬に乗っている者まで100歩もない。馬はゆっくりと進んでいる。鏃に毒を塗り、狙いをつけ、弓を持つ手が停止した一瞬のとき、射つ!!
矢は緩い弧を描き、クルクルと回転しながら的の人間に吸い込まれるように飛んで行く。内心『やった!』と思いながら当たったのを見ずに伏せ、姿を隠す。帝国軍で声が上がり、騒がしくなってきたことで命中したことを確信した。しゃがみながら移動し、頭だけを草の上に出し、帝国軍の様子を観察する。後方から馬に乗ってやってきた兵士がいる。次はあれを狙えば良いのか。
しばらく待って、帝国軍は馬に乗った兵士を先頭に進み出した。なんと無防備なんだろうと思う。そしてその的に矢を射る。兵士が落馬する。さっきよりも騒ぎが大きい。自分を捜しに出てくるかと思ったが、矢で射られることを警戒してか、そのような気配はない。そして兵士たちは頭を下げ、草丈より頭半分出るくらいで帝国軍は進み始めた。




