ポツン村の戦い13
読んでいただきありがとうございます。
ポツン村の戦いが、遅々と進まず延々と続くことに辟易される方もいらっしゃると思いますが、これも作者の特徴と思っていただきたいと切に思います。
ただ書いていて思うのは、動きを文章にすることのなんと難しいことか!頭の中に浮かんでいる映像を文章にするのはなんと難しいのだろうと泣いております。プロの方たちというのは、本当にスゴいモノですね。私は、これがまったく初めての小説なので、時たま投げ出したくなります。
まだこの先続きますので、よろしくお願いいたします。
あ、それと誤字の指摘を都度頂きありがとうございます。助かってます。自分で見返しても分からないものだなぁと感じます。製品検査で同じ目で何回検査しても不良を発見できないのと同じモノなんですね(^_^;)
1杯だけのつもりだったが、こらえきれずゾビーニンはお代わりをし、さらにもう1杯飲んでしまった。部下たちは1杯だけと言っているのだが、ここは隊長権限でチャラとして、部下たちの妬み顔は知らん顔している。
バルトロマイが恐る恐るといった風に、
「隊長様、前の方の兵隊さんたちに酒を持って行こうと思うのですが?」
と聞くとゾビーニンは
「そんなことわぁ、気にせんで良い!持って来た酒は我々のものだ!我々が全部飲んでやる!!」
上機嫌で叫んだ。
「この酒は旨いな!オマエの村で作っているのか?初めて飲むぞ。この酒精が強いのがたまらん!」
ごきげんになったゾビーニンがバルトロマイに聞いた。
「これはサキライ帝国から伝わった酒で『ショウチュウ』というものでございます。今年初めて作りまして、村でもとても評判が良かったのでお持ちしました」
サキライ帝国から伝わったというのは、もちろん嘘である。マモルが福音派のトマルに命じて作らせたものだ。できた物を全部持ち込んだ。どうせ、村が焼かれれば灰になると思えば惜しくもない。そして樽の中には、4樽中2樽に下剤を混ぜてある。4樽全部に下剤を混ぜたかったが、下剤の在庫が2樽分しかなかったから。残りの1樽に眠り薬を入れ、もう1樽には入れるものがなく、そのままの何も入れていない『ショウチュウ』が入っている。薬の効きを遅くしてあるが、攻撃が始まる頃に効き目が出ると考えている。
兵士たちは初めて飲む酒の味に違和感を持つことなく、飲んでいる。稀に下戸の兵士もおり、口にしないがそういうのは誤差の範囲内だ。
兵士たちは旨い酒を飲んで、この先の村に行けば、まだ酒があるんだろう、明日この村を襲って酒を奪えば好きなだけ飲めるだろうと考えている。
100ℓほど入る樽が4樽とも空になる頃には、兵士のほとんどに酒が行き渡った。中には、幸運なことに2杯目3杯目にありつけた兵士もいる。飲んだ兵士はみな上機嫌になり、横になっている者もいる。まだ攻撃の時間には早く、一眠りするくらいの余裕はあるはずだと考え、寝ている者もいる。酒が入ったせいで、輪になって話をしている者も多い。もう勝った気になって、肩を組んで勝ち戦の歌を歌っている者たちもいる。
すでに兵士たちからは気にも留められなくなったバルトロマイたちは、荷車から離れ騒いでいる兵士たちの視界に入らないよう隠れている。そして魔力袋から下剤を取りだし、目立たないように蓄えてある飲み水の中に混ぜていく。全ての飲み水に下剤を入れるまでのことをする必要はないのだ。だいたいできれば良いのだ。
そして次に帝国軍の馬車の中に油を撒き、火を付けた。昨日の雨のせいで、なかなか火が大きくならなかったが、福音派の者たちが馬車から離れる時間は十分あった。そしてまた、日を付けた馬車から距離を取り他の馬車に火を付ける。
「火事だ!」
馬車から火が上がり、弛緩していた兵士たちが声のした方を見ると、軍の後方の馬車が燃えている。ハッとして火を消しに行こうと立ち上がったとき、何人かは腹具合のおかしさを感じた。腹が下るほどではないが、もしかしたらこのまま行くと腹が下るのでないか?という予兆の感じ。
それでも周りの者と一緒に馬車の所に行き、消そうとする者、川から水を汲もうとするもの、てんでバラバラに動き出す。水を掛けようとするが、火事が起きるなんて考えてもおらず、消火用の水を用意していないため、消火がはかどらない。
