ポツン村の戦い5
モニカとクライバーの後ろに、いつの間にか司令部の面々が移動してきていた。先頭のドボルニコフ副司令官が声をかけた。
「いいか、よーく狙えよ。あの櫓だ、あそこから我々を見ているヤツらを吹き飛ばしてしまえ。帝国軍に反抗すればどうなるのか教えてやるのだ!」
「はい!!」
モニカが良い返事をし、右手に魔力を溜め始める。抱えた魔力玉の色が黄色から無色になった。モニカは心の中で『少し魔力が足りなかったなぁーもう少しあれば完璧だったのになぁー』と思いながら、呪文を叫ぶ。
『〇△ーーーー※□ーーーーーー!!』
手の先に1発目よりは少し小さい光の弾が生まれ、手を離れ村の櫓に向かって徐々に進み始め、速度を上げ疾走し、櫓に迫る。
櫓の上では、シモンが怒鳴った!
「ナタナエル!来る、間違いなく来るぞ!頼んだぞぉーーー!!」
「はい!!」
ナタナエルが『Defend』を張り、光の弾が向かって来るのを止めようと構えている。光の弾は地面すれすれから浮き上がるように櫓にまっすぐ向かって進んでいる。ナタナエルから見ると自分の張っている『Defend』に吸い込まれるように向かって来ているように感じられる。
光の弾がゆっくりゆっくりとナタナエルに向かい、飛んで来ている。そして『Defend』に接触したとき、ナタナエルの身体全体に巨大な圧が加わるのが分かった。目の前が真っ白に光る。圧が押してくるのが感じられる。このまま押し込まれては櫓全体が吹き飛んでしまう。手に力を込め、身体中の魔力を手に集中する。光の魔力と自分の防御の魔力が相殺し、魔力がどんどん削られているのが分かる。身体中の血液が沸騰し血管が皮膚に浮き出てきている。
ピッ!
音がして視界が紅くなった。どこか血管が破裂したのか?ダメか?魔力が足りないか?もう保たないか?
ポツン村の櫓の上でシモンが、
「ナタナエル!前に出ろっ!!防げーーー!!なんとしても防ぐんだぁぁぁーー!!」
と絶叫する。しかしナタナエルに声は届いていない。ナタナエルは両手を前に突きだしたまま、圧力に負けまいと前に出る。ナタナエルは目を見開いている。白目に血管が浮き出て、髪の毛が全部逆立っている。シモンが
「皆さん、ナタナエルの後ろを開けてください!ナタナエルが吹き飛ばされても良いようにしてください!なるべく離れてください!!」
と叫んだ。
櫓の上にいる者は帝国軍から放たれた光の弾が自分たちを目がけて飛んでくるのが分かっていながらどうすることもできないでいた。身体が金縛りにあったように身動きできず、光の弾がどんどん近づいてくるのを見ていた。
ミワは『死ぬときってこうなのかな?時間がスローモーションで過ぎるって聞いたことがあったけど、ほんとなんだ。光の弾がどんどん近づいているのに時間がゆっくりと進んでいるんだもん』と思っていた。
帝国軍の司令部の者たちはモニカが光の弾を発してから、身を乗り出して行方を見ていた。櫓に当たって、櫓が爆発するのか、消失するのか、胸を躍らせていた。
光の弾は櫓に到達した。そして櫓をどうかすると思っていたが、そのまま形をしばらく保ち、上に弾かれるように飛んで行き、空に消えた。
ドボルニコフがクライバーに
「あれは、何が起きたんだ?」
怒鳴るように質問する。クライバーもモニカも予想もしない展開に驚いて言葉もない。やっとクライバーが
「わ、わ、わかりません。光の弾は当たったように見えましたが......」
とやっと答えるも、
「それは分かっている。私も見ていたのだから、分かっている。もう一度、もう1度撃ってやれ。こんなことで終わるわけにはいかない!あの村のヤツらに舐められてたまるか!帝国軍の強さを見せてやれ!」
とドボルニコフがクライバーの胸ぐらを掴み怒鳴る。クライバーが顔を振りながら、
