続きが始まって
『Be Silent』を使えば良い、ということはなくて、あれを使うと2人の世界に没頭できるのだが、それは外の世界からの音が聞こえないということになり、イワンの護衛という役割を本来のこの部屋に入った意味がなくなってしまうし。外の声を聞こえるようにするとなると、加減の問題で内の声も漏れることになり、そこはすごく難しい。
聞きたくもない嬌声を聞きながら、ミンを抱きしめている。ミンとこれ以上の展開に進んでしまえば、イワンにミンの声が聞こえてしまうかも知れない。イワンにミンの声なんて聞かせたくないから。
あ、隣が静かになった。ミンも気づいて顔を上げた。ミンの耳元に、
「ミン、分かると思うけど、隣の部屋の声や音が筒抜けなんだよ。ということは、こっちの声も向こうに聞こえるからな。今晩はこれ以上、何もしないから。いいな」
ミンがニッと笑う。「分かっているから、そんなこと」という意味が含まれていそうな。イワンと女の声がボソボソと何か言っている。これで済むなら何も気にする必要はないけど、イワンの下半身ではそんなことはないだろうな。と思ったら、
「ああん......」
という声が聞こえてきた、第2ラウンドが始まったのね。ミンが「ウフフ」と笑ってる。聞き耳立ててなくても聞こえる。こりゃ、終わるまで眠れそうにないな。
イワンの向こう側の部屋でも戦いが始まっていた。向こうの部屋には監視で誰か入れるのかと思っていたけど、お客さんが入ったのか。いや、女将さんと彼が入ったのか?お盛んなようで何よりだ。たぶん、ヨハネがどこかで見張りしているのだろうが、あ、屋根の上にいるのがヨハネか?いつも思うけど、誰にも知られずに屋根に登るというのは、どういう技を使うんだろうか?福音派に伝わる秘伝か何かだろうか?ベンゼだって楽々登っていたもんな。
ミンはいつの間にか、騒音の中で眠っている。約束されたことで安心したのだろうか?飲み屋の中でイワンの部屋とその向こうの部屋の他は動きがない。
イワンの叫び声が聞こえて、もしかしたらコレで終わりかなあ?と期待したんだけど、女の人の大声が
「またぁ!?」
と聞こえて来た。そうよね、そう思うよね。追加料金を頂きたいでしょう?と思ったオレがバカでした。こんな時にフラグを上げてはいけないのだよ。
「いいわ♡」
という声が聞こえたってことは、商談成立したってこと?そのお金はきっとオレが払うんでしょうかね?ボスと折半というわけにはいかないでしょうかね。金が惜しいわけじゃないですけど、イワンの下半身の縦横無尽ぶりで金を払うのが馬鹿らしくなっただけです。
無事に朝になった。当然のことながら、目覚めの一発というイベントが隣の部屋であって、起こされる。いったい、いくら追い金払わないといけないのか心配なんだが、イワンさん。
もう見張っている必要もないので、ミンを連れ下に降りる。この飲み屋は朝食はやってないので宿屋に行かないといけない。寝不足であるが、ミンは嬉しそうに腕に縋り付いてくる。ミンの感情って、寝て起きても維持されるんだ、と驚いた。純情と言っていいのか一途と言うのか、オレとしてはちょっと恥ずかしいけど、嬉しい。ただ、オレが相手で良いのかね?という気持ちは続いているけど。
宿屋でマズい朝食を取っていると、イワンが女を連れてやって来た。オレを見つけるとニマニマニマと笑い、
「タチバナ様、申し訳ありませんが、銀貨をもう1枚頂けませんか?いやぁ、盛り上がっちゃって、放してくれなくて、ついつい」
女の方もニコニコでオレを見ている。当然、出してくれるんでしょうね?という雰囲気が滲み出ている。身体中からセクシャルオーラというのか、夕べはたくさんやった感というのか溢れてますな。これは事情知ってるオレだからそう思うのか、知らなくてもこの2人を見るとそう思うのか、知りたいところだ。
とにかくイワンの息子の始末のために、女に追加の銀貨1枚を渡すと、これ以上ないってくらいの笑顔で
「ありがとうございます♡なんなら、今晩もいかがですか、うふふ」
とイワンの勇猛果敢な息子をなで上げている。それでもうイワンはやに下がっている。後ろにいるヨハネもゲッソリした顔をしているんだから、さっさと移動しような。今晩はなしだぞ、なし!まったく、この金は誰か払ってくれるのだろうか?オレの建替ってことでなく、もしかしたらオレが払うことでちょんとなるのだろうか?ハルキフの臨時職員なのだから、ハルキフの行政府のエラいさんに請求すればいいのかなぁ?いやね、何も払うのが惜しいんじゃないんですよ。宿代や食事代を払うのは仕方ないと思うんです。でもね、イワンの息子が好き勝手する金まで払うというコトに納得できないだけなんです。オレの息子が遊ぶ金だって、オレの小遣いの中から払っているんですよ。それなのにイワンの遊ぶ金を、村の公金から払うのかオレの小遣いから払うのかってこと、重要な問題だと思うんですよ。
ボスたち一行も宿屋に来たのだが、みんな一様に寝不足の疲れた顔をしている。これって彼らも一晩中イワンを監視して警戒していたのだろうか?こんなヤツはほっとけばいいのに、とも言えないしなぁ。帝都が明後日の距離なんだし。
イワンだけ足取り軽く村を出発した。ボスたちは足を引きずるような感じだが、オレからすると、あんたたちは今までこういう仕事をしたことなかったのか?という気もするんだよなぁ。
「イワンよ、足取り、軽いようだな?」
「はい!軽いですよぉ!タチバナ様もそうですね?あれ、ミンさんが今日は笑顔ですね?」
「うん、笑顔だよ!」
「何か良いことあったのですか?」
「うん、あった。帝都に着くの、楽しみ」
「へぇー、帝都に何か良いことが待っているのですか?」
「うん、待ってる」
「それは良かったですね。私はあまり楽しみではありませんけど」
帝都の話になった途端、イワンのテンションが下がる。それっきり会話はなくなってしまった。ミンが帝都に行くのを楽しみにしていると聞いて、ちょっと心が重い。何をするというわけではないけど、イベントとして盛り上がるようなことを考えておかないといけないような気がする。
後ろに付いてきているボスたちが、大変そうである、特にボスが。オレたちが徒歩なので、それに合わせて徒歩なのだが、ボスはいつも、馬に乗っているんだろう。重そうな剣を腰に差して、歩いているもんだから、ただでさえ歩くのがしんどそうなのに、さらに上乗せしている。別にボスだけ騎馬でも良かったのに。そうすれば、ボスが主君でオレらが家来に見えるから、問題なかったのだが、イワンが歩いているのに、自分が騎馬なんて恐れ多いなんて言うもんだから。
何はともあれ、次の村に夕方前に着きましたよ、やっと。




