お土産見せる
「さて、私たちがわざわざ来てあげたんだからさ、何かお土産持って来たんでしょうね?」
ニシニシと笑いながら斉藤さんがにじり寄ってくる。堀田さんも期待満々の顔をしている。ここでとっておきのモノを出す。
「これ、ミワさんっていう『降り人』のオレの妻が日本から持って来た本ですけど、興味ありますか?」
興味あるのはもちろん知っているけど、わざと気を持たせて出す。そうすると先に手に取った斉藤さんが、
「え!?何これ?日本の本なの?日本語で書いてあるから日本の本よね?どうして?なんでこんなにキレイなの?え?この子って日本人なの?こんなに目が大きいの?どうしてこんなにスタイルいいの?手足長いし、胴は短いよ?外国人じゃないの?髪の毛の色も違うよ?でも日本語で書いてある。ね、見て、千芳子!」
どれどれと見た堀田さんも、
「えーーーーー!?これって何?髪の毛、茶色だよ?この子たち、不良じゃないの?こんなに短いスカートはいてるの、おかしいでしょ?パンツ見えちゃうよ?」
※注 1960年代はまだミニスカートというものはなく、女性が髪を染めるというのも一般的ではありませんでした。斉藤さん、堀田さんの転移した時代はサザエさんの時代の少し前です。カラーテレビも一般的ではありませんし、テレビ自体もまだまだ普及していませんでした。ちなみに我が家にテレビが来たのは東京オリンピックの時でしたから。もちろん白黒テレビでした。マンガ週刊誌はなく、確か「ぼくら」という月刊誌を買っていたと思います。1冊180円か200円だったと思います。女性ファッション誌ももちろんなかったと思います。専業農家時代のときは米収入がすべてだったので、年一回しか収入がなく、それはそれは貧乏で肉が食卓にのるというのは稀で、それもカレーライスの時だけでした。父が近くの工場に働きに行きだしてから月ごとの現金収入が入り出し、暮らしが上向いたそうです。我が家だけがそうではなく、村の家がすべてそうだったと思います。東京など大都会の暮らし向きが地方に広がるのは1970年代になってからだと思います。注釈長くてすみません。
斉藤さんと堀田さんが異様な興奮の中、オレに山のような質問を浴びせるのが続いた。ポツン村の女性たちは、ミワさんの持って来た雑誌を見て、驚き興味津々で質問攻めにしたけれど、ポツン村の女性たちの根底には『異世界のもの』という認識があったけど、斉藤さんと堀田さんには同じ日本に住んでいたという意識がある。1960年頃と2011年頃でこんなに違うというのは、話で聞いていても情報が視覚で入ってくるというのはまるで違う。こんなんならミワさんを連れてくれば良かったとつくづく後悔した。ファッションや小物などなど、オレの知らないことが多すぎるって。Hの話が普通に語られているのを見て、すごいショック受けてたし。
そんな話はともかく、2人は「もう帰らなくちゃ。夕食準備しないといけないしね」と言って、帰り支度を始めた。
「じゃあ、治療費代わりにこれを持って行ってください」
と言って、白胡椒と白砂糖、そして玄米を出す。
「そぉ、悪いわね。実は待ってたのよ♪」
と斉藤さんが言うと堀田さんも、
「うれしい!やっぱり、これがあると違うのよ。店に売ってるのと全然違うから。お米は子どもが食べないから自分用に取っておくの。特別な日に少しだけ食べることにしてね」
「それでマモルくん、この本、もらっていいのかな?」
斉藤さんが聞いて来た。すごく真剣な目でぐいぐいと迫ってくる。堀田さんも「是非!」という顔をしている。
「マモルくん、もしもらえるなら、この子毎日抱いてもいいから。(と堀田さんの身体をグイと押し出して)こんな千芳子の貧相な身体で満足してもらえるならなんだけど。私は夫のいる身だからちょっと無理なんだし、エヘッ」
斉藤さんがさらっと言った。
「な、な、何言うのよ桂子!?私だって夫のいる身なんだからね!そんな言うなら桂子が抱かれなさいよ!」
堀田さんが慌てながら言う。
「でも私も千芳子もダメみたいよ。ベッドから睨んでいる恋人がいるから」
桂子さんの指さす方にはベッドで毛布で頭を隠しながら目だけ爛々と光らせているミンがいた。
とにかく、本以外は遠慮することなく受け取ってもらえた。そして、明日また来るね、と言いながらホクホク顔で帰っていかれた。なんかすごく疲れてしまった。
部屋に戻るとミンはベッドに座っていた。ミンの側に行き、頭をなでる。
「ミン、良くなった?起き上がって大丈夫なの?」
「うん、元気になったよ。ホントはね、呪文掛けてもらってすぐに良くなった。ちょっと眠ったら体調戻った」
「そっかぁ、良かったよ。心配したんだからな」
「うん、ゴメン」
ミンが座ったまま、オレの腹に頭をコテンと当てる。ちょっと危ない展開になってきた感じがする。ミンが手を握ってきたし。帝都でって言った手前、拒むのはおかしいけど、かと言って今じゃないような気がする。なぜ妻が仮も含めて4人いるハーレム状態なのに何でここで躊躇している自分はおかしい?と思ったりもする。このくらいの距離感でいるのがいいような気がしているんだけどなぁ。
そう思っているとヨハネが階段を上がり、部屋に来たのでそれを利用させてもらった。
「ミン、ヨハネが戻ってきた」
ミンはビクッとしてオレを見上げてきた。すがるような目つきで「無視しようよ?」と言ってるのがわかるけど、それはしないからね。
オレたちの会話の内容を分かっているようにドアがノックされた。
「いいよーーー入ってくれ」
「失礼します」
予定調和のごとくヨハネが入って来た。その表情は冴えない。