「す、すみません。魔力玉が空っぽになりました」
「何を言っているんだ!予備があるだろう、予備が!!それを使え!」
「予備は、ありますが、それはブカヒン攻略に使う予定なので......」
「充填すれば良いのだろう!つべこべ言わず使え!ここで使わずどうするのだ!帝国軍があんなちっぽけな村にバカにされているんだぞ!さっさと命令に従え!!」
ドボルニコフの剣幕にクライバーは何も言えなくなった。クライバーは近くにいたボトンに目配せするとボトンは後方に走って行った。予備の魔力玉を取りに行った。
モニカは2発目の光の弾を発したことで、全身の力が抜け座りこんでいた。ドボルニコフとクライバーの会話なんて、まったく耳に入らないくらい疲れ果てていた。1日で4発も光の弾を撃ったのは初めてだった。それも実戦で撃ったのは久しぶりで、魔力玉から魔力を吸い上げながら最大の光の弾を撃つこと自体が初めてだった。座っていられず、寝転んでしまう。魔力玉を抱えたまま空を見上げた。
光の弾を受け止めているナタナエルが徐々に押されているのが、櫓の上にいる全員に分かった。シモンが、
「ナタナエル!頑張れ!魔力を送る!」
と言いナタナエルに抱きついた。シモンが魔力を送り始めたからか、ナタナエルの『Defend』に力が戻ったように感じられた。
「私も魔力を!」
「私も!」
「アタシも!」
女たちが次々に魔力を供給しようと、ナタナエルとシモンに近寄ろうとしたとき、シモンが
「来ないでください!危ないです!私らだけで守ります。離れてください!!」
と叫ぶ。光の弾が振動し始めた。ブルブルと動いているのが誰の目にも分かった。
「ナタナエル!受けきれない!上だ!上に逸らすんだ!傾けろ!!」
シモンの声が聞こえたのかどうか、ナタナエルの返事はないが、手を少し傾けると光は震えて上に飛び上がった。
「「「やった!?」」」
女たちは声を上げたが、その反動でナタナエルとシモンが跳ね飛ばされた。ナタナエルは血を吐きながら飛んで行き、後ろの手すりにぶつかり、
「グワッ!?」
と言い、倒れて動かなくなった。シモンは手すりまで飛ばされてぶつかったが意識はあるようで、ウウウウと言っている。しかし、倒れたまま動かない。アノンが駆け寄り、ナタナエルに手を当てる、
『Cure』
と唱えると、ナタナエルの身体が光るが、すぐに消える。
「ダメだわ。この子、死んでしまった」
アノンは横のシモンの身体に触れ、
『Cure』
と唱えるとアノンの当てたシモンの身体が光り、全身が光る。
「グッ!うぅぅ......」
とシモンがうめき声を上げた。アノンは振り返ってミワを見て、
「ミワさん、あなたも手伝って!」
「はい!」
ミワがシモンに駆け寄った。
「帝国軍に動きがあります!」
スーフィリアが叫ぶと、皆の視線が帝国軍に向けられた。確かに小柄の兵士は寝転がっていたのを起こされている。奥の方から光る紫の玉が運ばれて来た。
「あれは魔力玉よ!」
モァが叫ぶとユィも
「マモルくんの持っているのと同じだ!紫色ってことは目一杯魔力が入っているってことだよ!も一度あれを撃ってくるってことだよ!」
と叫ぶ。モァがハシゴに駆け寄り、降りようとする。ユィとスーフィリアも続く。サラが、
「モァ様、どうするのですか?」
と聞くと、
「決まってる!近づいて撃つの!近寄れば当たっても効果があるはずだわ!」
「無茶です!」
サラが言うがモァは、
「だって、他に方法ないもん!私がやられてもユィもスゥもいるから、誰かがやってくれるよ!」
と叫んだ。そのとき
『Paralyze』
とサラが唱えた。モァ、ユィ、スーフィリアの動きが止まった。
「あ、ぁ、ぁ......」
モァが何か言おうとするが声が出ない。
「モァ様、私がやります。私に任せてください」
サラが言った。




