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その頃、ポツン村では

やっとこの話にたどり着きました(^_^;)遠かったです。

 ポツン村のマモルの妻(仮を含む)4人で会議(通称・妻の会、そのままですな)が催されていた。議題はもちろん、帝国軍の侵攻について。ポツン村では帝国軍がブカヒンに向かって侵攻してくるだろうという前提で準備している。

 村からはすでに20人が徴兵されブカヒン領軍に編入されている。これはバゥが率いて行った。次に徴兵があればミコラが行くことになっており、その編制も終えている。たぶん間違いなく持っていかれるだろうと考えられている。


 しかし帝国軍がどうなっているのか、情報が入ってこない。ビール工場の福音派の面々はビール製造に必要な最低人員を残して、帝国軍の動きを探りに出かけている。福音派の得た情報はブカヒン領軍のクルコフ子爵に上げるとともに村でも共有している。


 と言うことで情報がないので、会議を開くといっても何も話すことはない。しかし顔を合わさずにはおれない。リファール商会、ロマノウ商会からも最初に情報が入った他は、何も聞いていない。あまりに情報がないので、一時「帝国軍は来ないのでないか?」という噂が出たが、ブカヒン領軍が来たため、噂はいつの間にか聞かれなくなった。


 すでにブカヒンからクルコフ子爵の率いた領軍がポツン村を通過し、村の郊外に陣地を築いている。王都ユニエイトとヘルソンの途上にもバンデーラ子爵の率いるヘルソン領軍が陣地を構えていると噂されている。

 本来、兵力分散せずブカヒン領軍、ヘルソン領軍が一致して帝国軍に当たれば良いのだが、この時代、敵の動きを知るのは人の目しかないため、斥候を放ち、斥候の見て来た情報を元に軍を進めるしか方法がない。そのため、敵軍の侵攻速度が速いと斥候の報告が間に合わないことがある。そのため、兵力分散という対応をせざるを得ない。誰もが悪手と思いつつ、連絡を取りながら帝国軍の進路が確定したなら、そちらに合流するということになっている。


 ポツン村から1kmほど離れた所に平原があり、その平原の小高い丘にクルコフ子爵は陣地を築いている。丘から見下ろすとユニエイトとブカヒンを結ぶ街道が見えており、帝国軍が侵攻している可能性があるにも関わらず、ユニエイト方面から旅人が来ている。旅人たちに情報提供を求め、兵士が聞いている姿が見える。


 クルコフ子爵はそれを見ながら、

「帝国軍はいったいどこにいるのだ?」

 と呟いた。1日に何度同じことを呟いているのか。部下たちも同じ思いをしているため、何も言うことはない。もしや、帝国軍はヘルソンの方に向かっているのでこちらに何も情報が入ってきていないのでないか?ユニエイトを迂回してギーブの方に攻め入っているのでないか?ユニエイトに引き返したのでないか?この街道を通らずブカヒンに向かっているのでないか?様々な考えが浮かんでくる。

 旅人たちは、ユニエイトが戦火にまみれそうなので逃げてきたと口を揃えて言っているそうだ。


 クルコフ子爵は領軍の6千人余りの中から、5千人を連れてこの場所に来ている。もちろん戦うのは3千人ほどで他は後方支援の人員である。後方支援と言っても、形勢によっては戦闘員として戦闘に加わることもある。帝国軍がどれほどの陣容なのか、情報が入っていない。ユニエイトを出発したのは5千とも1万とも言われている。帝国からサマラに来た帝国軍は1万とも2万とも言われており、要は誰も正確な数字は分からない。敵と面と向かわないと分からないのだ。


「クルコフ子爵様、ポツン村のシモンという者が面会したいと言って来ておりますが、通して宜しいでしょうか?」

 クルコフ子爵はピン!と来た。ポツン村のシモンというのは福音派の長老と聞いている。福音派をまとめて、帝国軍の動静を探っていると聞かされていた。その者がやってきたというのは、帝国軍の動きを知らせに来たのであろう。

「よし、通せ。それから皆を集めよ。おそらく帝国軍の動きを知らせに来たのであろう」

「はい!」

 取り次いだ者は、帝国軍の情報を持って来た者と聞いて、心が躍った。


 シモンは若い男を連れてクルコフ子爵の前にやって来た。シモンは長老と聞いていたが意外と若い。長老というのは、要は指導者の総称なのだろうとクルコフ子爵は考えた。


「クルコフ子爵様、お初にお目にかかります。私はポツン村でタチバナ男爵様の元でビール工場の長を務めておりますシモンと申します。このたびは......」

「シモン、言葉を遮って済まないが、挨拶は必要ない。本題を話してくれないか?帝国軍について情報を持ってきたのだろう?」

「あいや、それは申し訳ございません。おっしゃられるとおり、帝国軍の動きについてご報告に参りました。私どもはタチバナ男爵様のご命令により、ユニエイトとブカヒンを結ぶ街道に人をやって、帝国軍が来るか見張っておりました。それで、帝国軍を視認しましたのでご報告に参りました」