そのうち他の離れた所で、
「火事だ!?」
と声が上がった。他でも馬車が燃えている。
「水だぁ!水を掛けろぅーー!!」
と声が上がるが、水は川まで汲みにいかないとないので、火は一向に消えず広がるばかりである。水を汲みに行った者がなかなか戻ってこない。消火作業を手間取るうちに、動けなくなる者が出始めた。
「あ、あ......痛い、腹が痛い......」
「お、オマエもか?実はオレもダ......」
兵士たちの半分に満たない数ではあるが、尻を押さえて草むらに入り用を足す者が続出し始めた。かく言うゾビーニンも猛烈な腹痛に困っていた。腹下りで治癒士を呼んできて治してもらうほどのものではないと思い、1度は草むらで用を足したのだが、それでもどうも良くならない。酒精の強すぎる酒を飲んだせいで、腹が驚いたのでないかと思っていたのだが、もう1度用を足しに行き固形物を出し切ってしまったのに、未だ腹の調子が戻らない。これは出撃まで横になっていようと思った。いや、確か部下で腹下しに効き目があるという秘伝の薬を持っている者を呼ぼうとしたが、力が入らない。辛うじて部下の名前を告げたが、誰も来ない。
「だ、誰か?誰か、いない、のか?」
やっと遠くから掛けて来る者がいた。
「どうされましたか?」
「いや、誰か、副官たちはいないのか?どうして誰もいないのだ?」
「それが皆さん、大なり小なり腹を壊されたようで、用を足しに行かれた方と休んでおられた方とおられて......それと眠りこけて起きない者もおりまして」
「なんだとぉ......揃って腹を下しているのか。寝て起きないのは懲罰ものだぞ......それで、オマエは何ともないのか?」
「はい、大丈夫です。このとおり、ピンピンしております」
「くぅぅ、どうしてオマエだけが......大丈夫、なのだぁ?」
「はっ!私の他にも元気な者はいるのですが、どうも酒を飲んだ者たちは一様に腹を下しているようです」
「なんと......酒に当たったのか?やはり、ろくに知りもしない酒を、喜んで飲んではいけないのか?」
酒飲みは酒が悪いとは思わない。自分が悪いと考える。酒を飲まない者からすると、そんな素性の知れないモノを飲む方が悪いと思うのだが。
「馬車が燃えているが......手が足りて......いるのか?」
「申し訳ありません。まったく足りておらず、馬車のいくつかは燃えるに任せるしかなく......」
「ダメだ......腹が痛い......。オマエに任せる。最善を尽くせ......」
ゾビーニンは尻を押さえ、草原にソロリソロリと歩いて行く。暗闇の中で誰かの排泄物を踏むが、今やそんなことは気にしてられない。
馬車に火が点いた頃、ポツン村のシモン以下15人が帝国軍の架けた臨時の橋を渡り、帝国軍の動向を見ていた。火を消そうと水を汲みに来る帝国軍の兵士は矢を射て倒す。鏃には毒が塗ってある。帝国軍の動ける者がワラワラと桶を持って水を汲みに来て、川縁にしゃがんだとき矢が命中する。
矢の刺さった者は一瞬動きが止まり、何が起きたのか確認しようとする。腋や腹、脚に刺さった矢を抜こうとするが徐々に毒が身体の中を巡ってきて、硬直し川に落ちる。そのまま流されていく者、浅瀬で突っ伏している者、帝国軍の兵士が削られていく。
無警戒、無防備で川縁にやって来て、火事の灯りを浴びているから、暗闇に潜む射手にとっては格好の的になっている。10人、20人とみるみる打ちに犠牲者が増えていった。その犠牲者は腹を下していない動ける者たちだ。
消す者のいなくなった帝国軍の火事は、だんだんと範囲を広げていく。腹を下している者は這って火事から逃げ出して行く。眠りこけた者はそのまま焼かれていく。
川縁に水を汲みに来る者がいなくなったので、シモンたちは帝国軍の陣営の中に密かに入って行く。慎重に周りに注意しながら、倒れている兵士、座っている兵士、用を足している兵士もいる。それらの者をナイフで首の血管を切っていく。後衛部隊を全員殺す必要はないのだ。500人も動けなくすれば軍としての活動ができなくなる。ケガ人を残しておいた方が、軍としての負担が大きく、より一層効果がある。
黙々と仕事をこなしていく。