「来たか!」「待っていたぞ!」「やっとか!」「おぉ!」

 クルコフ子爵の周りで様々な声が上がった。誰もが待ちわびていた。ヘルソンの方に帝国軍が向かえば、すぐに援軍として出立しなければならないが、それは帝国軍に対して主力として立ち向かうわけではなく、あくまでも応援部隊なのである。やはり、帝国軍と面と向かって対戦し、撃破したいという気持ちは誰もが心にいただいている。


「帝国軍はどこにいるのだ?」

 クルコフ子爵が聞くとシモンは、

「ここから3日のところにいるのを、この者が見て参りました」

 と横の若い男を指す。

「詳しくは本人から説明させましょう」

 シモンから紹介された男は頭を上げ、話始める。

「私の名前はアンデレと申します。よろしくお願いいたします。では私の見て来たことをご報告致します。先ほど、長老が申し上げた通り、帝国軍と思われる軍団がこの先の道、3日ほどかかる所を、こちらに向かって進んでおります。兵力はここにいる兵力と同じくらいと思います。数えたわけではありませんので、大体同じくらいとしか申し上げられません」

 と一気に話した。それを聞いたクルコフ子爵が

「そうか、ごくろうだった。それで聞きたいことがいくつかある。まず兵力が我々と同じくらいというのは間違いないのか?」

「申し訳ありません。私は帝国軍の周りをぐるっと回って見ただけなので、ここの兵力を同じくらいだろうと思ったので、正直よく分かりません。あんな大勢の軍勢を見たことがないので、あれがどのくらい人がいるのか、よく分かりません」

 それを聞いて、

「何を曖昧なことを言っているんだ!一番大切なことだぞ!」

 と側近の者が怒鳴るが、クルコフ子爵はそれを手で押さえ、

「兵数を正確に報告せよ、ということがそもそも無理なことだ。よほど経験を積んだ者でないと分かるはずがない。だいたい我々と同じくらいというだけでも十分である。それで帝国軍の中身というのはどうだ?戦闘員と非戦闘員の割合はどうだ?」

「戦闘員というのは武器を持ち、兜や鎧を身に付けた者ということでしょうか?それは半々というところだと思います。馬に乗った者が10人に一人くらいでおりました。軍の後ろには延々と馬車が連なっておりました」

「馬車には何が載っていたのか分かったか?武器、食料、生活道具など、何が多いようだったか分かるか?」

「前の方の馬車には武器が載せられていましたが、後ろの方には食料が積んであるように見えました。途中の通過した村で食料を強奪したりすることはなかったようです。買い上げたりはしたようですが」

「買い上げていたのか?」

「そのようです。私と別の者が聞いてきたのですが、買い上げていたそうです。多少色を付けて買い上げていたようなので、村人も奪われるよりは良い、ということで売っていたようです。途中の村々で理不尽なことをすることもなかったようです」


 それを聞いて側近たちが思い思いに言葉を述べる。

「本当か?信じられん」

「帝国軍は食い尽くして進むのではなかったのか?」

「ハルキフ占領のときも、町の者から何も奪うことはなかったそうだぞ」

「そうだな、税も軽くなったと聞いている」

「帝国に治政が変わって町の者は喜んでいるそうだ。景気も良くなり、貴族もいなくなったので暮らしやすくなったそうだ」

 側近たちにもハルキフの帝国軍の侵攻とその後の治政状態が聞こえている。それと比べて、今回の帝国軍の動きについて意見を言う。


「帝国軍は戦後のことを考え、通過した村々で住民に良い印象を持たせているのかも知れない」

 クルコフ子爵が言うと、

「まさか?」

「そんなことまで考えているというのか?」

「信じられません」

 側近たちは否定してかかるが、もしかしたらという気持ちがないわけでない。もしや帝国はヤロスラフ王国の南半分を占領しようとしているのか?と考える。もしそうなら、ブカヒンに向けてだけでなく、ヘルソンに向けても帝国軍が侵攻しているのでないか?と予想された。これまでにない、ヤロスラフ王国の奥に向かって侵攻が始まっているのか?



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